第百二十九話 手紙
翌朝。
朝食をとりに食堂へ向かうと、途中でルーンと出会った。
「おはよう」
「はよ~」
朝の挨拶を交わしてふと見ると、彼女は一羽の白い鳥を胸に抱いていた。大きさは鶏ほどだが、鶏と違って筋肉が多く余分な肉が少ない。いかにもよく飛びそうな感じだが、可食部位は少なそうだ。
「朝飯に食うのか?」
俺がそう言うと、ルーンはぎろりと睨んだ。
「ンなわけないでしょ。この子はあたしの使い魔で、手紙を届けてもらうの」
手紙。そう言えば昨日そんな話をしたな。よく見てみると、鳥の足には書簡を括りつけるための筒が装着されている。
「使い魔は隠しておくんじゃなかったのか?」
「それは同盟を結ぶ前の話。それにあたしが魔法使いだってのは山賊退治の時にバレちゃってるし、何より今は時間が惜しいから」
「なるほど」
徴兵隊がいつ北の領地に向かうかわからない現状、時間は貴重だ。それに鳥ならひとっ飛びだしな。
「この子ならお昼にはこの手紙をバロンに届けられるしね」
「そいつは凄い。馬とは比べ物にならないな」
俺が褒めるとルーンは「でしょ~」と我が事のように喜んだ。使い魔は魔法使いにとっては我が子に等しいと聞くが、彼女もご多分に漏れないようだ。
先に鳥を放ってから朝食にするというルーンと別れ、俺は食堂へと向かった。
食堂には珍しくコングが先にいた。どうやらこれまでずっと寝ていたので、身体がなまるのに耐え切れず朝から軽く運動してたらしい。病み上がりだというのに元気な事だ。
それからしばらくするとルーンが戻って来て、四人で朝食をとった。話題はもっぱらこれからの事だった。だがいくら心配したところで、俺たちの話が王都に届くにはまだまだ時間がかかるだろうし、そこから話がどう転ぶかはわからない。結局はなるようにしかならないというところで話はまとまった。
そして翌日。
なんとバロンからの返事がもう返ってきた。
そして俺たちはその内容に驚愕する。
「来てない……だって?」
そんな馬鹿な、とルーンの俺たち全員の意見を代弁した声が食堂に響く。
「まだ着いてないだけじゃないかしら」
「まさか遠いし雪が積もってるからって行かないつもりじゃねえだろうな」
それこそそんな馬鹿な事があるか。王都からこれだけ離れた俺たちの領地にまで徴兵隊は来たのだ。少し遠いとか雪が積もってるくらいの理由で奴らが北の領地まで行かないはずがない。
それとも、バロンの実家はそうとうな貴族だと聞くから、それが関係したのだろうか。何にせよ、納得しかねる話である。
「あ、でもまだ続きがあるよ」
そう言ってルーンが手紙の続きを読む。
内容は、こちらにはその徴兵隊なる者は来ていないが、もし仮に来たとしても自分も同じく領民を兵に出すつもりは一切無い。なので俺たちがやった事を咎めるつもりは微塵もなく、むしろ良くやったというものだった。
「良かった……」
ほっとホーリーが胸を撫で下ろす。
「まあバロンならこう言うだろうとは思ってたが」
「本当にあいつは根っからの貴族だな」
「剣の腕はからっきしだけどね」
ルーンがからかうように言うと、俺たちは一斉に笑い出した。
ちなみに以前頼んでおいた、隣国がどうして執拗に俺を目の敵にするのか、その調査報告も書いてあった。
それによると、どうやら俺が両手両足を切り落としたのは隣国の第三王子だそうで、王位継承権の上から数えたほうが早い人物を再起不能にされたため、国の威信をかけてこの領地を潰そうと躍起になっていたそうだ。
今さらだけど、悪い事したなあ……。




