第四十一話 脱出
斬り落とされた俺の首は、スレイの思った以上に地面を転がり草むらに消えた。
『おい、そいつの首だけは失くすなよ。ギルドに依頼遂行の証拠として提出するんだからな』
『わかってるよ……っと、どこまで転がったっけ?』
生い茂る草に隠れた俺の首を探して、スレイが近づいてくる。
見つかってたまるか。
俺はボスゴブリンの脳に張り巡らせた触手を解除して、頭部の穴という穴から突き出す。そうして擬似的な足として使い、静かに奴らから離れた。
こんな所で死んでたまるか。
何としても生き延びて、必ず奴らに復讐してやる。
だがそのためには、どうにかして他の生物に寄生しなければ。この身体はもう長くはもたない。俺自身は誰かに寄生していないと、そう長くは生きられないのだ。
当然だが、すでにボスゴブリンの生命活動は停止している。このままだと腐敗して脳が腐るか、俺ごと乾燥するかのどちらかだ。
刻々と迫り来る死の気配に、俺は焦る。地面を蹴る触手の力もすでに頼りない。そしてついに力尽き、体勢を崩した俺は草の斜面を転げ落ちる。
もう駄目か……。こんな所で俺は終わってしまうのか。悔しさと怒りで張り裂けそうになった俺の耳に、
狼の遠吠えが届いた。
その声に気づく。周囲の景色に見覚えがある事を。
俺は、無意識のうちにかつて狼だった頃に憶えた奴らの縄張りに足を向けていたようだ。
やがて草を踏む足音がいくつも近づいてきて、奴らの鼻息すら聞こえるようになった。
ああ、生き延びた。
この時だけは、恨みや怒りを何もかも忘れ、それだけを噛み締めた。




