第十一話 亜人との出会い
狼としての生活の中で、様々な事を俺は学んだ。
そうして学んだ事の中に、俺の興味を強く引いたものがあった。
どうやらこの山には、狼の他にも群れを成している奴らがいるらしい。
しかもそいつらは時として狼を狩るという、どうにも厄介な連中だ。
だが敵と聞いて尻尾を巻く俺ではない。何しろ俺の魂には、最強を求めよと刻まれているのだ。狼より――俺より強い奴がいると聞いて、黙っているわけがない。
俺はさっそくその厄介な連中についての情報を集めることにした。
さすがに要注意な相手だけあって、古参の狼に訊けば情報は簡単に手に入った。
曰く、奴らの名はゴブリン。
洞窟などの暗い所に済み、光を嫌って昼間は出て来ない。個体としての力はさほど強くはないが、集団で組織だった戦闘をするため、時として自分たちより格上のものを狩る事もあるという。
まさに狼と似たような奴らだが、決定的に違う事があるという。
それは、奴らは狩りに道具――武器を使うのだ。
道具。武器。初めて聞く言葉に、俺は戸惑いと同時に興味を憶えた。どちらもこれまでの生き方には出て来なかったものだ。
それらについて尋ねると、古参は渋い顔をした。どうやら狼の知能では説明できないようだ。
訊いてわからないのなら、直接見て確かめるしかない。俺は古参からゴブリンの巣穴の位置を聞き出すと、その日のうちに行動を開始した。
群れを抜け出し、野山を駆ける。久しぶりにする単独行動に、気持ちが高ぶる。だが興奮して闇雲に動いてはいけない。俺は万が一にもゴブリンたちに群れの位置を知られないように、途中で自分の足跡を踏みながら戻ったり、匂いで気づかれないように全身に泥を浴びたりした。
日が暮れる頃、洞窟の前に着いた。話に聞いた通り、洞窟は入口が狭くて大型の獣が入りにくく、奥は真っ暗で夜目が利かないやつは攻め込みにくそうだった。
入口から距離を取って隠れる。もうすぐ日が沈む。そうなると奴らの活動時間だ。今から下手に動くと、すぐさま奴らに気づかれてしまうだろう。俺は泥と草の汁にまみれた身体を藪の中に隠して待つ。
完全に日が沈んで周囲が闇に包まれると、洞窟から何かが出てきた。
身体は猿より大きく、細く短い足でひょこひょこ歩いている。薄汚れた緑色の身体を動物の毛皮で覆っているが、それぞれ形がばらばらなのを見ると、あれが奴ら自身の体毛というわけではなさそうだ。
そして不揃いといえば、奴らが各々手に持っている物も違う。
あれが道具――武器という奴か。
間違いない。
ゴブリンだ。




