第七話 慢心
熊の身体を乗っ取った俺は、もはや森の王と言っても過言ではなかった。
この身体を傷つけられる者はこの周辺にはおらず、俺は他者を一方的に捕獲し喰らう事ができた。
最強とは、こういう事なのだろうか。
自分の命を脅かす他の存在がいないというのを最強と呼ぶのなら、今の俺はまさしく最強だった。
こうして己の強さに自惚れていた俺は、まさに怖いもの知らずだった。我が物顔で森を歩き、あらゆる木に己の縄張りを示す爪痕を刻んだ。こうして森は完全に俺の支配下となった。
だがそれは、そう長くは続かなかった。
熊の身体を手に入れてから二度目の秋を迎えた頃、俺は縄張りの水辺を遠く離れた山の奥に足を踏み入れていた。この身体は食い扶持がかさむので、縄張りを広げる事にしたのだ。
山の中は、今までいた森や水辺と違い未知の領域だった。俺は最初は警戒しながら進んでいたが、すぐに緊張の糸が切れ、森の王者らしく堂々と歩くようになっていた。
そうして新しい景色や空気の匂いを堪能していると、やがて日が暮れた。そして日が沈み、空に月が昇ると、どこかで遠吠えが聞こえた。
狼の鳴き声だった。
狼は、水場では滅多に見かけなかったが、その恐ろしさは十分伝え聞いていた。本来なら、警戒すべき相手だ。
だが己を最強と疑わず完全に油断しきっていた俺は、致命的なミスを犯した。
気がつけば俺は、狼の群れに囲まれていた。