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報酬

 歩き出すと今度は(すばる)から弾丸(だんまる)に話を振った。


「弾丸。今夜討った鬼、ここ数ヶ月定期的に発生している襲撃事件の元凶だったと思う?」


「若い女が何人も襲われて昏睡(こんすい)している事件だろ、確かもう三十人以上が被害に遭ったって話の。こっちの業界では人外の仕業って事であちこちが慌ただしいな」


「先週起こったので三十五人、だよ。どう思う?」


「違うな。あの鬼は肉を喰うタイプだ。あれに襲われた人間は行方不明になるか猟奇殺人の犠牲者って感じになる。

 あ、思い出した。昼間にネット・サーフィンしてた時、ニュース読んだ。昏睡女性、また亡くなったそうだ。これで六名だと」


「そう」


 話していると前から昴を呼ぶ声が聞こえてきた。


「昴お坊ちゃま、お迎えに上がりました」


 執事然とした初老の男性が執事にまだ成り立てといった印象の若い男性を側に控えさせ、穏やかな微笑を浮かべて一礼する。若い執事も慌てて頭を下げるが、彼の優雅な所作に比べると無様ぶざまさが際立つ。

 彼らの後ろには一台の高級外車が街灯に照らされ、よく手入れされているのが一目で解る美しい黒を闇の中で輝かせた。


大野おおの、勤めの時はいつも遅い時間になるから迎えは要らないって言ってるじゃないか」


「遅い時間だからこそでございます、昴お坊ちゃま。お勤めを終えてお疲れの昴お坊ちゃまに屋敷まで歩いて帰させるなど、想像するだけでもこの大野にとっては拷問に等しいのでございます。

 ですので、どうぞお乗り下さい」


 初老の執事、大野が後部座席のドアを恭しく開く。

 そんな大野を見て昴は困った様に苦笑し、自身より約十センチ背が高い幼馴染みの顔を見上げる。

 そんな視線を受けた弾丸は肩を竦めた。言外に乗って帰れとにおわせて。


「はぁ、わかったよ。乗って帰る。でも、その前に弾丸の報酬分を渡さなきゃね。大野」


「かしこまりました。小谷こたに


「は、はいっ!」


 小谷と呼ばれた無様な若い執事は無様な声を上げ、無様に慌てて助手席の扉を開けて革製の黒いアタッシュ・ケースを無様な手付きで取り出す。


「お、大野さん、ど、どうぞ」


 大野は小谷に渡されたアタッシュ・ケースを開き、さっと主人に中身を見せる。

 昴は開いたケースからいくつかの札束を手に取り、まとめた物をそのまま弾丸に差し出す。

 弾丸は受け取った金をそのままリュックに放り込んだ。その金額も数えず、偽札かどうか確かめもせず。


「いつもありがとうな、昴。でも、本当に良いのか? 立会人っていう名目の実際はただの荷物持ちをしているだけの俺に、お前に来た依頼で得る報酬の四割もぽーんとくれちゃってさ。

 荷物持ちってのも持ってきた札や術符の装備オプションをお前、ほとんど使わないからさ。俺の居る意味あんのかって、前から思っているんだが」


「あるさ。僕が個人的に弾丸には僕の側に居て欲しいんだ。それに弾丸は奴らを見たり聞いたりするのが出来るとはいえ、術が使えない。命を失う危険が常にある現場に来てくれるリスク分を渡しているだけだよ」


「まぁ、お前が良いんなら良いけどさ。俺も金は必要だしな」


 言って弾丸は昴とのこんな関係が陸奥(むつ)家や他の分家一同に快く思われていないのを思い出す。

 現実、弾丸は彼の無能さ故に一族内で白眼視されている。目の前で微笑を浮かべたままの大野の考えは読めない。だが、もう一人の執事である小谷は未熟さで内心を隠せず表情で容易に読めてしまう。明らかに弾丸を蔑視べっししている。六連院(ろくれんいん)一族に仕えている者達は実力の差こそはあれ、皆退魔に通じている。

 だからこそ、なのだ。

 宗家以外の誰もが六連院弾丸の無能を許せない。


「僕はよく知らないけど、アニメやゲームの趣味って本当にお金が掛かるんだね。一年とちょっと前なら今の金欠一歩手前みたいな事態にはなってなかったよね」


「俺も元々オタだからそっち方面にも金は掛けていたけど。俺、金出す作品は選ぶし。それにアメリカン・ドラマも俺好きだから、そっちにも金を回したいからな。他にも金を食う趣味あるし、生活費も結構な感じで」


「うん。弾丸って無駄遣いはしないもんね」


「ああ。だが、あいつは違う。

 こちら側に来てから初めて触れたオタク文化に発狂してんのか、アニメマンガゲームラノベ手当たり次第買いやがる。

 俺の金で! 俺の金で!

 あいつ、ちょっと気に入ったらすぐポチりやがる!

 昴、ポチるっていうのはインターネットで買い物をするって意味だからな。そうそう、あいつパソコンも勝手に使うんだよなぁ。時間被ったりするからパソコン、もう一台買ったよ」


 不満を捲し立てた後、肩を落とす弾丸。


「べ、別の意味ですごいな、…………君の式神って」


 昴は慰めの言葉を探すが見つからなかった。文武両道で優秀な彼でも出来ない事はあるのだ。


「ああ、俺も素直にすごいと思うわ。俺があいつの主じゃなかったらな」


「あはは…………。じゃ、僕達帰るね。また明日ってもう今日だね。おやすみ、弾丸」


「おやすみ。気を付けて帰れよ」


「君こそ」


 挨拶を交わした昴は夜叉丸と共に車に乗り込む。


「安全運転でお願いしますよ、大野さん」


「はい。ではお先に失礼します、弾丸様。小谷、何を車に乗り込もうとしている。貴様は走って帰れ」


「へ? は、はいぃぃぃぃっ!」


 大野はドアを閉めた後、弾丸に一礼して運転席のドアを開いた。そんな彼の目に入ったのは無頓着な様子で助手席のドアを開きにやついた顔の小谷だった。そんな小谷を鋭い眼光で睨み、命令を下す。内心を表に出さないという執事の必須スキルを未だに身に着けていない無様な見習いへの罰だ。

 そして、高級外車は無様さを半泣き顔で表現している男を置いて去った。小谷は車が見えなくなると何故か弾丸を涙目で睨み、車の後を追って全力で駆け始めたのだった。無様だ。

 弾丸も駐輪していたクロスバイクに跨がり、家路を急ぐ。

 夜も遅い。朝が来れば高校にも行かなければ。

 家であいつも待っている。今夜はあいつのお気に入りであり自分も今期最高だと評価しているアニメの放映がある。急に昴の仕事が入ったから録画にしているが、それを見なきゃあいつは寝ないだろう。珍しく我慢しているらしい。電話してこないのがその証拠だ。だから、急いでやらなきゃと考えながらペダルを思いっ切り踏み込む。

本日は拙作をお読み頂き、ありがとうございました。

次話は明日更新予定ですが、時間は未定です。

今日のPVの推移を見て決定したら、ツイッターと活動報告の方でお知らせします。

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