クリスマスには大切な人にハートを捧げよう2
クリスマスには大切な人にハートを捧げよう2
2190年12月24日、23時00分。SE監視機関周辺。
SE監視機関周辺の警備は前例のない規模で強化され、異様な緊張感に包まれていた。既存のチームでは全く手が足りず、緊急用の臨時チームが大量に編成された。
「こちら本部。全隊所定の位置から動くな。まだ敵は表れていない、臨戦態勢にて待機せよ。」
SE監視機関本部の大型モニターを見ながら、本部防衛部隊最高責任者である寺田満は指示を出していた。SE監視機関を中心として、半径200m、500m、800m、1100mの4つの防衛ラインを引いている。それぞれのライン上に部隊を配置して、万全の体制を整えた。
「現在までに不審なSEは確認されていません。しかし、本丸にいきなり攻めてきますかね。裏の裏という事で、本命は宣言通りの3000人ではないでしょうか。」
分析員長が報告をする。
「そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。我々は様々な可能性を考慮し、どんな局面でも対応できるように準備しなければならない。油断は禁物。」
「そうですね。失礼しました。」
分析員長はそそくさと席に戻った。
2190年12月24日、23時27分。渋沢市 とあるビル街。
新井愛華は一人、ビルの屋上で静かにその時を待っていた。もうすぐ運命のクリスマス。あの日から約10年。準備は整った。後戻りはできない。覚悟はできている。
「誰か近くにいるわね。」
大きな力を持つものが、近づいてきている。この気配は・・・。
「久しぶりじゃな。新井愛華君。リバーシとなっても、姿は生前と変わっとらんな。相変わらず可愛らしいの。」
隣接するビルの屋上に清水恭介が立っていた。清水がいるビルの方が5メートル程高い。
「ありがとう、清水さん。この戦争は新井愛華が先頭に立つ事に意味がある。だからこの姿でいるのよ。それに、取るべき頭がいないと締まらないでしょ。」
「そうか。それにしては、こんな所で隠れて何をしているのじゃ。君のSEはレーダーに反映されていないし、探すのに苦労したぞ。」
新井愛華は溜息をついた。
「まだ予定の開戦時間じゃないからよ。3000人を襲撃する時間はもう予告済みだから知っているわよね。もし、腐った3000人を守ろうと立ちはだかるのなら、SE監視機関に対しても攻撃を行う予定だった。
そして、あなた達は剣を抜いた。だから、23時30分より、SE監視機関に対して、攻撃を行う。邪魔されないようにね。」
「攻撃の予告時間など教えて良いのか。」
ふふふ。不気味な笑い声が響く。
「心配しなくても、大丈夫よ。今回の目的は3000人を処刑する事と、こちらの戦力を公開し、相手の戦意を削ぐことだから。SE監視機関を潰すつもりはない。」
甘いな。清水が漆黒の杖を刀に変化させる。
「君達に潰すつもりはなくとも、我々は君達を潰しにかかるぞ。こちらの戦力を軽くみていないかな。」
「そちらの方こそ、私達の戦力を見くびっているわよ。確かにそちらは強い。あなたのような化け物もいる。それを理解した上で、こちらも準備している。ここから先の戦いでは、今までのリバーシのデータを当てにしない事ね。」
「なるほど、良くわかった。攻撃を中止するつもりは無いわけか。」
清水の眼光が鋭く光る。
「今更無いわね。全く、いきなり王将を叩きにくるなんてね。」
愛華は背中に背負う、身の丈程の白い十字架を降ろした。
「背中に十字架とは、意味深じゃな。」
「良いデザインでしょ。軽いし、強度もなかなかのものよ。」
白い十字架が二つの刀に変化した。持ち手は白で、刀身は怪しく銀色に光っている。
「二刀流か、戦闘スタイルも変わってないようじゃな。」
「見た目はね。でも、私は変わった。」
「そのようじゃな。」
愛華は時計をちらりと見た。
「23時30分。戦闘開始。」
その言葉を合図に、黒と白の刀が交わる。