第八十四話 おお、バロン
こうして無事に山賊を退治した俺たちは、バロンに別れを告げて北の領地を去った。
その道中。案の定、俺はコングとルーンに挟まれて両方から同時に文句を言われ続けるはめになった。
「なー、何で金じゃ駄目だったんだよー。いーじゃねーか金はいくらあっても困るもんじゃねーしよー」
「そーだそーだ。今は困ってなくても、使えば減るしこれからは戦で出費がかさむんだから、いくらあってもいいじゃないかあ」
ああ、うるさい。まったくこいつらは飽きもせずに金かねカネと……。いい加減うんざりしてきた。
「これで良かったんだよ。むしろ金なんかで済ませたら勿体ない」
「何でだよ。金以上に価値のあるもんなんて滅多にねーぜ」
「あたしはそうは思わないけど、コングの意見には概ね賛成。同盟が無理だとわかったら、その対価ぐらいは請求すべきだったと思う」
これはもう聞き飽きたんで、俺はこれまで何も言わずにいつも通りにこにこしているホーリーに意見を求めてみた。
「お前も金のほうが良かったか?」
「え? わたし? そうねえ、わたしもルーンと同じでお金が全てじゃないと思うけど、お金があれば助かる場面って結構あると思うな」
なるほど。ある意味真理だ。
「けどスレイはそうじゃないって思ったんでしょ?」
「ああ」
「どうしてそう思ったの? それを話してくれないと、この話はいつまでも終わらないと思うな」
「そうなのか?」
ホーリーはそうだよ、と言うとにっこり笑って「リーダーには説明責任があるんだよ」と教えてくれた。初耳だったが、人間のボスには他の動物とは違うルールがあるのだろう。
「わかった。じゃあ説明しよう。
もうみんなわかってるだろうが、バロンはかなりいいとこの貴族だ。あいつやあいつの家を介した人脈は、いつか使えるかもしれない」
「なるほど。貴族とのコネはあたしらには無いものだし、こればっかりはお金じゃ買えないか」
「けどよ、そのコネが使えなかったらどうするんだ?」
「その時は別の形で借りを返してもらえばいいだけだ。大事なのは、俺たちに貸しが一つあるとバロンが思っていればいい。明確な約束じゃないからさじ加減が難しいが、状況に応じて自由に内容を変えられるという利点もある」
俺の説明に、コングたちはなるほど、と感心する。それから少しして、コングが思い出したように言った。
「それに、今同盟を結んだとしても、こっちに大した得はないだろうしな」
「ま、あのお坊ちゃん戦はからっきしだそうだからねえ。足手まといが増えるよりは、先のために貸しを作っておくほうがマシか」
やれやれといったルーンの声に、俺たちは「だな」と頷きあった。




