第八十三話 一つ貸しだからな
「断るだってえ!?」
無駄にでかいコングの声に、バロンの部下と彼らに縛られている山賊たちがこちらを見る。
「一応、理由を聞こうか」
俺の問いに、バロンは神妙な顔で語る。
「全ては、先に話した通りよ」
「あんたが名ばかりの領主ってやつか」
「左様。もしこのまま同盟を結んだとしても、我らはこの地を離れられぬゆえ、そちらに敵が攻めて来ようが何もできぬ。自分たちの領地を守るだけで精一杯なのだ」
もしバロンが俺たちと同じ、自分で戦える男だったら、部下をいくらか残して俺たちの領地に駆けつける事もできるだろう。
だが現実は残酷で、バロンは領地どころか自分の身すらろくに守れないのだ。頼りになる部下は自分と領地を守るのに追われ、とても他所に出張させる余裕など無い。
「つまり、自分たちは助けられるばかりで、こちらを助ける事はできない、と」
「同盟とは、互いに助け合う関係。すなわち対等である事が前提。そもそも我が方には最初から同盟を結ぶ資格が無かったものを、厚かましくもこうして条件を出し、あまつさえそれを果たしてもらってからのこの物言い。重ね重ね申し訳ない」
バロンが深々と頭を下げると、部下たちもそれに倣う。
「なんだよ、結局タダ働きかよ……」
「まあ予想はしてたけど、いいように使われちゃったわね」
骨折り損のくたびれ儲けとばかりに、コングとルーンがその場にへたり込む。完全にやさぐれた二人をホーリーが宥めるが、彼女もこの結果には少なからず不満があるのが雰囲気から滲み出ている。そりゃいくらカミサマとやらが寛容だったとしても、利用するだけ利用して用が済んだらポイされたら許容できないだろう。当たり前だ。
「それで、恥の上塗りは承知なのだが、今回の山賊の件、我らが依頼したという体にしてせめてもの報酬を払わせて頂く、という事でどうにか堪えてはもらえまいか」
金で解決か。まあそれも一つの落とし所だろう。だが俺が欲しいのは、金ではない。
「今は金に困っていないからいらん」
俺がきっぱりと断ると、バロンが困るよりも速くコングとルーンが反応した。
「おいちょっと待て」
「どうしてそういう大事な事を相談もなく即答するかなあ」
この二人がこういう反応をするのは想定済みなので、俺は噛みついてくる彼らを身体で押さえながら続ける。
「俺たちが欲しいのは金では買えないものだ」
「それは一体どういう……」
「既に言ったはずだぞ。この件に関しては、一つ貸しだと思ってくれればいい」
「貸し? それで本当に良いのか?」
いまいち納得がいかなそうなバロンに、俺は頷く。
「今すぐ返せとは言わない。だがこちらが返せと言ったら、すぐに耳を揃えて返せよ。もちろん、色をつけてな」
俺がそう言うと、バロンは俺の真意に気づいたのかにやりと笑う。
「心得た。このバロン、そなたたちの要望あらば、可能な限り尽くさせてもらおう」
こうして、俺たちは北の領地に大きな貸しを一つ作った。




