だれもいない世界
「掌編小説集」が不定期更新になったので短編小説を書きました。
筆が遅くてすみません(-_-;)
むかーし、むかし。
ある幼稚園に、口の悪い男の子がいました。
彼はだれにでも暴言を吐きます。
「テメー、そのフラフープは俺のだ! よこせ!」
男の子は下級生から、ちからづくでフラフープを奪うと。
決め台詞のように、「死ね、お前」と言いました。
すると不思議なことに。
死ねと言われた下級生は、心臓を抑えてぱたりと倒れ込みました。
どうやら本当に死んでしまったようです。
男の子は何度も謝罪し、泣きましたが。
下級生の反応はありません。
男の子は自分の罪を悔い、慟哭しました。
すると担任の先生があわててやって来ます。
男の子は経緯を説明し、先生に詫びました。
が。
「警察に届け出るしかないわね。これは殺人事件よ」
先生は聞く耳もたずで、いきり立ちます。
警察にバレたら、まずい。
逮捕されちゃう。
そうなったら両親にも迷惑をかける!
男の子は迷わず、
「先生、死ね」と口走りました。
先生の肉塊が転がります。
また、やっちゃった!
男の子は頭を抑えてうずくまり。
その場に嘔吐しました。
「うぅ……。うぅ……」
目に涙を溜めて。
先生と下級生を見ますが、彼らは呼吸を止めています。
熱いしずくが、男の子の頬を伝いました。
「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」
園長先生が、異変を察して、近づいてきます。
男の子は、園長先生に懺悔しようと思いました。
これ以上、人を殺したくないからです。
「あのね、園長先生……」
「警察に出頭しろ。話はあとだ」
ぐったりと横たわる、2人を見て。
園長先生は厳かに言いました。
この人もダメだ。
人の話を聞いてくれない!
「死んじゃえ!」
男の子は叫びます。
「死んじゃえ!
死んじゃえ!
死んじゃえ!
死んじゃえ!
死んじゃえ!
日本中のみーんな、死んじゃえー!!!!」
体育館がしーんと、静まります。
聞こえるのは、呼吸の音だけです。
「あれ? もしかして……」
男の子は右へ左へ。
東奔西走しましたが。
結局だれも答えてくれません。
涙が、鼻水が、脂汗が、手汗が、脇汗が、足汗が。
せき止めるものがなくなったように。
男の子の身体中から、溢れでます。
「ごめんなさーい!」
男の子は天井に向かって叫びました。
「もう絶対に、死ねって言いません!
だから、みんなを生き返らせてください!」
するとパラパラと拍手が聞こえてきます。
「よく言ったな」
園長先生でした。
下級生や担任の先生も。
それにならいます。
みんな生き返ったのです。
これを契機に。
男の子の毒舌は、すっかり息を引き取ったと言います。
めでたし、めでたし。
「これで、もも組の、お遊戯会を、終わります」
ナレーションを務めた園児が頭を下げると。
鳴り止まない拍手が会場にこだました。
言葉の重みってやつですね。
言葉には魂が宿り、やがて現実になる。
だからこそ小説家は特に言葉を大切にすべきなんでしょう。