第十話 学習
狼の生活は、これまで個体で生きてきた俺にとって、初めての集団生活だ。
狼の場合、集団生活の中でそれぞれが役割りを持ち、社会を形成しているので社会生活と言ってもいいかもしれない。
俺が乗っ取った個体は集団の中では下位だったので大した役割りは持っていなかったが、それでもやる事は山ほどあった。
見張り、縄張りの巡回など、個が集団のために働くという経験はとても新鮮だった。逆に、集団でいる事で得られるメリットというのも知った。
その最たるものが狩りだ。
己の能力のみを頼りに狩りをしていた頃は、成功率はお世辞にも高いとは言えなかった。当然宿主の身体能力が高いほど成功率は上がったが、それでも失敗する事の方が多かったくらいだ。
だが狼の、群れでの狩りは違う。
統率の取れた行動をし、仲間と連携を組む事によって狩りの成功率は格段に上がるというのを俺は知った。それでも確率的には五分といったところだが、リスクとリターンを比べれば僥倖である。
そして群れでの狩りは、時として自分たちよりも遥かに大きな獲物を狩る事ができた。鹿や猪、そして俺もよく知る熊だ。あれから熊は何頭か仕留めた。
狼の狩りは、一匹のリーダーの指揮の下で行われる。司令官となるリーダーが群れ全体を見渡せる場所に立ち、それぞれに指示を出すのだ。
俺たちはリーダーの指示に従って狩りをすれば、飢えずに済んだのだ。
当然それは優秀なリーダーが居てこその話だが、そもそも無能な奴はリーダーになれないので問題無い。
ともあれ、狼の集団での狩りは、実に効率的だ。
まず前衛の者が囮となり、獲物の注意を引きつける。そうして背後や死角から別の者が攻撃を加える。
この際、無理に一撃で決めようとはしない。小さなダメージを積み重ね、時間をかけて獲物を弱らせていくのだが、これは決して狼の攻撃力が弱いわけではない。
狼は狩りでも役割分担をする。この時、獲物に攻撃を加えるのは、実は若い経験の少ない者なのだ。
では経験豊富な者は何をしているのかというと、前衛で獲物の注意を引いたり、獲物が逃げ出さないように周囲を囲む役割りを担っている。
狼は、日々の狩りの中で教育や訓練を施しているのだ。だから彼らの狩りは、成功する確率が高いのである。
こうして俺は彼らと狩りをする中で、集団での戦い方と、効率的な攻撃の加え方を学んでいった。




