第百三十六話 密談
やはり何か目的があってやって来たか。
俺は自分の予感が当たっていた事に満足すると、部屋の外に向かいかけた身体を反転させ、再びゼンと向かい合った。
「そうだな。寝るにはまだ早いし、もう少し話をしていこうか」
俺が話をする姿勢を見せると、ゼンは待ってましたとばかりに床にあぐらをかく。どうやら長い話になりそうだ。
「さてと、何から話しましょうか?」
俺も床にあぐらをかくと、ゼンが口を開いた。
「そうだな、まずはどうしてここに来たか。その理由から話してもらおうか」
「わかりました。――とは言うものの、スレイ殿ならもう察しがついているでしょう」
「いきなりあちこちで戦が始まった事か」
俺が答えると、ゼンは「左様」と頷く。
「拙僧が見ても明らかに不自然な事態。しかも戦の中心には」
「虫がいる」
再びゼンが「左様」と頷く。
「虫が軍の中枢で指揮を取っているだけならまだしも、拙僧が見ただけでも結構な数が敵国に間者として潜り込んでいましたな」
「そうやって敵国に侵入し、その国を中から掌握していくんだよ」
「何故にそのような事を?」
俺はゼンにセンキの事と、奴の計画を話す。
「まさか、そんな……」
話のあまりのとんでもなさに、さしものゼンも言葉を失ったようだ。
「俺も最初は『まさかそんな』って思ったんだよ。けど現実に今こうして奴は虫を使って世界を支配しようとしている」
ぬう……、とゼンが重苦しそうに唸る。
「これは……拙僧が思った以上に事態は深刻なようですな」
「誰が予想できるんだこんなもん」
「だとしても、とんでもない事を考える虫がいたものですな」
言いながら、ゼンは尻をずらして座り直す。
「それで、スレイ殿はどうなされるおつもりですかな?」
「え? 俺が? 何を?」
唐突に話を振られ、俺は思わず訊き返す。するとゼンは「またまた」と冗談でも言われたみたいな顔をする。
「そのセンキとやらを止めるおつもりなのでしょう?」
「……どうしてそう思うんだよ」
「だってセンキとやらは世界中の人間をまとめて間引こうと目論んでいる。となると、スレイ殿の大事なここの領民たちもその対象だ。それを黙って見てるとは拙僧にはとてもとても思えません」
今度は俺がぬう、と唸ると、ゼンはにやりと笑った。
「お前の言う通り、黙って見てるつもりは端から無い。だが相手は天下の大将軍だ。たかがいち領主がどうこうするには相手が遠すぎるんだよ」
「なるほど。戦を仕掛けるにしても相手はすでに隣国を取り込んで戦力が倍増している。いかに奇略計略を弄しようと、圧倒的物量の差は如何ともし難いですな」
ゼンは自分で言って「こりゃ参りましたな」と頭を掻く。そりゃそうだ。俺が何日も前から頭を悩ませている問題だ。そう簡単にどうにかできるもんか。
――と思っていたら、
「そうだ!」
ゼンが妙案を思いついたとばかりに手を叩く。
「ここは一つ、少数精鋭で攻めてみるというのはどうですかな」
よほど自分の案に自信があるのか、ゼンは目を糸のように細めて俺を見る。
対して俺は悪い予感しかしなかった。