第百十九話 徴兵隊再び
それから何日か何事もなく過ぎた。
てっきりあの小男らがトンボ返りして来ると思ったのだが、本当に日を改めてくれるとは案外いい奴だったのかもしれない。今度来たら茶の一つでも出してやろうか。
などとくだらない事を考えていたら、幸運な事にコングたちのほうが先に買い出しから戻って来た。
良かった。これもひとえに俺の日頃の行いがいいからだろう。俺は喜び勇んで彼らを迎えに村の入口まで行った。
俺が村の入口に着くと、樽やら木箱やらを山積みした荷車を引いているコングたちと鉢合わせした。
彼らの到着に駆けつけた俺を見て、
「気持ち悪いな。出迎えとはどういう風の吹き回しだ」
開口一番コングは失礼な事を言った。その後「ははあん」と何か思いついたような顔をして、
「そんなに一人で留守番してるのが寂しかったのか?」
さらに失礼な事を言った。馬鹿野郎、冗談はお前の顔だけにしろ。
俺とコングが掴み合っていると、ルーンが後ろを振り返って言った。
「ねえ、なんか来たよ」
その視線の先には、先日追い返した徴兵隊がいた。
「何だあいつら?」
十人ほど騎兵を引き連れた物々しい集団に、コングが不審感を露わにする。その時俺は集団の中に前回見なかった外套を目深に被った奴がいるのに気づいて頭が痛くなる。
「げ、なんか増えてる」
「知ってるの?」
思わず声に出してしまったのを、耳聡いルーンに聞かれる。別に隠すつもりはないし、折を見て話そうと思っていたのだけれど、心構えの無いところに急に現れたので慌ててしまい、何から説明すればいいのかわからなくなる。
「何だか怖い」
不安げなホーリーの声に、コングたちの緊張感が高まる。
奴らとの距離はもうすぐそこまで来ている。今から全部説明するのは間に合わない。だから俺は一番大事なところだけ話した。
「あいつらは王都から来た徴兵隊だ」
「徴兵隊?」と三人の声が揃う。
「ああ、お前らがいない時に来たんだ。隣国との戦争に兵が足りないから、ここの領民を徴収するって」
「……で、スレイは何て返事したの?」
訊きたくないけど訊かないとどうしようもないと言った感じでルーンが尋ねる。見事に信用されてない……。
「返事も何も、俺一人で判断できる事じゃないから後日改めて来てくれって言ったんだよ」
その言葉を聞いて、三人が盛大に安堵の息を吐く。
「良かった~。スレイの事だから怒って追い返したのか思った」
「するか、そんな事」
しそうになったけど、お前らとの約束を思い出したから何とか堪えたんだよ。
「それで、急な話で悪いがみんなに相談したい」
みんなが頷く。
「俺はここの人間を一人だって出したくない。みんなはどうだ?」
期待を込めた視線で一同を見回す。すると思った以上に即答だった。
「俺もスレイに同意見だ。戦争なんて軍隊だけでやりゃあいいんだ。俺たちにゃあ関係ない」
「あたしもそうかな。お上に逆らうのは正直気が引けるけど、人の命を物みたいに扱うのはもっと気が引けるな」
「わたしも戦争は厭。だから絶対反対」
見事な全員一致の反対に、俺は嬉しくなる。
俺はにやりと笑う。
「それじゃああいつらには――」
みんなも笑って言った。
「お引取り願いますか」




