第百五話 絶体絶命領地
敵が持ち出した投石機の圧倒的な威力の前に、俺たちは一目散に逃げ出した。
逃げる際に槍から何からその場に捨てたが、それは両手を空けて負傷者を救助するためだ。そのおかげか、戦場に取り残された負傷者は一人もいなかった。……ただし死んだ者は除く。
たった二発の投石で総崩れになった俺たちを見て、敵は余裕なのかすぐに追撃には来なかった。きっと投石機の足が遅いせいもあるのだろう。何にせよ助かった。
村の一番奥にある領主の館――つまり最終防衛ラインまで撤退する。館の中は負傷者で足の踏み場がなくなり、予め避難していた非戦闘員が治療に追われている。
何故なら治癒魔法が使えるホーリーはコングの治療に専念せざるを得ず、他のけが人は後回しになっているからだ。
コングのけがは酷い。今もホーリーが全力で治癒魔法をかけているが、太い手足が曲がっちゃいけない方向に曲がっていてとてもではないがすぐに動けそうには見えなかった。だが投石機の直撃を防いで生きてるだけでも儲けものでる。
被害について考えてばかりもいられない。敵はすぐにでもこの館を射程距離に収めるかもしれないのだ。一刻も早く打開策を考えないと。
それにしても、槍の範囲外から攻撃してくるのは予想していたが、弓矢程度なら槍ではたき落とせるので完全に油断していた。まさか遠距離からの投石とは恐れいった。しかも攻城兵器まで持ち出して。どうやってここまで運んだんだよ……。
しかし遅かれ早かれこの策が破られる事は想定していたが、思った以上に早かったな。どうやら俺が思っている以上に敵はこの領地(ていうか俺)を目の敵にしているようだ。となると、この危機を突破してもまたいつか次の敵がやって来るという事か。いい加減いたちごっこにも飽きてきたな。
っと、抜本的な解決案は後回しだ。今はとにかくこの状況をどう切り抜けるかだ。
問題はやはり投石機か。飛距離が半端ない上に多少狙いが外れても衝撃だけで充分威力がある。近づくだけでも骨が折れるし、近づく前に何発打ち込まれるやら。考えただけで寒気がする。
けどこの投石機をどうにかしないと、この戦に勝つどころか俺たちは敵に一矢も報いる事無く全滅だ。
さてどうしたものか。射程の長い投石機をどうにかするためには、こちらも同じくらい射程の長い武器で対向するのが一番手っ取り早いのだが、あいにくうちにはそんなもの――
待てよ。何も物理攻撃じゃなくてもいいんだ。射程が長くて威力がある攻撃。あるじゃないか、うちにもそういうのが。
「無理無理無理無理無理無理無理無理! 絶対無理!!」
ルーンに相談してみたら、長い耳が頬にびたびた当たるほど物凄い勢いで拒否された。
「ルーンの魔法なら投石機ぐらい破壊できるだろ。ほら、あの空から隕石落とすやつで」
「無理よ。あれは呪文の詠唱に凄く時間がかかるし、射程も投石機ほど長くはないの。仮に近づけたとしても、詠唱が終わって呪文が発動する前に狙い撃ちされたらあたし死んじゃうじゃない」
何てこった。もうルーンしか頼れないのに……。
こいつは本当に絶体絶命かもしれない。




