第十三話 進軍
ゴブリンを直接見たおかげで、俺は四足歩行をする動物の肉体に限界を感じるようになった。
彼らの用いる道具や武器に比べると、狼の牙や爪は心許ないものに思えてきたからだ。
そりゃあ個々の強さに関して言えば、むしろ狼のほうがゴブリンよりは強いだろう。だが話が集団戦闘になると、やはり武器を持ったゴブリンに旗が上がると思う。数や地形などが同じ条件で戦った場合、きっと狼は武器を持ったゴブリンには勝てないだろう。
そして俺の予想を裏付けるものが見れる日が、ついに来た。
ゴブリンの巣を見張り始めてから数日後、とうとう奴らが動いた。
狩りの日だ。
先頭の奴が出て来た瞬間、その顔つきの険しさでわかった。以前のリンゴ狩りのような、遠足気分とはわけが違う。食うか食われるか、命のやり取りをしに行く前の、張り詰めたものが全体に漂っていた。
ボスの顔つきも違う。すでに戦闘状態に入っているのか、興奮しすぎて頭の血管が切れそうになっている。他の連中もその雰囲気に中てられて興奮状態だ。
ゴブリンたちは夜の澄んだ空気を味わう事もせず、ボスの号令に従って歩き出した。狩場への移動だ。俺は後をつけた。
夜の森を黙々と移動するゴブリンたちを追跡していると、先頭のボスが野鳥を真似た声で号令をかけた。どうやら獲物が近くにいるようだ。他のゴブリンたちは即座に停止し、神妙な面持ちで身構える。
月光の下、しばらく待っていると薄闇の向こうから気配がした。
狼の嗅覚が、臭いの種類と数を告げる。俺は臭いの意味が、一瞬理解できなかった。
何故なら、現れたのは別のゴブリンの集団だったからだ。
新たに現れたゴブリンの姿に、今までも十分濃く蔓延していた殺気がさらに濃度を増す。
まるで落ち合うようにして出会った二種類のゴブリンたち。その意味に気づいた時、俺は自分の勘違いを恥じるよりも先に戦慄した。
これは狩りなんかじゃない。
戦が始まるのだ。




