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パラサイト戦記  作者: 五月雨拳人
第一章 生きる目的と、その意味
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第三十九話 別れ

『いつまでお喋りしてるんだ。雑魚相手だからって気を抜くな』

 コングの声に、他の三人が緊張感を取り戻す。それまでの団欒とした雰囲気が一瞬で殺気に塗り潰され、今が戦闘時である事を思い出させる。

『さっさと終わらせるぞ』

 コングが腰を落として低く構えた。一撃で数匹のゴブリンをまとめて蹴散らしたあれを、もう一度やるつもりだ。あんなのをまともに食らったら、俺とゴブ夫など簡単にバラバラになって、どっちがどっちの部品だかわからないくらい混ざっちまう。

 逃げなければ。だが、どこへ。どうやって。

 それに、俺が逃げたら、ゴブ夫が――

 俺が迷っていると、ゴブ夫が震える声で背中越し言った。

「オレガ囮ニナル。ソノ間ニボスハ逃ゲロ」

「何だと……」

「ボスガイレバ、群レハマタデキル。ボスダケデモ生キ残ッテクレ」

「ふざけるな。お前を見捨てて俺だけ逃げるなんて、そんな真似ができるか」

 怒りに任せ、俺はゴブ夫の肩を掴んで無理やり振り向かせる。

「な……」

 声が出なかった。

 ゴブ夫の顔は涙と鼻水にまみれていた。

 こいつは、死の恐怖に耐え切れずにぼろぼろに泣きながら、それでも自分が囮になってる間に逃げろと言ったのか。

「……馬鹿野郎」

 噛み締めた歯の間から、ようやくそれだけが言えた。

「オレ、群レノ中デ一番弱イオ荷物ダッタ。ダケドボスガ、コンナオレヲ拾イ上ゲテクレタ。オレ、モノスゴク嬉シカッタ。

 ボスガモウ一度ボスニナッテカラノ毎日、今マデ生キテキタ中デ、一番楽シイ日々ダッタ。

 ダカラ、ボスハココデ死ンジャダメダ」

 そう言うとゴブ夫を俺を思い切り突き飛ばした。その勢いで振り返り、冒険者たちに向かって全速力で走る。

 最後に奴はこう言った。

「アンタガボスデ良カッタ」

 すまん……。俺は叫び声を上げながら走っていくゴブ夫に背を向け、逃げ出す。

 絶対に生き延びて――

 次の瞬間、ゴブ夫の声が消えた。

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