第十四話 戦争
わずかな睨み合いの後、両陣のボスが同時に吠える。
それが火蓋を切る合図だった。気が触れたような叫び声を上げながら、ゴブリンたちが一斉に駆け出す。そして波の如き先陣がぶつかると、そこから先は単純な殺し合いだった。
初めて見る、凄絶な殺し合いだった。ゴブリンたちの戦いは、これまで経験した食うか食われるかという自然の行為とは違う何かを感じさせる。
だが、彼らの戦いはどうも稚拙だった。
両陣ともただがむしゃらに手に持った武器を相手に叩きつけ合うだけで、俺の思っていた武器を使った戦闘とは遠くかけ離れていた。これなら狼同士の喧嘩のほうがまだマシに見える。
どうやら下っ端のゴブリンは、武器を十分に扱えるほど知能が無いようだ。せっかく自由な前足と強力な武器を持っても、それを十分に使いこなす知能が無いと無意味だ。これは少し、考えを改めたほうが良さそうだ。
俺が次の寄生先からゴブリンを外そうと考えていると、戦況が変わってボス同士の一騎打ちが始まった。
向こうのボスも、やはり他のゴブリンより身体の大きさが一回りは大きい。特徴は歴戦を物語る傷だらけの顔と、右の耳がちぎれて半分になっている。わかりやすく『半耳』と呼ぼう。
半耳とボスゴブリンは睨み合いの末、同時に襲い掛かる。両者の振るった武器がぶつかり合い、硬い音と火花が戦場に散った。
力比べが始まり、武器を隔てて両者の顔が近づく。お互い牙を剥き出して威嚇すると、弾かれたようにまたも同時に離れた。
それから二度、三度とぶつかっては離れるを繰り返す。両者の実力は伯仲しており、このまま戦いは長引くかに思えたその時、
ボスゴブリンがにやりと笑った。
次の瞬間、半耳の顔が苦痛に歪む。
見れば、半耳の背後に倒れていた死体だと思っていたゴブリンが、突然上体を起こして半耳の足を切りつけたのだ。
一騎打ちだと思い込んで周囲に対し無警戒だった半耳は、伏兵の一撃によって足の腱を断ち切られ倒れた。
俺は思わず卑怯な、と声を上げそうになって、すんでのところで踏みとどまる。
これは戦争なのだ。
戦争に卑怯も何も無い。
俺同様、相手が正々堂々と一騎打ちを受けると信じた半耳が愚かなのだ。むしろこの場合、死体のふりをした伏兵を潜ませたボスゴブリンの知恵の冴えを賞賛するべきだろう。
半耳は動かなくなった足を引きずり、それでも果敢に武器を振るった。その姿は、さすが群れのリーダーとなるほどの者だと言えるだろう。だが所詮は無駄なあがきでしかなかった。最後は周囲を取り囲まれ、一斉に斬りかかられて全身を斬り刻まれた。
ボスゴブリンが半耳の首を高らかに抱えて大きく吼える。
鬨だ。
こうして戦は終わった。




