第六十二話 復興作業
屋敷でルーンが書状をしたためている間、残った俺たちは馬に乗って領地の見回りに出た。
一夜明けただけの領地内は、当たり前のように戦の後が生々しく残っている。戦闘員を五人一組にする作戦が功を奏し、人的被害は最小限に食い止められた。だが敵が荒らした畑や火をつけられた家などの物理的被害はどうしようもなかった。
「結構酷くやられたな」
コングの呟きに、俺も「ああ」と小さく返すしかできなかった。
敵を領地内に入れなければ、もっと被害は抑えられただろう。だがそれでは狭い入り口で敵の流れを細くするという作戦が使えなくなり、敵は広い場所で悠々と戦う事ができる。その結果として五人組が機能しなくなって、今度は人的被害が増すという危険性があった。人も物も両方守る、というわけにはなかなかいかないものだ。
「ま、家や畑はまた作ればいい。人の命はそうはいかないからな」
俺の心境を見透かしたかのように、コングが笑って俺の肩を叩く。少々わざとらしいが、今は染みるものがあった。
しばらく馬を並べてだく足で領地内を見て回っていると、「おや?」とコングが前方に何かを見つけた。
見れば、焼け落ちた民家を数人の領民たちが解体しているところだった。男たちは焼け残った柱や壁を崩し、女たちは瓦礫の撤去をしている。みんな灰や炭で身体中真っ黒にしながら、懸命に作業していた。
「まだ柱や基礎が残ってるのに、それも取っ払うのか」
俺が思った事を口に出すと、コングがふふんと鼻を鳴らして自慢気に説明してくれた。
「火事や焼き討ちで残った柱や基礎は、大丈夫そうに見えても中が傷んでたりしていつ崩れるかわからんからな。
だったら下手に残して建て直すより、最初から全部やり直したほうが早いし安全安心ってなもんよ」
「なるほど」
俺が感心していると、コングは俺から離れて馬を焼けた民家に向けて進ませた。
そして馬から降りると、
「おう、手伝うぜ」
と服が汚れるのも構わず勝手に手伝い始めた。
「そんな、領主様。おべべが汚れっちまう」
「そうですよ。こういう事は、俺たち領民の仕事でさあ」
いきなり混ざってきた領主に、領民たちは慌ててコングを止めようとする。だが彼はいつもの男臭い笑みを浮かべて、
「なあに構わんさ。それに領主だと言っても、俺は冒険者からの成り上がり者だ。屋敷でじっとしてるよりも、こうして身体を動かして汗を流しているほうがよほど性に合っている」
そう言うと大の男数人でようやく持っていた柱を軽々と肩に担ぐ。その常人離れした筋力に領民たちは舌を巻いたが、すぐに打ち解けて一緒に作業するようになった。
「おい、お前も手伝えよ」
炭で黒くなった顔のあちこちに汗を浮かべながら、コングが俺に向かって手招きする。
「……そうだな。手伝おう」
俺は馬を降りるとその辺の木に手綱を結わえつけ、コングたちの所に歩いて行った。




