不確かな生きる覚悟5
不確かな生きる覚悟5
名前を呼ばれ、診察室に通される。失礼します。声を掛けてから中に入ると、いつものように、優しい微笑みを浮かべた宮田小百合が応じた。
「こんにちは。青葉君、体調に変わりないかしら。寒くなってきたから、喘息が少々心配だけど。」
「喘息の方は落ち着いています。生活習慣もあまり変化してません。23時頃に寝て、9時くらいに起きる感じです。」
小百合は頷くと、母親の方にも俊介の様子を確認する。
「喘息で苦しそうにしている場面は無かったと思います。ただ、睡眠時に大きな呻き声を上げる事があって、それが心配です。」
「なるほど。これまで積み重なっていたストレスや、今の心の葛藤も影響しての事だと思います。俊介君、朝起きてから寝るまでの間に、眠気や疲労感を感じる事はありますか。」
再び俊介に顔を向けた。
「疲労感や眠気を感じる時がありますが、以前ほどではありません。日中は本も読めているし、集中力は持続していると思います。」
8月の段階では、本も読まなかったし、テレビを見る気にもなれなかった。集中力が続かないし、何もしていないのに体が疲れていた。テレビでも、今年の就活の様子だとか、経済の話題が出ると、気分が果てしなく沈むので、見る気にはなれなかった。最近は徐々に慣れてきている。ような気がする。
「そうですか。睡眠の質も大きく悪くなってるわけでは無いようですし、特に治療方針も変える必要は無さそうね。うん、順調にエネルギーは回復してきていると思います。薬は前回と同じです。それでは、また2週間後にお会いしましょう。」
ありがとうございました。母親と俊介が診察室を出ようとすると、小百合が慌てた様子で引き止めた。
「あっ、ちょっと待って下さい。忘れる所でした。今日は俊介君にお客さんが来てたんだ。少々お時間頂いて良いかしら。」
俊介は困惑顔で頷くと、母親、俊介、宮田小百合の三人で診療所の駐車場へ向かった。小百合さんの今日の診察は俊介が最後だったらしい。駐車場に目を向けると、7人は乗れそうな黒塗装の車が止まっていた。窓も黒く、中の様子は窺えない。その車の後部ドアが静かに開く。
「久しぶりじゃの。青葉俊介君。」
車から降りてきたのは、清水会長だった。