第五十四話 誤算
五人組の的にならなかったはぐれの敵を蹴散らしながら、俺とコングは馬を駆る。入り口でもたつかせる作戦と相まって、領地の中に入って来た敵はさほど多くはなかった。ほとんどが五人組に足止めされ、俺とコングはそこから漏れた敵を片づけていく。
しかしながら、このスレイの身体はとんでもないな。馬に乗れるのもスレイが持つ技術だが、何より戦闘に関する能力が半端ない。今さらながら、自分を殺した相手がどれほどの強さを持っていたか思い知らされる。そりゃドラゴンだって殺せるさ。
それに今になって気づいたが、スレイたちの持っている武器や防具も最初会った頃に比べて格段に向上してる。もしかするとこいつらって、今や世界でも指折りの冒険者になってるんじゃないだろうか。いや、実際ドラゴンを殺せる人間なんて、数えるほどしかいないだろう。そう考えると、この身体って最強に近い部類に入るのではなかろうか。
いや、今はそんな事を考えている場合ではない。俺は頭を切り替え、戦闘に集中する。敵は油断している雑魚とはいえ、数だけはこちらの数倍いるのだ。
「しかしキリがねえな」
大人の身長ほどもある巨大な剣を片手で軽々と振るって、コングは愚痴と一緒に刃に着いた血を地面に払い落とす。
領地内に侵入してきた敵の数が増え、少し前からこちらの戦闘員の数を超えてきた。必然俺たちが担当する数にも限界があって漏れが出てきたのだが、そちらはまだ今のところルーンの魔法で何とかなっている。
しかしこのままだといずれ俺たちの手をすり抜けて最終防衛ラインを越えられるだろう。そうなったら非戦闘員しかいないあそこはもう終わりだ。そうなる前に、この戦を終わらせられなければ俺たちの負けだ。
焦る気持ちを抑えつつ、俺は探した。
敵の大将の姿を。
「くそ、どこだ!」
「おい、さっきから何を探してるんだ?」
「決まってるだろ。敵のボスだよ」
「はあ? 何言ってんだお前。大将がこんな所にいるわけないだろ」
心底呆れたというコングの表情を見て、俺はもしかしたら自分がとんでもない勘違いをしているんじゃないかと気づく。
「なあ、コング」
「何だ?」
「人間の――じゃない。こういう連中の大将って、戦場のどこにいると思う?」
「そりゃあお前、決まってるだろう。戦場の一番後ろさ」
「なにっ!? 大将は戦場の最前線にいるもんじゃないのか!?」
「アホかお前は。一番偉い奴は一番安全な場所にいるって相場が決まってるんだよ」
「何だそりゃ!」
やはり大きな勘違いをしていた。つい自分の尺度でボスは戦場の一番前にいると決め込んでしまっていたが、人間の、特に軍隊という組織では偉い奴ほど戦場から遠い場所にいるらしい。そりゃいくら探しても見つからんわけだ。
「で、敵の大将を見つけてどうするつもりだ?」
「決まってるだろ。大将さえ取れば、この戦は終わる」
「そう上手く行くかねえ。っつか、そういう大事な話は戦が始まる前に相談しろよ」
それを言われると何も言い返せない。何しろお前らはかつての敵だし、そしてこの俺はお前らの仲間であるスレイの身体を乗っ取った敵だ。信じろというのが無理な相談である。
だが、その結果がこの始末だ。反省するのは後にして、今この場だけは彼らを信じてみるか。
「コング、ここは任せていいか?」
二人でやってもおっつかない数なのに無茶な注文だったが、コングはにやりと男臭い笑みを浮かべると、
「任せろ」
二つ返事で了解してくれた。なんて頼もしい奴だ。
「頼んだ!」
俺は礼を言うと同時に馬を走らせた。ここから先はさらに時間との勝負だ。




