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パラサイト戦記  作者: 五月雨拳人
第二章 変わる目的と、その意義
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第七十一話 北の領主バロン

「止まれ!」

 茂みから姿を現した俺を見て、護衛役の一人が前に出て槍を構える。残りは閣下とやらを下がらせ、周囲を固める。早いし慣れた動きだ。

「誰だ!?」

 俺は戦う意思が無い事を表すために、両手を上げる。

「お前らこそ誰だ」

「賊に名乗る名など無い! それよりお前一人か!? 近くに仲間が隠れていないだろうな!?」

「そいつに答えるのは、お前らの正体を聞いてからだ」

「何だと!」と俺に向けて槍を構える男が激昂する。気位の高い奴は無駄に血の気が多いようで、俺の言葉の端に隠されたヒントに気が付かなかったようだ。

「まあ待て。人に名を尋ねる時はこちらから名乗るのが礼儀であろう」

 閣下はその辺がわかっているのか、前の男を諌めるとこちらに向かって僅かに馬を進めた。

「名乗るのが遅れて申し訳ない。私はここの領主のバロンと申す」

「閣下!」

「構わん。例え相手が誰であれ、礼を欠いては貴族の名折れというもの。戦場であろうと宮廷であろうと、常に優雅で気高くあるのが貴族というものだぞ」

「はあ……」

 閣下――バロンの言葉に毒気を抜かれたのか、男が俺に向けた槍を下げる。

「さあ、こちらは名乗ったぞ。いい加減他の隠れている奴らも出て来ないか」

 やっぱり気づいていたか。なかなか面白い奴だ。

「――だそうだ。おいみんな、いいから出て来いよ」

 俺が背後の茂みに向かって声をかけると、観念したようにコングたちが出てきた。

「ったく、勝手に一人で出て行くなよ。びっくりするだろ」

「そうよ。せっかく隠れたのに、全部台無しじゃない」

「どうせすぐ姿を見せるのなら、初めから言って欲しいんだけど」

 言いながら、ホーリーは服に着いた木の葉や種を手で取り除く。

 姿を現したコングたちに、護衛の男たちに緊張が走った。口々に気勢を上げ、武器を構える。

「お、お前ら、やはり山賊……っ!」

「ようやく見つけたぞ!」

「いや、違う違う。まずは落ち着けよ。話し合おうぜ」

 言っても無駄だろうが、一応否定しておく。

「嘘をつくな! 最初に姿を隠して我らを待ち受けていたのが何よりの証拠! 疚しい事がなければ隠れるものか!」

「いやいや、普通森の中で知らない奴が近づいてきたら、とりあえず隠れるだろ」

「なあ?」と俺がコングたちに同意を求めると、みんな揃って「だな」と頷く。

「それにたった四人の、しかもこんな恰好の山賊いないだろ」

 とは言うものの、俺たちの姿はどう見ても冒険者だった。つまり山賊と大差なく、案の定、説得力が無かった。相手も微妙な顔してるし。

 こうなったら、決定的な証拠を出すしかないか。何よりこれが一番手っ取り早い。俺は懐から、北の領主から返信された書状を取り出す。

「言い忘れていたが、俺たちも一応領主だ。そこのバロン閣下に頼まれて、山賊退治にやって来た」

 俺が書状を投げて寄越すと、閣下はそれが俺たちに向けて送った書状に間違いないと断定する。

「間違いない。この書状、確かに私が送ったものだ」

「で、では彼らは……」

「ああ。どうやら南の新領主たちのようだ」

「まさか本当に来るとは……」

 そりゃそうだろう。普通は来ないし、そっちだって来るとは思ってなかったろうな。とにかく、これで俺たちが山賊じゃないってのは証明できたようだ。

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