第六話 (・(ェ)・)
目が覚めると、春になっていた。
熊は俺を食べるとねぐらに篭もり、そのまま長い眠りについた。その間に俺は熊の脳を乗っ取る事に成功したのだが、身体の主導権を奪った途端に耐え難い睡魔に襲われた。
本能から要求されるような強烈な睡魔に耐え切れず、結局俺の意識はそこで途絶えた。
そうして目が覚めてねぐらから出てみると、眠る前は冬の景色だったのが春になっていたのだ。
いきなり季節が変わっていて混乱したが、この身体の持つ本能はこれが正常だと告げていたので、すぐに落ち着く事ができた。どうやら熊というのは、冬の間はねぐらにこもって冬を寝飛ばす生き物のようだ。
こうして改めて熊生活を始めた俺は、まずはこの身体がどれだけの身体能力を持っているか見極める事にした。
するとどうだろう。その巨体から鈍重そうな印象があった熊の身体は、想像以上に高い身体能力を持っていた。
走って良し。
泳いで良し。
木に登って良し。
当然戦って良し。
あえて欠点を挙げるなら空が飛べないのと、前足が短いという肉体的構造上、下り坂を駆けるのが苦手といったところだろうか。
そこさえ目をつむれば、高い防御力を持つ分厚い皮膚と毛皮。その下にある豊富な筋肉から生み出される攻撃は、強靭な爪と合わさる事によって絶大な破壊力を生む。まさに攻守そろった完璧な肉体である。
最強の肉体を手に入れた俺は、かつて棲んでいた水場を中心にかなり広い範囲を縄張りにして支配した。
だがその栄華は、あまり長くは続かなかった。