第三十二話 決闘
新ボスの号令によって、群れの全てのゴブリンが洞窟中央の広場に集まった。
決闘の舞台は、ゴブリン全員に取り囲まれた輪の中で行われる。これは逃げも隠れもできない、そして勝負の結果がすぐに全員に伝播する絶好の決闘場だ。
そして目の前には、両脇に側近のゴブリン二匹を侍らせて余裕の表情を浮かべる新ボス。改めて見ると、さすが元二番手と言うだけあってか、体格といい面構えの凶悪さといい中々のものである。
「ホ、本当ニヤルノカ?」
俺の背後で世話ゴブが情けない声を出す。
「当たり前だ。それに、ここまで来て今さら引き返せるかよ」
周囲は興奮したゴブリンたちに囲まれている。飛び交う歓声や野次に怯え、世話ゴブは縮み上がる。
歓声がさらに大きくなる。見れば、新ボスがゆっくりと輪の中央に歩み寄り、側近の二人は輪の外に引っ込んだ。
「そろそろ始まるぞ。離れてろ」
「死ヌナヨ……」
「おう」
俺が笑って返事をすると、世話ゴブは何度もこちらを振り返りながら輪の外に出た。それを見届けてから、俺は輪の中央に向かう。
新ボスと対峙し、互いの息がかかる距離で睨み合う。体格はほぼ同じ。ボスゴブリンの記憶にある限りでは、こいつに負けた事は無い。だがこいつのこの余裕は何だろう。俺が知らない間に、こいつは俺に勝てる自信でもつけたのだろうか。それとも、俺の足のケガを見て勝てるとでも思っているのか。どちらにしろ、その鼻っ柱をへし折ってやらないと周囲に示しがつかない。可哀想だが、ここは一発徹底的にやって完膚なきまでに叩き潰しておこう。
決闘に、合図など無かった。
いきなり新ボスが仕掛けた。野獣のように力任せに組み付き、喉元を牙で食いちぎろうとする。奇襲としては及第点で、これまでだったら一瞬で押し倒され、馬乗りになられてそこで終わっていただろう。
だが、この身体はもう以前のボスゴブリンのものとは違う。俺が脳に入り込み、身体能力を限界まで引き上げている特製のボスゴブリンだ。当然、反応速度から筋力まで何もかも違う。
俺が体当たりを真っ向から受け止めると、新ボスの身体がぴくりとも動かなくなった。まさか止められるとは思っていなかったのか、驚愕の表情を浮かべている。
力を込めてさらに押し込むと、新ボスが力負けして後退る。同じような体格なのに圧倒的な力の差を見せつけられ、新ボスの驚きがさらに大きくなる。
俺は短期決戦に持ち込むべく、新ボスの身体を持ち上げた。こうして周囲にわかりやすく自分の力を見せつけつつ、相手の自尊心をへし折るのだ。
新ボスを持ち上げたまま、ゆっくりと輪の中を一周する。歴然たる力の差を見せつけ終わると、仕上げとばかりに力一杯新ボスを地面に叩きつけた。
その瞬間、勝負ありとばかりに大歓声が上がった。




