第百十五話 買い出しに行こう
開戦からしばらくすると、情報が入りにくくなった。
何故かと言うと、情報源である行商人がほとんど来なくなったからだ。国境に近いこの領地は、他と比べて戦火に巻き込まれる危険性が高い。なのでこの時期にわざわざ好き好んで足を運ぶ行商人は少ないのだ。
情報と同時に物資も入って来なくなった。こうなると領地内での自給自足にも限界がある。食料や燃料はまだ何とかなるが、生活物資は職人がいないとどうにもならない。
「こうなったら町に買い出しに出るか」
夕食の席で俺が言ったひと言に、
「お、いいね。いっちょどっさり買い込むか」
「多めに買って、北の領地にも持ってってあげたらどうかな」
「それいいわね。あ、調味料とかもどうかな? 同じ食材でも味つけや調理法が変わると気分も変わるし」
あれよあれよという間に話が進んでいった。
しかし一つ問題がある。
「けど、こんな時にあたしらみんなが村を出たら、もしもの時どーすんの?」
毎度の事ながら、領主四人がこぞって領地を離れてしまうと、有事の際に何もできずに領民たちが危険に晒されてしまうという問題がある。いつもはホーリーやルーンが留守番を買って出てくれるのだが、今回はそうもいかないようだ。
「あたしちょっと欲しいものが……」
「わたしも……新しいお鍋とか、あとお洋服用の布なんかも買いたいなあって」
どうもヒトのメスというのは揃いも揃って買い物が好きなようで、今回ばかりは一歩も引かないという堅い決意が見えた。
だが女二人だけで町へ行くとなると何かと物騒だし、大量に買い溜めするのだから荷物の量も相当になるだろう。となると当然護衛兼荷物を運ぶための男手が必要なのだが。
「よし、俺も行こう」
俺が話を振る前にコングが名乗りを上げた。
「どうせお酒目当てでしょ。やめてよね。業者でもないのに樽買いなんて」
ルーンに一発で見破られ、
「あったりめーだろ。他にお前らの荷物持ちする理由があるかってんだ」
すぐさま開き直るコング。二人ともいい歳なんだがまるで子どものようだ。
「いいよ。俺が留守番してるから三人で行って来いよ」
「え、いいの!?」
三人が同時に振り向く。その満面の笑顔たるや。
「いいよ。俺は特に欲しいものはないし、コングなら護衛にも荷物運びにもうってつけだろ」
「でもスレイ一人だと、食事とかどうするの?」
「ガキじゃないんだから十日やそこら自分で何とかするさ。……って言うかまず最初にメシの心配されるのかよ」
「それもあるけど、スレイ一人ってのがねえ……。何かあった時にちゃんと解決できる?」
「できる、とは言い切れないが、手に余ると判断したら保留にしてみんなが戻るまで待つよ。それから相談する」
俺の答えを聞いて、コングたちは何やら話し合い始める。しばらくひそひそと小声で相談してたかと思うと、「よし」と一斉に頷いた。
「わかったよ。ここはスレイを信用して留守を任せるけど、本当に余計な事しないでよ?」
「なるべく日持ちするご飯いっぱい作っておくからね」
「俺たちがいないからってあんまり羽目を外すなよ」
そりゃこっちの台詞だ。しかし本当に信用がないな俺……。




