虚像1
虚像1
漆黒の車から降臨した清水会長は、漆黒の杖を持ち、さらに漆黒のスーツをビシッと着ていた。
「お時間を取らせてもらって申し訳ない。俊介君にどうしても話たい事があったもので。」
いえいえと、母が応じる。
「清水さん、お久しぶりです。私にお話しとはどのような事でしょうか。」
清水会長はバツが悪そうに答える。
「ふむ。申し訳ないのじゃが、俊介君と二人で話がしたいのです。宜しいでしょうか。」
母は快く応じた。俊介もうなづく。
「大丈夫です。私は車の中で待っていますので、ごゆっくりどうぞ。」
清水会長は感謝の言葉を述べると、俊介を黒い車の後部座席へと招き入れた。車内はゆったりと広く、座席の座り心地も良い。運転席には、スーツ姿の男性がいた。サングラスを掛けていて、無表情。ボディーガードだろうか、体格も良い。清水会長が俊介の隣へ座り、扉を閉める。
「運転手が気になると思うが、勘弁してくれ。ボディーガードじゃ。まあ、世の中は以外と物騒じゃからの。彼は信頼できるし、口も堅いから心配無用じゃ。それでは、さっそく・・・。」
清水会長が本題に入ろうとした時、助手席のドアが開いた。お邪魔します。そう言って入ってきたのは、宮田小百合だった。
「あの、宮田君。俊介君と二人で話たいんじゃが・・・。」
小さな声で抗議した清水に、小百合ははっきりと言い放った。
「清水さん。あなたが何を話そうとしているか、だいだい検討はつきます。それは遅かれ早かれ、私の耳にも入る話でしょうから、同席させて頂きます。」
いや、しかし。清水は抗議を続けようとするが、小百合は動こうとしない。
「私は彼の担当医としての責任があります。清水さんはご存じかと思いますが、今の彼に余計な負担を増やす事は禁止です。あなたの事はもちろん信用しておりますが、人間ですからうっかりミスもあります。客観的にジャッジする必要があります。良いですね。」
半ば強引だが、清水は渋々同意した。
「怖いのう。宮田君は。まあ、宮田君の言う事も正しいから、しょうがないのう。監視されていると話しにくいのう。」
宮田さんのこんなに厳しい表情を見るのは初めてだ。一体どんな話だろうか。
「俊介君に一つ提案があるんじゃ。アルバイトをしてみないか。メンタルケア支援プログラム研究所での仕事を手伝ってほしいのじゃが。」
「清水さん。」
小百合が短く注意を入れる。
「わかっておる。今すぐというわけじゃない。今は休息が必要じゃからな。しかし、この先順調に回復した場合、社会と関わる事が治療に良い結果をもたらす可能性が高い。そうじゃろう、宮田君。」
その通りですね。小百合は頷く。
「君にその気が出てきたときに、検討しておいてほしいのじゃ。もちろん、君の体調に合わせて働けるようにする。」
「仕事というのは、カウンセラー関連の仕事ですか。」
「うむ。まあ、そんなとこじゃの。正確には戦うカウンセラーというべきかな。」
戦うカウンセラーという言葉を聞いた時、やっぱりね、という宮田小百合のため息が気になるが。自分を必要としてくれるのは、非常に嬉しい。ただ・・・。俊介は不安気に答えた。
「何故、私に声を掛けて下さったのですか。私は自分の心の弱さを、今回の事で痛感しました。こんな人間に、人の心を支える仕事などできるのでしょうか。」