第六十九話 受諾
「え~、やるの? マジで?」
確認というよりは正気を疑うような声で、ルーンが俺に訊く。当然俺は正気だし、ちゃんと考えもある。
「確かに、この条件を果たしたところで、俺たちに見返りは無いかもしれない。いや、きっと相手もそのつもりだろう」
「だったら――」
言いかけるルーンを、俺は右手を開いて見せて制する。
「だがもし山賊の話が本当なら、それが負担となってそいつらが敵にやられると困る」
「別に俺たちは困らんだろう」
「コング、それは少し短絡的だぞ」
「たん……え? なに?」
「やだ、スレイが難しい言葉を使ってる……」
コングやルーンならまだしも、ホーリーに意外そうな顔をされるとさすがに少し傷つく。というか、今までどんだけアホだと思われてたんだこいつ(スレイ)は。
気を取り直し、咳払いをする。
「山賊が原因で満足に戦えず、その領地が敵に奪われてみろ。敵はそこを、この国に攻め込むための拠点にするだろう。だが問題はそこじゃない。
現在国境沿いにある領地は全部で五つ。そのうち一つでも減れば、その分敵が他の領地を攻める戦力を増やせる。つまり、俺たちの負担も大きくなる。見ろ。困るじゃないか」
「お、おう……」
「それに、これは他の領主たちに俺たち新参領主の力を見せるいい機会だ。ついでにそいつらに恩の一つでも売っておけば、後々何かの役に立つかもしれないだろう。まったくの無駄ではないはずだ」
俺の説明が終わると、みんなが感心する。これは俺が珍しくまともな事を言っただけでなく、純粋に話の内容に同意していると感じた。
「そうだねえ、ただでさえうちは敵に目をつけられたんだ。その上他の領地に行くはずだった敵までこっちに来たんじゃ、たまったもんじゃないね」
ルーンはそう言うと、いつものにやりと音がしそうな顔で笑い、
「それに、もしかしたらその山賊が財宝か何か蓄えてるかもしれないしね」
白い歯をきらりと光らせた。
「俺も別にいいぜ。最近瓦礫の撤去ばかりで身体がなまってたんだ。山賊相手に一丁暴れるのも悪かあねえぜ」
コングが右腕を曲げ、ちっともなまってなさそうな上腕二頭筋を見せる。
「わたしもスレイに賛成です。そこの領主の思惑はどうであれ、山賊に困る人々がいるのは事実なのでしょう。だったらその人たちのために、わたしたちができる事をしましょう」
ホーリーは目を閉じ、両手を豊かな胸の前で合わせる。
「よし、話は決まったな。じゃあ今から打ち合わせだ」
俺の提案は、全員賛成だった。すぐさまルーンが地図を開き、件の領地の場所を俺たちに示してくれる。例の領地は、うちより北にあった。
なるほど。こうして地図で見れば、山賊が出るのも頷ける。北の領地は周囲を険しい山に囲まれ、面積のほとんどを山と森に占められている。前は敵国、後ろは山賊に挟まれる形となり、もし示し合わせたように同時に来られたら対処に困るだろう。そりゃ俺たちみたいなのに頼みたくもなる。
「で、いつ出発する?」とコング。
「早くしないと刈り入れが終わって敵が攻めて来るからな。さっさと行って片付けたい」
「そんなに上手く行くかなあ……」
「だったらもう明日出発しちゃいましょう。善い事は、思い立ったその時にせよと神も仰ってますし」
そんな急な、と驚いたが、ホーリーとカミサマがそう言うんじゃ仕方ない。
というわけで俺たちは早速北の領地へと向かう事にした。




