第九十一話 教えてゼンさん③
ゼンの戦法は、異常なほど長い槍で敵から距離を取りつつ間断なく上から叩くという攻守一体型のものだった。
「今回は二人しかいないので非常に慌ただしくなりましたが、本来は大人数で列になり順番に槍で叩いて相手を封じ込める戦法です。
列が増えればその分順番が来るまでの間が長くなり、一人ひとりの負担が減りますよ」
実に単純な戦法だが、相手との距離が取れて危険は少ないし何より単純だ。これなら今からでも領民たちが身につける事も可能だろう。
「むしろこの戦法のキモは、槍役に的確な指示を出す司令塔なのですが、よろしければ拙僧が担当しましょうか?」
「そうだな、任せる。それと、槍は二人一組で振らせたほうが良くないか? 一人だと結構疲れるぞ」
農作業で鍛えた領民たちでも、慣れない槍を振るのは辛いだろう。
ゼンはなるほど、と即座に俺の提案を採用した。
戦法と担当が決まり、幸先の良い出だしにほっとしていると、思い出したようにゼンが言った。
「あ、そうそう。この戦法には重大な弱点があるんですよ」
「え……?」
え、今さら? 今それ言うの? いや戦の真っ最中に言われるよりはいいけどさ、何で今このタイミングで言うの? もっと早く言ってよ。できれば模擬戦の前に。
「欠点と言っても単純な事なので、それさえ留意すれば何の問題もありませんよ」
俺たちのげんなりした顔を見て、ゼンが慌てて補足する。
「……で、その重大な欠点ってのは何だ?」
「この戦法、見ておわかりの通り正面だけにしか機能しません。なのであまり広い場所に配置しても効果がありません。できれば狭い谷などに敵をおびき出して使う、などの工夫が必要です」
まあそうだな。ほとんど据え物みたいな隊列に、わざわざ向かって来る敵もいないだろうな。
「そして、」
「まだあるのかよ」
「大人数ゆえに機敏に方向転換できず、横や背後から攻められればたちまち終わりです」
「確かに重大な欠点だな……」
簡単で安全で効果大、なんて虫のいい戦法あるわけないとは思っていたが、まさかここまで穴があるとはな……。
とりあえず一つずつ問題を解決していくか。
まず正面しか機能しない問題。これはゼンの言う通り、配置する場所を狭い谷にするとか工夫すれば大丈夫だろう。
「……ん?」
そこで俺は頭の中でこの付近の地図を広げる。
「なあコング」
「何だ?」
「この領地と国境の間に谷なんてあったか?」
「無いな」
はい終了。隊列組んで長い槍で叩く作戦は、残念ながら棄却されました。
そうなると、目の前にあるのは槍に加工する前の木の棒――ではなく、単なる棒である。
「どうするこの棒? 捨てるにはもったいないな」
「燃やしてメシの炊きつけにでもするか」
そう言ってコングが棒をまとめて炊きつけするのに手頃な長さに折ろうとすると、
「あ、ちょっと待って」
ルーンが待ったをかけた。
「何だ? お前も棒が欲しいのか?」
「そうじゃなくて、さっきの作戦、ちょっと考えたんだけど――」
言いながら、ルーンは木の枝で地面に絵を書く。
「こうすればいいんじゃないかな」
下手くそながらも単純でわかりやすいその絵に、俺たちは驚愕した。
そうか、この手があったか。




