第百七話 三匹がKILL!
村から出ると、すぐに投石機が目に入った。俺たちが撤退している間に移動し、ずいぶん距離を詰められたようだ。この分だとすぐにでも村の隅々まで射程範囲内に入るだろう。
俺たちが防柵から飛び出すと、すぐに敵に見つかった。だがたった三騎に投石機は使うまでもないと判断したのか、出てきたのは弓兵隊だった。
いきなり投石の洗礼ではなかったのはこちらとしてはありがたいが、コングの盾が無い今は弓矢でも結構な脅威だ。
引き絞った弦から矢が放たれる音が無数に重なる。空を見上げると、見ただけで数える気が失せるほどの黒い点がこちらに向かって飛んでくる。あの黒点の一つ一つが矢だとすると、俺たち三人分にしちゃずいぶんと大盤振る舞いだ。
などとのんびりアホな事を考えている場合じゃない。俺たちだって何も考えずに飛び出したわけじゃないんだ。敵が矢を射ってくるのだってちゃんと想定済みである。
俺たちが走る先は、この戦の最初に領民たちが隊列を組んでいた場所――つまり、投石を受けて大打撃を受けた場所だ。
そこには、彼らが撤退する際に放り出した槍がそこかしこに転がっている。
「コング!」
俺は馬を走らせながら身体をずらし、曲乗りの要領で地面に落ちている槍を掴み取るとコングに投げ渡した。
「おうよ」
コングはそれをキャッチすると、長すぎるので本来二人一組で扱うべき槍を片手で軽々と真上に立てた。
「おらおらおらあっ!」
飛来する無数の矢を、コングは槍を高速で左右に振って叩き落とす。いいぞ。その間にも馬は駆け、順調に距離を稼いでいる。
「止まって! ここからなら魔法が届くから!」
背後を走るルーンが大声で叫ぶ。来た! ようやく来た! すぐさま馬を止めて降り、ルーンは呪文の詠唱に。俺とコングは馬を避難させつつ投石機の警戒を。
弓矢が通じず、魔法使いが何やら呪文を唱えているのを見て敵陣がにわかに慌て始めた。向こうもこちらが何か策を持ってここまでやってきたのは気づいているのだろう。
ここから先はお互い時間との勝負だ。ルーンの呪文詠唱が終わるか阻まれるかでこの戦の勝敗が決まる。
敵陣の投石機が動いた。
来た。ついに来てしまった。投石機の出番が。
ここからでも見てわかるくらい巨大な物体が、じわじわと俺たちほうを向こうとしている。太い鎖を豆粒みたいな兵士たちが何十人もかかって引いているが、ものが巨大すぎて角度を少しずらすのにも時間がかかる。だがその角度が重要なので、勢い余って行き過ぎないためにもこの遅さがいいのかもしれない。
そしてとうとう俺たちに向けて射線が通った。投擲台に巨大な岩が装填され、指揮官が大きく息を吸い込む。
「放て!」
合図とともに投石機が弾かれたように震え、岩を放り投げた。岩は放物線を描いて空を飛び、俺たちに向かって飛んでくる。
着弾まであと数秒。
当然ルーンの詠唱は間に合わない。




