第五十五話 単騎駆け
コングに持ち場を任せ、俺は戦場の奥へと急いだ。
途中でいくつも団子になった集団を見かけるが、ほとんどが一人の敵に対し、領民五人で取り囲んだ理想的な状態だった。これならよほどの事がない限り、とんでもない被害が出るという事はないだろう。俺は安心して先を急ぐ。
さすがにもう敵のほとんどは入り口を通ったようで、開け放たれた防柵の前には五人しか敵が残っていなかった。
だがよく見たらそいつらは入り口を通っただけでそれ以上領地の中に入ろうとはせず、馬に乗ったままじっと中の様子を見ているだけだった。
こいつらか――コングの話からそう直感した俺は、馬を巡らせて全速力で駆ける。
近づくにつれ、他の敵に比べて明らかに身なりの良さが目についてきた。俺の予感が確信に変わる。
「何奴!?」
俺の接近に気づいた敵の一人が、一番偉そうな男を庇うように構えた。そこまでされたらもう間違いねえ。
「お前が大将か!」
大声で問いながら、俺は剣を抜く。ドラゴンを斬り殺した剣は、刀身自らがほのかに光を発しているかのように、真昼の陽の下でもぼんやりと輝いていた。
「いざ尋常に一騎打ちを申し込む!」
剣を頭上に高々と上げ、俺が宣言する。だが敵は俺の申し出を無視し、側近の四人をこちらに向かわせた。
「臆したか、この卑怯者め!」
「馬鹿め。貴様のような凡夫の申し出など、わざわざ受ける義理など無いわ!」
嘲笑とともに、四つの騎兵が迫る。さすがに大将を護る側近。四人の動きは他の雑兵たちとは練度が桁違いだった。
だがそれは、所詮はヒトの域での話。
ヒトのみならず、無数の人外怪物たちと戦ってきた冒険者スレイの敵ではない。そしてスレイの身体は、俺が操る事によって容易にヒトの粋を超える。
とくと見よ。これがドラゴン殺しの剣だ。
四人の側近は、俺と剣を交える事すらできなかった。
正確に言えば、剣を合わせる事はできた。だが俺の剣は奴らの剣ごと胴体を真っ二つにしたのだ。さすがドラゴンすら斬り殺した剣だ。人間なんか紙切れ同然だぜ。
さて、これで邪魔者はいなくなった。後は残った敵の大将を片付けるだけだ。俺は馬から落ちた四人の身体を一瞥し、視線を敵の大将に向ける。
「残るはお前だけだ。さあ、覚悟を決めて俺と戦え!」
……と言った先に、敵の姿はなかった。見れば、大将は側近の四人が殺られたのを見るや否や、全速力で馬を反転させて逃げ出していた。
「あ、コラ! 逃げるな!!」
まったく、どこまで卑怯で臆病な奴だ。仮にも大将なら、部下の仇を討つぐらいの根性を見せろってんだ。
とはいえ、本来なら敵の大将が逃げ出した時点でこちらの勝ちなのだが、このまま逃がしてしまうと次は今よりも多い戦力で攻め返しに来るだけだ。
だから、やるならば徹底的にやって、二度とこちらに歯向かうどころか、そんな気すら起きなくなるくらいやってやらないといけない。中途半端が一番だめだ。
というわけで徹底的やるべく、俺は逃げた大将を追いかけた。




