クリスマスには大切な人にハートを捧げよう4
クリスマスには大切な人にハートを捧げよう4
2190年12月24日、23時35分。渋沢市 とあるビル街。
「さて、この14万もの敵をどうするつもりかしら。清水さん、あなたはいかないの?」
滑らかな動きで、次々と清水に斬撃を浴びせる。
「14万とは・・・。想像以上じゃが。わしは君を止める事を優先する。」
愛華は鼻で笑った。
「私を止める?まさか、私を殺さずに更生させようとか考えてるなら、止めたほうが良いわ。何度も言うけど、私は変わったのよ。」
「本当に変わったのかな。わしから見て、根本的な性格は変化してないように思えるがな。」
「それはあなたの記憶にある新井愛華を投影しているだけでしょ。もう人間ですらないのよ。」
愛華は距離をとり、目を閉じた。すると、あちこちの空間が歪み、30体ほどのリバーシが現れた。猿のようなもの、狼のようなもの、様々な形態のリバーシが清水に突進する。
「自分の事を化け物だと言いたいのか。確かに人間ではないかもしれんな。しかし、それがどうした。君は新井愛華じゃろ。それ以上でも、それ以下でもない。わしらだって、普通の人間からすれば、十分に化け物じゃ。しかし、それは、どの視点から見ているかの違いに過ぎない。自分は自分じゃよ。」
そう言うと地面に手を触れ、向かってくるリバーシ達を凝視した。リバーシが目前に迫った瞬間、地面から無数の柱が伸び、尖った先端がリバーシを串刺しにした。
「どれ、わしもなかなかの化け物じゃ。」
愛華も無言で地面に両手をつけると、地面が泥に変化したかのように、ずぶずぶと手を沈めた。手を引き抜くと、そこには槍が握られていた。両手の槍を同時に投げると、2本の槍は空を切り裂き、的へ吸い込まれていく。
「なるほど。SEの形状変化もかなり上達したようじゃな。」
心臓へと向かってくる槍を、左右に弾きながら、感嘆の声をあげる。
「君の進む先には何がある。憎むべき対象を消し続けた先には、何がある。」
「不条理に歪められようとする運命を変える事ができる。罪人は見えない裁きに怯え続ける。罪を犯した人間を処刑するのはそんなにいけない事かしら。」
「罪を犯した者は然るべき処罰を受けるべきじゃ。しかし、処罰は公の判断の下に行使されるべきじゃ。一人の者の独断で行う事ではない。」
愛華は清水を睨み付けた。
「公の判断?それが常に適正に行われる確証なんてないじゃない。それなら、個人がやっても大差ないわよ。」
「そうじゃ。常に正しい判断は下されない。だから、いつの世も誰かに復讐したいと願う者はいる。君はそんな者達から、絶大な支持を得るじゃろう。」
しかし、それを許容する事はできない。断固とした口調で言った。
「最初の内は、適正に処罰を与えられるかもしれん。人を殺した者、人を大きく傷つけた者が裁かれるのじゃろうな。しかし、それでは治まらない。簡単に人が処刑されていく世界では、人々の中にある命に対する価値観が変化する。命が軽くなる。」
「罪人の命が軽くなる事に、何の問題もないわ。」
「軽くなるのは罪人の命だけではない。次第に、自分に都合の悪い者に罪人のレッテルを張り、自分と価値観の違う者に対して、化け物扱いをして虐げるようになる。」
「そんな事にはならない。私が監視する。」
「そんな事にはならないと言い切れるか。歴史を見ろ。同じ人間なのに、宗教が違う、肌の色が違う、そんなつまらん理由で、どれほどの人間が殺し合ったか知っているじゃろ。これほど文明が進んでいるというのに、人間はまだ殺し合ってる。君はいずれ、そんなつまらん人間に神格化され、罪なき人を殺す理由にされる。」
清水の目は血走っていた。
「わしはそんな風に世界が変化してゆくのを、黙ってみているわけにはいかない。大事な君の名が、思いが、歪められ、ボロボロになる世界など、断じて、受け入れられない。」
愛華は清水の気迫に押され、しばし沈黙した。
「やっぱり、清水さんは清水さんだね。でも、それでも、私は平然と人を傷つける奴が憎い。許せない。もう止まる事なんてできない。」
「良かろう。とことん、ぶつかり合おうではないか。」