暴露
「神前ト六連院ガ名家同士デ繋ガりがあルのは想像出来るンデスけド、そレだけニしてハ仲がイイつか良すぎませン? 陸奥先輩となラ、コう栄えまスけド。
ホラ今日も特科の授業にサボろうト企ンでイたダンガン先輩を連レて、二人で来ましタよね。男共が殺気立っテましタヨー」
薫子に替わってまどかが命に質問を続けた。それは彼女が特科を受講し始めてからの疑問だった。
「弾丸くんと私、昴君の三人はずっと一緒だったから。
あ、ずっとはちょっと違うね。私だけ小学校と中学校は別だったからね。
最初は弾丸くんと、幼稚園で昴君とお友達になったの」
「命先輩、最初はって?」
「弾丸くんは生まれた時に私とお友達になった、初めての男の子なの」
「は、……はじめての」
「お、……おとこのこ、って。えっとーみことせんぱいってすすんでいらっしゃるんですねー」
後輩二人は命の発言で茫然自失二歩手前になった。特にまどかは動揺して外向きの喋りを忘れて素に戻ってしまっている。
「そ、そういう意味じゃないよ! そんなふしだらな意味で言ってないよ!?」
「ふしだらな意味ってのはどういう意味なんですかー、命先輩ー?」
「浅学ナ後輩ノ為ニもちゃンと教えテ下さーイ」
「そ、そんなえっちな意味では言ってません…………ってちょっと二人とも! 私、生まれた時にって言ったよね!?」
「言ってましたっけー? まどかさん」
「言っテたようナ気ガすルよーななイよーなですネー、ルコさん」
「もうっ! 私と弾丸くんは生まれた時からのお友達なの。生まれた病院も一緒だったし、誕生日も同じなんだから。弾丸くんから聞いてない?」
「先輩達、誕生日が同じなんですか!?」
「マジでっ!? マジにあるんだ、そんなの本当に!」
「ふふっ。これがマジにあるの。原因があってね、六連院と神前の宗主お二人、斬丸おじい様と私のおじい様同士が昔に大喧嘩をしてね、両家が絶交しちゃったの。プライベートは勿論、お仕事の方も本当に大きなもの以外は全部」
「神前ト六連院が、デスか? 初耳デス」
「情報通のまどかが知らないってことは、セレブ同士のトンデモな秘密だったんじゃあ」
「秘密でも何でもないよ。もう絶交も解消して、家同士のお付き合いも復活したの」
「命先輩、絶交と先輩達の誕生日が一緒なのとどんな関係があるのかわからないんですけど」
「あ、ごめんね、薫子ちゃん。
絶交状態でも父親から隠れて連絡を取り合っていた娘同士が示し合わせて、近い日に出産しようと計画したの。夫達にも協力してもらってね。産院も一緒。まさか同じ日に産まれるとは思っていなかったってお母様達も笑い話にしていたけど」
「何でまたそんな計画を?」
薫子の問いに答える前に命はお茶を一口飲む。
「初孫が産まれるのを心待ちにしているおじい様達二人を強制的に会わせる為に、なの。意地でも会おうとしない二人だけど自分の孫には会いたい、その気持ちを利用したのね。顔を合わせた時には凄く険悪になったそうだけど、出産したばかりの娘達に叱られた結果、仲直り」
「母は強しってことですね」
「うん。だから、弾丸くんと私は両家の友好の証であり、私達自身もお互いが初めてのお友達にって意味だったの」
「そンな裏話ガあッタとハ」
「でも、本当に知らない? おかしい。薫子ちゃんもまどかちゃんも弾丸くんと仲が良いから、弾丸くんがもう話していると思ったのに」
「ダンガン先輩が命先輩の事を話しているのって今朝が初めてかも」
「えっ。そ、そうなの?」
薫子が首を軽く傾げて、伏竜高校に入学してから持った弾丸とのやり取りを思い出している。
「うーん、やっぱり今朝が初めてですね。ほら命先輩、朝ダンガン先輩に手、振ってましたよね。あとなんか鉄砲でこっちをバンって撃つみたいなジェスチャー。あれ、先輩がやるとメチャ可愛かったです。でもあれ、何だったんですか?」
薫子の褒め言葉に命は頬を赤く染めた。
「か、可愛いって、そんな、えっと、ありがとう。あれね、やると弾丸くんが喜ぶんだ、小さい時から。弾丸くん、アメリカの銃火器が凄い好きで、遊ぶおもちゃもほとんど銃や銃に関係した物だったの。今でもモデルガンをたくさん集めているんじゃないかな」
「ネックレスのあれ、話し出したらダンガン先輩、興奮してたし。オタクなんですね、やっぱり」
「薫子ちゃんの言う通り、かな。弾丸くん、私にも色々薦めてくれるんだ。アニメや小説。アメリカのドラマや映画もいっぱい。それに見た感想でお喋りするのも楽しいよ」
弾丸とのそれも伏竜に入学してからはなくなった事を何故か命は言えなかった。
