第八話 初めての敗北
狼の群れに囲まれた俺は、それでもまだ余裕を持っていた。
何しろ狼はどいつもこいつも俺より小さく、軽く撫でただけ簡単に吹っ飛びそうだったからだ。
楽勝だ。俺はそう高をくくっていた。
しかしそれが間違いだと気づくのに、そう長い時間はかからなかった。
狼たちは低く構え、牙を剥き出しにしながら俺を囲む輪を徐々に小さくしていく。
奴らは確実に俺との距離を詰めるまで、襲い掛かってはこなかった。試しに俺が一歩前に出て近くの奴に吼える。そいつは身体を震わせて半歩下がるが、すぐに別の奴が空いた間を詰めてくる。
そうして必殺の陣形が完成すると、群れのリーダーと思しき奴が一際大きく吠えた。
次の瞬間、それを合図に前後左右まったく同時に狼たちが襲い掛かってきた。
さすがに全方位から同時に攻撃されると、俺もどうしようもない。取り敢えず目の前に飛びかかってきた奴らを前足で叩き伏せる。キャンと甲高い声を上げて、何匹か地面に叩きつけた。
だがそれ以外の方向から飛びかかってきた狼たちが、俺の身体のあちこちに噛みつく。いくら俺の硬い毛皮と分厚い皮膚でも、すべてを防ぐ事はできなかった。
肉を噛み切られた箇所から大量の血が流れ出る。血の匂いを嗅いで、興奮した狼たちの士気がさらに上がる。
対して俺は、血と一緒に戦意が身体から流れ出ていく。この身体になってから初めて受ける強烈な痛みの経験に、心がどんどん挫かれていくのを自覚する。
この期に及んで、俺はやっと理解した。
この身体は確かに強い。
だが最強とはほど遠かった。
熊だろうと何だろうと、個の力など集団の前では無力にも等しい。
連携を組んで巧妙に攻撃をする狼たちによって、俺は着実に追い詰められ、
やがて力尽きた。
狼どもが身体に群がる。