第三十八話 冒険者たち
火の玉を撃ってきた奴が潜んでいる茂みに、俺とゴブ夫以外の全てのゴブリンが襲いかかる。次に火の玉を撃つ前にそいつを片付けられれば、俺たちが生き延びる確率はかなり上がるはずだ。
だがそれよりも先に、人間の大男が木の陰から飛び出してきた。
大男は全身を金属の鎧で固めた上に、自身の身の丈はあろうかという巨大な盾を手にしている。その姿はまるで鋼鉄の壁で、ゴブリンなどではとても太刀打ちできないと感じた。
そして悲しい事に、俺の感じた事はすぐに現実になった。
『フンッ!』
大男が気合を込めて突進する。盾を構え、全力を込めた体当たり。ただそれだけで、数匹のゴブリンがまとめて轢死体となって四散した。
そして大男の突進の的に含まれなかったゴブリンは、傷の男の剣で一瞬にして斃された。
圧倒的だった。
これまで襲って殺してきた人間と同じ種族とは、とても思えなかった。奴らは泣いて怯えて殺されるだけの、狩られる側の生き物のはずだった。
しかし目の前の人間たちは、逆だった。
この場では、奴らが狩る側で、
俺たちが狩られる側だ。
血生臭い風に混じって、口笛が聞こえた。音のしたほうを見れば、いつの間にか大男の背後に、傷の男が剣を肩に担いで立っていた。
『相変わらずとんもでない馬鹿力だな、コングは』
男の軽口に、コングと呼ばれた大男が『フン』と鼻で息を吐いて盾を横に振り払うと、今しがた弾き殺したゴブリンたちの血や肉片が地面に飛んだ。
『お前が貧弱なだけだ』
短くコングが言い返すと、茂みに隠れていた奴が顔を出す。
『そりゃコングに比べたら、スレイじゃなくたって誰でも貧弱に見えるでしょ。そもそも、あたしはあんたがスレイやホーリーたちと同じ人間ってのが信じられないね。ホントはオーガの血が混じってんじゃないの?』
耳の尖った銀髪の女が、茂みから上半身だけ出している。女が大男を皮肉るように言うと、その隣から別の若い金髪の女が顔を出し、『や、やめなよ~ルーン。いくらコングだって、そんな事言ったら傷ついちゃうよ?』と慌てて窘める。
だがこんな事は日常茶飯事なのか、コングはまったく意に介した様子もなく尋ねる。
『それより、そいつで最後か』
『他と違って護衛がついてたからね。恐らくそいつがここのボスだよ』
尖り耳――ルーンの言葉に、コングが再び『フン』と鼻を鳴らす。
『もう終わりか。簡単な仕事だったな』
『そもそゴブリン退治なんて、あたしたちがする仕事じゃないのよ』
『しょうがないよ。スレイが困ってる人を見捨てられないのは、いつもの事じゃない』
しょうがないと言いながらも、金髪女――ホーリーの顔は嬉しそうに笑っている。その無垢な笑顔に、ルーンは呆れたように溜息をついた。
『ホーリー、いつも言ってるが、あたしたちは慈善事業をしてるんじゃないの。普通はこんな雑魚相手の安い仕事は、初心者冒険者がやるんだ。だいたいこんなはした金じゃ、いつもの仕事の十分の一以下よ。これじゃ呑み代にもなりゃしない』
文句をつけるルーンに、傷の男――スレイが答える。
『ここのゴブリンたちは妙に戦い慣れてるって話だったから、初心者だと返り討ちに遭うかもしれない。それならば、俺たちがやるしかないじゃないか』
『だからって、あたしらが出る必要は無いじゃない。初心者だろうがベテランだろうが、仕事に想定外はつきものだし。それをわざわざ取り払ってやる義理なんて――』
『困ってる人がいたら、助けるのは当たり前じゃないか。金額の大小は関係ないよ』
それに、と言葉を継げるスレイの表情は、それまでの好青年のものではなく、目に見えた怒りや憎しみ、そして狂気に似たものを孕んでいた。
『こいつらは村を襲って食料を奪ったばかりか、あまつさえ村人を鏖にして焼き討ちしたんだ。しかも一つや二つじゃない。
こんな邪悪なものをこれ以上生かしておけば、この先どれだけ被害が増えるか分かったものじゃない。だから今ここで、すぐにでも根絶やしにするんだ。
いや、しなきゃいけないんだ』
男が何を言っているのか分からないが、確実に分かった事が二つある。
一つは、俺たちはやり過ぎてしまった事。
そしてもう一つは、この男は危険だという事だ。




