刻印
メゾン・デートルの自宅に帰宅するとそれぞれ弾丸は部屋着に着替え、つくのは室内用のぬいぐるみにと憑依を移し替えた。
リビングに集合した一人と一体はソファに座って昨夜届いた箱を開け、中の品を手に取り具合を確認している。
ぬいぐるみに憑依しているつくのの表情は変わらないが、弾丸の顔はニコニコだ。まるで欲しかった新しいオモチャが手に入った子供の様な笑顔である。箱を開けて手でそれを弄っている今までずっとこの調子だ。
それのスライドする部品の中央辺りに『Ⅵ』と彫られた小さな刻印を弾丸は指先でなぞる。
「エングレービングはやっぱりプロにやって貰った方が仕上がりが綺麗だな。ストックのプレートは俺が練習がてら彫っているけど、自分でやるとどうもイマイチで」
「ぽにぃてぇる娘に渡した護符の事か? 確かに、そちが彫った物よりは職人が彫った物の方が神気は籠もり易く力も上がる。だが、そちのも即席ながら上出来であったと我は思うぞ」
「サンキュー、つくの。まぁ、御守り程度ならあれで十分だけど、本番用には使えないな。折角の出力が下がっちまう」
「同意。舌の根の乾かぬうちに何だが、我も職人の方が良い」
「そうだな。俺はただ使う側、消費者だ。造るのは専門の人達に任せるよ」
「そうなると我は使われる側になるのか? うーむ、何だか我のあいでんてぃてぃがくらいしすを起こしそうだ」
短い腕で大きな頭を抱えてうんうんと唸るつくの。そんな様子に大笑いしそうになるのを我慢している弾丸。
悩むのを止めたのかつくのが弾丸の顔をすっと見上げる。
「して弾丸よ、こやつはどうするのだ? 刻印を彫ったという事はそいつを使うのか?」
「あー、使わねぇ。コレクションだ」
「使わんのか。刻印まで彫ったのにか」
「イダテンさんの厚意で貰ったもんだし、たとえ自分で注文したんでもエングレービングは頼まなかったよ。俺、使うのはアメリカ社製のアメリカ生産だけって決めてるし」
「こやつもあめりか生まれだが。では何故、欲しがっていた?」
「俺の憧れ、…………いんや。心の師が使っているから」
「は?」
ぬいぐるみが凄く呆けた声を出してしまった。ぬいぐるみに宿っているとはいえ、威厳があるとは到底思えないとはいえ、一柱の神が出していいとは思えない声をつくのは出してしまった。
「憧れ? 心の師?」
「お前にも解るだろ、好きなキャラが愛用している物を自分も使いたいっていうの。あ、つくのの場合はなりたいキャラか。ある意味、その姿ってコスプレの一種かもな」
「違う気がするぞ。時に弾丸、我は学校で妙なものを見つけた」
「へぇ、俺も昼に妙な視線を感じた。最近伏竜の怪談集に増えたヤツだな」
「どうするつもりだ」
「さてね、…………もしかしたら怪談の一つが明日消えるかもな」
「では荷物も検めたし、弾丸、夕飯前にあにめを見るぞ!」
「夕飯後だ! 俺はゆっくりじっくりアニメを堪能したいんだ! 本当に飽きないんだな。学校でも見てたよな、お前。……なぁ、ノルマはちゃんと終わらせてから自由時間を楽しんでるんだよ、な?」
「勿論だ。神を見くびるでない。だから、早く食事を済ませてあにめを見よう、弾丸!」
「それなら良いんだけどよ。じゃあ俺は飯の準備するから、ちょっと待ってろ」
弾丸は手に持っていた物を大切に仕舞い、台所で夕飯の準備を始めた。今夜のメニューはイカとバジルのパスタとグリーンサラダ、デザートにはスーパーで購入した半額のブルーベリームースだ。
「我はねっとでもやっているか。弾丸、音楽でも流すか?」
「作業用でアップテンポのアニソンで」
「了解。ならば、ろぼっと系にしよう」
明日の更新は22時を予定しています。




