第三十六話 奇襲
それからは、破竹の勢いだった。
俺という指揮官、そして狼の統率力と戦闘力を得たゴブリンたちの前に、もはや敵はいなかった。
僅か一ヶ月で、俺たちは周囲の他のゴブリンの群れを制圧し、縄張りを五倍に広げた。そしてその勢いは留まる所を知らず、その後の一ヶ月でさらに縄張りを拡大していった。
だが領土を拡大し、群れを大きくするにも限度があった。土地はともかく、食料が足りなくなってきたのだ。
俺たちの縄張りは、とうとう野山では足りずに人間の生息圏ぎりぎりにまで広がっていた。
本来なら、これまで通り人間には手を出さず、山奥でひっそりと生きていく道を選んでいた。だが、度重なる連勝の美酒に寄った俺たちの勢いは、もう誰にも止められなかった。
それが、破滅の始まりだった。
最初は山に近い小さな村だった。
夜中に畑から作物と、家畜をいくらか盗んだ。
成功に気を良くした俺たちは、さらに大胆になった。番犬すら寝静まった深夜に村を襲い、人間は残らず鏖にして家屋には火を放って焼き討ちした。
武器を持って抵抗する人間も中にはいたが、俺たちの敵ではなかった。こうして人間から食料を奪う事を憶えた俺たちは、益々調子に乗った。
それから村を三つ襲ったところで、遂に人間の反撃が始まった。
冒険者がやってきたのだ。
奴らは、俺たちが完全に寝入った昼間に襲ってきた。
下っ端のゴブリンが煙の臭いに気づいた時には、奴らは洞窟の入口で生木を燃やし、大量の煙を洞窟内に送り込んでいた。
そうして煙で混乱したゴブリンたちが洞窟から慌てて出たところを、待ち構えて順番に殺す。奴らにしてみれば混乱した昼間のゴブリンを殺すなど、蟻の巣に小便をかけて、這い出てきたのを踏み潰すくらい簡単な仕事だっただろう。
洞窟の最奥部にあるボスの部屋にいた俺は、当然一番最後にこの異常事態を知った。
「大変ダ! 人間ガ攻メテ来タ!」
ゴブ夫が俺に報告に来た時には、もう群れの半分は奴らに殺されていた。
完全に出遅れて、
手遅れだった。
急いで武器を取り、戦闘員を集める。中央の広場にも濃い煙が立ち込め、集まった戦闘員の少なさに早くも絶望が漂う。
それでも、このまま洞窟の中に留まっているわけにはいかない。煙で燻しだすのが無理だとわかるや、煙の中に毒を混ぜるくらいは平気でやってくるだろう。そうなったら、逃げ場の無い洞窟内にいたら死ぬのを待つだけだ。
生き残るためにも、攻めに出るしかない。
俺たちは覚悟を決め、洞窟の出口に向かって駆け出した。




