第百三十五話 あの男、再び
次の戦まで間もない中でどうやって領民たちを訓練しようか悩んでいた時、その男は現れた。
そして彼がもたらした作戦は、見事に敵を打ち破った。
その彼が去り、今また新たな危機に貧している。
するとどうだろう。あの頃の再現かと思うようなタイミングで、あの男が帰ってきた。
「どうも、お久しぶりです」
その男――ゼンは出会った時と同じ表情と声で村に現れた。変わった所といえば、よく陽に焼けているくらいだろうか。そういや南に行くと言っていたな。
「ゼンさん!」
領民から報せを受けて飛び出したホーリーたちは、元気そうな彼の姿を見て歓喜した。
「これはこれは皆さん、お元気そうで何よりです」
「ゼンさんこそ、傭兵なんて物騒な仕事してるわりにはぴんぴんしてるじゃない」
ルーンの軽口にゼンが「そう言えばそうでした」とおどけて返すと、どっと明るい笑い声が起こる。そうしてしばらく旧交を温めていると、コングが思い出したように言った。
「ところで、今日は何しに来たんだ?」
「寒いのが厭だから南に行くって言ってたけど、こっちの春はまだ先だよ」
確かに。真冬に比べるとずいぶん暖かくなってはきたが、それでもまだ冬だ。南に比べたら全然寒い。
「拙僧が向かった南でも戦が激化しましてな。元より戦の途中で抜けた不義理がある身ではありますが、ふとそちらの様子が心配になったので一度様子を見に来たというわけですよ」
「まあ、それでわざわざ」
大変感銘を受けた、という感じでホーリーが両手を胸の前で組む。
「そうだよ。心配してくれるのは嬉しいけど、こっちの戦はとっくに終わってるからね」
「まったく坊さんってのは世情に疎いな」
対してルーンとコングの反応はさっぱりしたものだ。まあ実際戦が終わってから傭兵に来られても仕事は無いので仕方ない。
「やや、そうでしたか。それは何と間の悪――いや、戦が無いのは良い事でしたな」
屈託なく笑うゼン。それを見てまたみんなも笑う。
「まあせっかく来たんだ。ゆっくりしていってくれ」
「そうだ、またうちに泊まりなよ」
俺の言葉をルーンが補足する。
「しかし、傭兵ではない拙僧にはそちらにお世話になる理由が……」
「遠慮すんな。どうせ部屋は余ってるんだし、南の話を聞かせてくれよ」
「でしたらお言葉に甘えて」
こうして俺たちはゼンを客人として館に迎えた。
晩飯はいつになく賑やかなものになった。
ゼンの土産話はどれもこれも面白く、また語るゼン自身が面白おかしく身振り手振りを加えるもので、内容が物騒な南の戦の話だろうがみんな口に入れた夕食を吹き出さないように我慢するのが大変だった。
そして食事が終わり、俺はゼンをかつて使っていた使用人の部屋に案内する。
「またここか。今度は客人だから客室を使ってもいいんだぞ」
「いえいえ。野宿で固い地面に寝るのに慣れると、柔らかい寝台だと逆に寝つきが悪くなるので、こちらのほうが有り難いのですよ」
わかる。
「じゃあ長旅で疲れただろう。今日はもう休むか?」
俺が気を利かせて部屋から去ろうとすると、
「それよりも、少しお話をしていかれませぬか」
ゼンが神妙な顔でこちらを見た。