第六十五話 まだ見ぬ味方は敵と同じ
行水を終えて屋敷に戻ると、ルーンが俺とコングの着替えと身体を拭くための布を持って待っていてくれた。
「まあ、言いつけたのはあたしだから、これくらいはね。それより早く拭いて着替えなよ。ホーリーのご飯が冷めちゃうだろ」
ぶっきらぼうに言って俺たちに布の塊を投げつけると、ルーンは自分だけさっさと食堂に行ってしまった。
洗濯したての匂いがする服に着替え終わると、俺たちも食堂に向かった。歩が進むにつれいい匂いがする。今夜のメシも美味そうだ。
食事の最中、俺は気になった事をルーンに訊いてみた。
「そう言えば、書状はとっくに書き上がったと言ったが、どうやって送るんだ?」
「え? どうって、普通に人に頼んで届けてもらうんだよ」
ルーンはあっさりと言ってのけると、食事を再開した。どうやらこの話はそれで終わりらしい。
「そうか……」
てっきり魔法とか使い魔とか、魔法使いならではの手段を使うのだと思っていたが、俺の期待は見事に裏切られたようだ。
「なにその目? もしかして、魔法とか使って欲しかった?」
無意識にスレイの顔をそうさせていたのか、ルーンが恐ろしいほど的確に俺の考えを読んできた。彼女は食事の手を止めこちらをじっと見ると、明らかに小馬鹿にするような感じでフンと鼻を鳴らした。
「あんたバカじゃない? これから同盟を結びませんかって手紙を送るのに、魔法とか使い魔とか怪しいもん使ってどうすんのよ? 相手が警戒しちゃうじゃない」
なるほど。いくら冒険者などで魔法使いの存在が世に知れ渡っているとはいえ、まだまだ魔法や魔法使いを奇妙に思う者も多いだろう。これから懇意になろうかという相手に、余計な心配を与える事もあるまい。
「それに、こちらに魔法使いがいる事が知れたら、もし向こうが敵になった時に対策立てられちゃうじゃない。余計な情報は極力与えないほうがいいのよ」
「……そうか」
どうやらこっちが本当の目的のようだ。しかし言ってる事は間違いではないが、味方になる前から敵になる心配をするのは、何とも世知辛い話だ。
「とにかく、書状の件はもう手を打ってあるから、後は色よい返事が来る事を願って待つだけよ」
そう言うとルーンは器を手に持って口許に引き寄せ、一気にかき込んだ。そして空になった椀をテーブルに置くと、
「いっけない、忘れてた」
懐から五つの書状を取り出した。
「スレイ、これにサインしといてよ」
「え?」
ルーンが俺の前に書状を滑らせる。
俺は目の前の書状を見て、固まった。
「サイン?」
「そ。領地同士の同盟を提案する書状なんだから、領主のサインが無いと意味無いでしょ」
「だったら、別に俺のじゃなくても……」
「なに馬鹿な事言ってんの。ここの代表はあんたでしょ。あんたがサインしなくて誰がすんの」
ルーンにぴしゃりと言い切られ、俺はそれ以上何も言えなくなる。
「今すぐじゃなくてもいいけど、明日出すんだから朝までには全部にサインしといてね」
「お、おう……」
参ったな。サインなんてした事ないぞ……。




