第五十三話 いざ実戦
領民たちはそれぞれの訓練に励み、領地の中は威勢のいい掛け声に満ちていた。
俺たちの訓練は厳しいが、それが自分たちの命や家族を守るものだと思えばやり甲斐も出るというもので、訓練が終わった後はみな充実したような清々しい顔で家路についたり再び仕事に向かっていった。
だが領民たちを訓練する日々は、あまり長くは続かなかった。
敵が攻めてきたのだ。
昼過ぎに敵が国境を超えたという報せを聞いた俺たちは、直ちに戦闘員を配置につかせ、非戦闘員は領主の館――つまり俺たちの家に避難させた。館は領地の奥の小高い場所に建っているので、防衛基地としては最適だった。
それから領地を囲む防柵に近い部隊に、柵の一部を開いて通路を開けさせる。
「ねえ、せっかく柵で防いでるのに、どうしてわざわざ道を開けてあげるの?」
ホーリーの当然の問いに、俺は答える。
「あの程度の防柵なんか、ほとんど意味がない。下手に防ごうとして壊されても、また直すのが面倒だしな。それにああして一箇所開けてやれば、敵があそこを通るだろうから進路がよくわかる」
「けど、あんなにあからさまに道が開けてあったら、警戒して通らないんじゃない?」
「普通ならそうだろうが、相手はこちらを完全に嘗めてるからな。罠があろうが、それすら蹴散らしてやろうって調子に乗って来る可能性が高い」
感心したようにホーリーが「へ~」と俺を見る。その目はルーンと違って、純粋に俺の考えに感銘を受けているようだった。
そして間もなく、敵が姿を現した。
噂通りこちらを相当嘗めてるのか、敵は斥候も出さず丸ごと進軍してきた。だが相手がこちらを見くびっているなら好都合。領民たちが訓練通りに雑魚の足止めをしている間に全てを終わらせる。
俺の策通り、敵は防柵の開いた箇所から侵入してきた。前の奴がそこを通れば、後ろを着いてきている奴らもつられて同じ所を通ろうとするのが人間というものだ。その結果、他にいくらでも場所はあるのに、みんなが同じ場所を通ろうと渋滞ができる。馬鹿だなあ、こいつら。
そして馬鹿正直に狭い隙間から入ってきたため、隊列が縦に伸びたところを待機していた領民たちが横から襲いかかる。乱れる隊列。散らばる兵隊。よしよし、いい感じだ。
次々と出来上がる五対一の戦闘。当然数はこちらのほうが少ないから漏れる敵のほうが多いが、それでも何割かはその場に足止めされていた。さて、そろそろ俺たちの出番か。
俺は馬に乗り、大声を上げる。
「行くぞ、コング!」
「おう!」
「ホーリーは負傷者の手当をしながら、時間を置いて俺たちを追ってくれ」
「それじゃあわたしのやる事があんまり無いよ?」
「いいから、俺が敵のボスを倒した頃に着くぐらいが丁度いい。それまではケガ人の治癒に専念しててくれ」
「よくわからないけど、わかった」
「ルーンは弓と魔法で援護を頼む」
「りょーかい。味方への援護優先でいいんだよね?」
「それでいい。敵を減らすより、味方の被害を減らしてくれ」
「あ~い」
ふりふりと手を振るルーンに背を向け、俺たちは馬の腹に蹴りを入れた。途端に地面から身体が浮くような感覚とともに、景色が物凄い勢いで後ろに流れた。




