第二十七話 チャンス!
ちょっと待てよ。またリンゴ狩り? 狩り場なら、以前滅ぼした他のゴブリンの縄張りとか、他にもいっぱいあるだろ。なのにまたリンゴ? お前らどんだけリンゴ好きなんだよ。
頭の中でいくつも悪態をついたが、とにかく俺は後をつけた。移動中にボスゴブリンに隙ができるかもしれない。
だが俺の期待は虚しく、ボスゴブリンは終始周囲を手下に守らせ、隙どころか距離を取って尾行するのが精一杯だった。もしかすると、コイツ結構頭いいのか。
結局、ゴブリンたちは以前リンゴを採りに来た場所に到着した。俺はその様子を前回よりも離れた場所で見守る。何故距離が増えたかと言うと、腹の虫の音が聞こえるのを避けるためだ。
リンゴの甘酸っぱい匂いに胃が刺激され、しくしく痛む。口から溢れる涎と胃の痛みに耐えながら見張っているが、相変わらずボスゴブリンは一人にならない。今度こそ諦める頃合いか――そう思っていると、ボスゴブリンが号令をかけた。
するとゴブリンたちが、リンゴを採りに一斉に散らばった。その中にはボスゴブリンを警護していた連中も混じっている。
つまり、今ボスゴブリンは独り。
今だ!
口内に溜まった涎を撒き散らす勢いで駆け出す。狙いは当然ボスゴブリン。
空腹と焦りは、それまで考えていたできる限り静かに近づこうという作戦を一瞬で脳内から消失させた。
最後の力を振り絞って全速力で駆けると、蹴った草が盛大な音を立てる。それでも構わず俺は走る。幸いリンゴの樹に登るゴブリンたちの嬌声で、俺が近づく音は目立たなかった。
背後からボスゴブリンに近づく。奴が気づいてこちらを振り向いた時にはもう俺は地面を蹴り、奴の足に飛びかかっていた。
全力で噛み付く。
牙が肉に食い込むと同時に、俺は狼の脳に最後の指令を叩き込む。そしてすぐさま脳を離脱し、鼻腔内を通って口内に移動。
焦る。
俺が傷口に到着するより先にボスゴブリンが反撃したら、その刺激で口が開いて牙が抜けてしまう。そうなったら何もかもおしまいだ。
祈るような気持ちで、必死に触手を動かす。運良く口内は唾液で滑り、練習よりも早く移動できた。
見えた。ボスゴブリンのふくらはぎに食い込んだ牙。牙と肉の境界線に滑り込む。
と同時に突然狼に襲われて混乱していたボスゴブリンが正気に戻ったのか、反撃の気配。手に持っていた武器を深々と狼の身体のどこかに突き立てたようだ。
「ギャンッ!」
痛みを受け、反射で悲鳴を上げた狼の口が開く。
瞬間、牙が傷口から引き抜かれる。
露わになる傷口。
そこから堰を切って溢れ出る血液の中に、俺は飛び込む。
やった!
こうして俺は、ボスゴブリンの体内に侵入する事に成功した。




