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パラサイト戦記  作者: 五月雨拳人
第三章 収束する意思
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第百二十四話 わざとじゃない

 陽はとっくに沈んでいる。

 このまま何もしなければ、コングたちは朝までには死ぬ。

 残されたわずかな時間で俺にできるのは、もうこれしかない。

 俺は大きく息を吸い込むと、寝台の縁に両腕をつく。そしてそこで眠るホーリーの顔に自分の顔を近づける。

 ゆっくりと顔を近づけ、彼女の苦しそうな息遣いを感じられるほどの距離で顔を止めると、

「んうぇっ」

 俺自身がスレイの口から出て来た。

 俺はホーリーの顔に着地すると、急いで彼女の鼻の穴から体内に侵入する。そこから先は慣れたものだった。鼻腔内から脳に到達し、素早く触手を接続する。

 だが彼女の意識は奪わない。余計な接続をするとそれだけ俺の注意が他に割かれるからだ。今はただ深い眠りに入ってもらうだけに留める。目的は彼女の身体を乗っ取るわけではないのだ。

 俺は自分の身体をホーリーの脳に固定すると、宿主の免疫機能を向上させる体液を分泌した。体液は血液によって体内の隅々まで巡り、すぐに効果が現れるはずだ。

 俺が体液を分泌してしばらくすると、ホーリーの呼吸が目に見えて落ち着いてきた。体温もゆっくりではあるが下がり始めているので、どうやら峠は超えたようだ。

 良かった。何とか上手くいったようだ。

 俺は彼女の脳にわずかも傷をつけないように慎重に触手を外すと、静かに身体の外に出た。

 入ってきた時と同じく鼻の穴から外に出ると、スレイの身体がとんでもない体勢になっていた。

 なんとホーリーの胸に顔面をうずめている。病気を何とかする事ばかりに気が向いていたため、スレイの身体を固定するのを忘れていたのだ。

 危なかった。念のためにホーリーの眠りを深くしといて良かった。もしスレイの顔が胸に落ちた衝撃で目を覚ましていたら、その後どんな事になるか想像するだけでも恐ろしい。

 俺は急いでスレイの脳に戻る。一度体外に出たせいか触手を接続した時に違和感があったが、すぐに元の感覚に戻った。

 身体の指揮権を取り戻した俺の耳に、ホーリーの心音が届く。彼女の心臓は今は安定して鼓動を刻んでいる。呼吸も楽になったようで、胸の上下が一定に保たれている。っと、いつまでも胸に顔をくっつけている場合じゃない……。俺はゆっくりとホーリーの胸から顔を離し、静かに彼女の部屋を後にした。


 それから俺はルーンとコングに同じ事をした。

 二人とも俺の分泌した体液が効いてきたのか、症状も改善してずいぶんと楽になったように見えた。

 けど同じ体液を体内に注入したはずなのだが、三人ともスレイほど劇的に症状は改善しなかったのが気になった。

 まあこれはきっと虫との相性というか、慣れみたいなものもあるのだろう。いきなり虫の体液を注入されて、身体がどう反応していいか困っているのかもしれない。

 何にせよ三人とも危機は脱した。このまま安静にしていれば、明日には目を覚ますだろう。

 俺はふと思いついてにやりとする。

 その時こそ、爺さんにもらったあの苦そうな薬を飲ませてやろう。

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