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パラサイト戦記  作者: 五月雨拳人
第二章 変わる目的と、その意義
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第七十四話 高潔な男

 そこからしばらく無言が続いた。まるで、俺たちがどうやってこの話を断ろうか考えていると思われそうな、気まずい沈黙だった。

 だから相手が完全にそう思い込む前に、俺は言った。

「数もわからない。どこから襲って来るのかもわからない。こいつは厄介な相手だ」

 消極的に取れる俺の意見に、バロンはやっぱりという顔で溜息をつきかける。だがその吐息が口から出る前に、俺は仲間たちに向けて問う。

「お前らなら、どう叩く?」

「え……?」

 驚くバロンとその部下たち。そして対称的に、待ってましたとばかりに口許を緩めるコング。またか、と言った感じに口をねじ曲げるルーン。そして常に笑顔のホーリー。

「そうだな。俺なら待ち伏せか、商隊の護衛に化けて山賊をおびき出すかな」

 コングが巨体を揺さぶりながら言う。囮というのは悪くはない案だ。だが問題がある。

「こっちには山賊が出るまでのんびり待ってる時間も、危険な囮を買って出てくれる奇特な商隊の当ても無いぞ」

「そうか。じゃあ俺たちが囮になって山賊をおびき出すってのはどうだ?」

「そうだな。それしかないだろうな」

 俺がコングの答え合わせをしてやると、ルーンが諦めたような声を出した。

「わちゃ~、やっぱりそうなると思った……」

「ま、スレイだし当然よね」

 そしてそれを慰めるホーリー。いや、慰めてるのかそれ?

「それじゃあ決まりだ。必要なのは、そうだな、馬車と適当に荷を積んだ荷車。後は旅の商人に見えるような服ってところか」

 作戦という大きな流れが決まると、残りもさくさく決まっていく。当然だ。ここに時間をかけるようでは、冒険者は務まらない。ぐずぐず作戦を練っているうちに、美味しい仕事を他の冒険者に横取りされるからな。

「よし、必要な物は決まったな」

 バロンたちのほうを振り返ると、彼は面食らったような顔でこっちを見ていた。

「――という訳だ。すまんが急いで用意してもらえるか?」

「あ? ……ああ、わかった。すぐにでも用意しよう」

 バロンが指示すると、すぐに部下が調達に出た。彼はその背中を見送ると、疑いを隠さない顔で呟く。

「本当に、やってくれるのか?」

「だからここまで来たんだろう」

「しかし――っ!」

 そこでバロンは言い難そうに言葉を詰まらせる。だがすぐに決然とした表情で続けた。

「書状には、条件を果たしてもこちらが同盟を結ぶとは明言しておらん。つまり、仮にきみたちが山賊を退治しても、我々は知らぬ存ぜぬで通すかも知れぬのだぞ」

 今度はこちらが呆れた顔をする。本当に、今さらな話だ。いや、バロンにしてみれば、俺たちにはっきりと言う事で誠意を見せてくれているのだろう。家はボロいが高潔な男だ。

 俺は面倒臭そうに、大きく鼻から息を吐く。違う。本当に面倒臭いのだ。何しろコングたちに言った事を、もう一回言わなきゃならないんだからな。

「同盟の話は、正直言うと誰も当てにしてない。ただこの領地が敵に奪われでもしたら、残った俺たちが困るんでな。要は自分たちのためにやってるんだ。だがもし少しでも自分らの胸が痛むというのなら、そうだな、一つ貸しだと思ってくれ」

 そして気が向いた時に返してくれ。そう言うと、バロンはぽかんと口を開け、

 やがてそのまま大口を開けて笑い出した。

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