それでも最近は命は弾丸が過去に薦めてきた作品の傾向を鑑みて、自ら進んで購入して鑑賞している。弾丸といつでも会話が出来る様に。
意識してしまうと弾丸との交流がめっきりと減った事実をひしひしと感じてしまう。だが、一瞬暗くなりそうになった感情に蓋をして、命は後輩二人に気付かれないよう笑顔を維持した。
「ルコ、こウ言ってまスけド、ガチのオタデスよ、命先輩」
「そうなの、薫子ちゃん?」
「えっ!? いや、ええと、まあ、…………はい、ってまどかっ!」
「イイじゃン、イイじゃン、別に知ラれたっテ。アタシは自分がライトオタなノ気にしテなイしー」
「うぅっ。先輩、あたしがオタクなこと、ここだけの秘密にしてて下さい。お願いします」
「いいよ、秘密だね。大丈夫、私もオタクなんだから。これからも三人で隠れてオタクなお喋りしましょう、ね」
「あの命先輩がオタクなンて秘密、伏竜ノ誰も知ラなイっしょ」
女子高生三人はクスクスと笑い合った。
命が一番に笑いを止め、先程から気になっていた件を口に出した。
「そういえば弾丸くんが初めて私の事を話していたって」
「アー、そレダンガン先輩が伏竜をワざト落チヨうトしタっテはナ」
「ちょっ!? まどか、ダメっ!」
「あっ! ヤバっ! ごめん!」
慌てて薫子が止めようとするも時既に遅し。まどかの言葉は既に命の耳に届いていた。
「どう、……いう、こと? 弾丸くんがわざと、落ちようとしたって。それって、伏竜を受験した時の話?」
二人に答を求めている命の声は震え、動揺しているのが明らかだ。
「あの、その、…………あぅ」
やってしまったまどかは脳内がフリーズしてしまった様子だ。
残った薫子は話してしまった自分の責任を取ろうと決めた。
勇気を出して、今日友達になった命先輩に、彼女の幼馴染みであり自分の親しい先輩である六連院弾丸の、罪とは呼べない罪の告白を伝えよう。
「まどかちゃん、薫子ちゃん。お願い。教えて」
薫子は心の中で弾丸に謝る。
「命先輩、あたしが話します。まどかはあたしから聞いただけですから。直接ダンガン先輩から聞いたあたしが、します」
「うん」
「お、怒らないで下さいね?」
「うん、約束する」
「あたしだけじゃなく、ダンガン先輩にも、ですよ?」
「…………約束、する」
そして、薫子は少しビビりが入りながらも今朝弾丸と交わした会話の一部を命に伝えた。
弾丸が入試で特科用の解答だけして白紙提出した事。
伏竜への受験に落ちてアメリカに留学しようと弾丸が計画していた事。
伏竜がそれでも弾丸を入学させて特科も受講させている事。
弾丸がそれらの事に対して命と昴に罪悪感がある事。ただし、これに関しては薫子のバイアスが掛かっている。弾丸が命と付き合う資格がないと言ったのは意図的に隠した。どうしても命には言いたくなかったのだ、薫子は。
薫子の話が終わると命は静かに感謝を伝え、今日の集まりはこれでお開きにしようと言った。後輩二人も頷いて同意を示し、彼女は電話で執事の里紗に車での迎えを頼んだ。
十分もしない内に神前の車が到着した。会計を済ませ、店を出た三人は出迎えた里紗に挨拶と礼はしたが、後はずっと無言だった。
里紗もそんな様子の命が心配だったが、必要だったら自分に相談するだろうと思い、そんな内心はおくびにも出さずハンドルを握った。里紗と彼女が仕えているお嬢様である命の間には血の繋がった姉妹にも負けない絆があったからだ。
車内での会話は無く、命が声を発したのは後輩それぞれの自宅に彼女達を下ろした時の別れの挨拶だけだった。
だが、先に自宅に到着し車を降りた薫子が理沙の手によって扉が閉まる直前、命に言葉を掛けた。
「命先輩! またこうやって三人で集まって遊びましょう! あたし、学校で趣味の話が出来る友達欲しかったんです! だから、また」
薫子の笑顔を見て、命も笑顔で言葉を返せた。
「うん! 薫子ちゃん、今夜はありがとう。また一緒に遊ぼうね」
「はいっ! 里紗さん、送ってくれてありがとうございました! まどかをよろしくお願いします!」
「はい。柳瀬さん、お休みなさい」
「オヤスミー、ルコー」
「薫子ちゃん、お休みなさい。本当にありがとう」
「お休みなさい!」
神前の白い車は薫子の自宅前から出発し、まどかが暮らす美鶴のマンションに向かう。
車が見えなくなってから、薫子はただいまと家族に帰宅を告げながら家に入った。
薫子が家に入るとバサバサっと羽音を立てて、三ツ目の烏がこの場から飛び去った。
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