第四十九話 領民
俺たちがクソ王からもらった領地は、常在戦場の国境付近地帯だった。
想像していた通り、領地には敷地をぐるりと取り囲むように防柵が張ってあり、領民たちはその中で田畑を耕したり牧畜を飼育していた。
だがその防柵も、いざ戦が始まれば屁の突っ張りにもならないようで、敷地の中だというのに全焼した民家や荒らされた農地が放置されていた。
ゆっくりと馬を進ませながら、領地を見て回る。もちろんこんな風に荒れている領地など、国境の近くならいくらでもある。別段ここだけが特別ではない。この世界は、常にどこかで誰かが殺し合いをしているのだ。
「こいつは酷いな……」
想像以上に凄惨な領地の姿に、コングが太重い声で呟く。だが本当に酷いのは領地だけではなく、新しくやってきた領主の俺たちを見る領民の視線でありその表情だった。
ああ、またろくでもない奴らがやって来た。
顔にそうありありと書いてある彼らの目には、俺たちに対する希望や期待は何一つ無かった。きっと、誰が来たって自分たちの暮らしは全く変わらないと諦めきっているのだろう。どいつもこいつも人生にも戦にも負けて疲れた、負け犬の目だった。
気に入らない。
こいつらの顔は、領主に全てを丸投げして自分たちはその庇護下に甘んじようという腐った根性の持ち主の顔だ。自らが武器を取って率先して外敵と戦おうという気概を持った奴など誰一人としていない。
たしかに領民とは群れであり、領主とは群れのボスだ。ボスは群れから色々なものを献上される代わりに、身体を張って群れを守らなければならない。それがボスの責任だ。
だがその責任はボス一人だけに課せられたものではない。そもそも群れとは一つの共同体だ。ボスは当然だが、それ以外の奴も群れのために何かをする義務は多少なりともある。いざとなれば、身体を張るくらいはしなければならない。少なくとも、俺が今まで属してきた群れには、ボスにおんぶに抱っこされて当然という甘えた奴はいなかった。
だがこいつらはどうだ。こいつらの腐った性根は、狼やゴブリンにも劣る。俺はそれが気に入らなかった。
「わたしたち、これからどうしたらいいんだろう……」
幸先不安という感じ丸出しのホーリーの問いに、俺は一も二も無く答えた。
「まずはこいつらを徹底的に鍛え直すぞ」
一方的に俺が奴らを守るとでも思っていたのか、ホーリーたちは信じられないという顔で俺を見た。




