第百三十三話 調整
「全部俺に丸投げかよ……」
目覚めは最悪の気分だった。
俺は上体を起こし、スレイに呼びかけてみる。
応答は無い。どうやら俺が眠って支配力が落ちている時ぐらいじゃないと、スレイの意識はまだ俺に介入できないようだ。
次に夢で会えたら、文句の一つでも言っておこう。
などと暢気にしている間に、またもや情勢が大きく変わった。そして腹立たしい事に、俺がそれを知るのはいつも手遅れになってからなのだ。
神ならぬ身で何と身の程知らずな。
所詮俺はただの虫だというのに。
だが今この世界を動かしているのは、皮肉にも俺と同じ虫なのであった。
唐突に隣国との戦争が始まり、呆気なく終わった。
思えば、これはまだ始まりに過ぎなかったのだ。
センキにしてみれば手慣らしというか手始めというか、計画の最初の一歩を踏み出しただけのものだったのだろう。そしてその試みは、彼の思った通りいとも簡単に成し遂げられた。
これにより、虫を使えば国なんて簡単に手に入るというのが証明されてしまった。そうなれば、センキは手に入れたばかりの隣国を足がかりにし、四方八方の国々に宣戦布告するだろう。
――という俺の浅はかな考えは、見事に外れた。
確かに時を置かずして戦は起こった。
だが今度は隣国に接している二つの国が戦争をおっ始めたのだ。
他国同士の戦争が始まったと聞き、夕食後の食堂は臨時の会議室に変わった。
ルーンがテーブルに地図を広げる。
「今度の戦はこことこの国」
言いながらルーンが指差すのを、俺たちは目で追う。
地図上で見れば、それはまるでこの国から始まった戦火が隣国を通って枝分かれし、他国に向かって広がったかのようだった。恐らくこの戦争が終われば、今度はこの二つの国に接している四つの国が戦争を始め、そうやって放射状に倍加していくと思われた。
そしていずれはこの大陸を戦争で埋め尽くすだけでは飽きたらず、戦火は海を渡り他の大陸へ。果ては世界全土が戦争になるだろう。
「こっちの戦争が終わったと思ったらすぐに他所で戦争かよ。いったいどうなってやがんだ」
コングの疑問に答えられる者はいない。俺だってそうだ。こいつらよりは持ってる情報が多いだけで、せいぜい予想ができる程度である。それだってどこまで当たっているか定かではない。予想はあくまで予想だ。正解はセンキしか知らない。
それでも敢えて予想をするならば、これは間引きの始まりだ。
前回の戦争は、虫でも国が侵略できる事を確認するためだった。
そして今回の戦争は、各国の人口を効率よく間引くためのものだ。戦争ほど人間を効率よく減らす手段はない。
つまり、このまま戦火が広がっていくと、センキの計画通りに人間の数が激減する。それこそ、羊飼い(虫)が管理しやすい数にまで。
夢物語だと侮っていた話が、どんどん現実味を帯びてきやがった……。




