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運命の華-A.Impatiens.Balsam.-  作者: 原案-tyari- 作-かっつん-
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5章-数多の生命とひとつの命-


5章


俺は言葉を失っていた。

どうして重機が動いたのか、理由はたった一つだった。

花がゆっくりと大きく震え、開いたのだ。


「花が……開いた……」


……2度目の開花。

それを見て重機を動かしていた運転手が焦り、エンジンを大きく吹かしたのだ。


「お、おいカンタ!リサ!」


俺は政府の人間と話をしていて2人の存在を忘れていた。

あたりを見渡してもいない。ついさっきまで俺のすぐ横にいたのに。


「君の友人はそこにいるぞ」


総理がそう言い指を指す。その先10m程の位置にリサとカンタがいた。

しかしなにか様子がおかしい。フラフラと歩いている。

俺は2人に駆け寄り、呼びかけた。


「お、おいリサ!カンタ!」


返事はない。じれったくなった俺は2人の前に立ちふさがった。

……絶句した。


「お、お前ら……まさか」


目から入る情報。見慣れた友人に付着する黄色い液体。

耳から入る情報。見慣れた友人から聞こえてくる不気味な音。

鼻から入る情報。見慣れた友人から漂う不快感を誘う烏賊の焦げたような臭い。

俺の意識は、その情報すべてを否定しようとしている。


「ああ……ススム……なんだか俺達急に風呂に入りたくなったんだ」

「お風呂の匂いがするの……ねぇ、どこだかわかる?」

「カンタ!リサ!」


一昨日の行進がフラッシュバックする。

彼らの体にはほぼ全身と言えるだろう、黄色い粘液が付着していた。

さっきまでなんともなかったのに。


「どいてくれよススム。俺は風呂に入りたいんだ……」

「私も。ほら、すぐそこにいい匂いのするお風呂があるんだから……」

「よせ!お前ら、何を考えてる!あれは花だ!そうなっちまった奴らを飲み込む奴だ!」


カンタは俺より大柄だ、力も強い。故に俺はカンタを押そうとしても押し返される。

……ふと、俺は思いついたことを聞く。


「お、おい!3日前の夜……お前たち何をしたんだ?」

「私はカラオケに行って夜遅くに帰ったわ……」

「俺は友達とゲームをしてから帰ったよ。なんでそんなことを聞くんだ。いいからどいてくれ!」

「どかない。なぁカンタ、俺の問いかけに答えてくれ。その時に……雨に浴びたか?」


俺の質問にカンタではなくリサが答えた。


「そうよ。ねぇススム……お願いだからどいて!私……私もう……我慢できないっ!」


リサがせきを切ったように俺を突き飛ばし、花に向かって走り出した。遅れてカンタも走り出した。

転んだ俺はカンタに踏まれ、気を失った。

遠のく意識の中で、俺は疑心が確信へと変わった音を聞いたような気がする。









―――――――――――――――――――――――――


「――――――――――おい、おい!」


声がする。目を開くと、そこには黒服がいた。

後頭部と右手と左手には草の感覚がある。


「……っ、ここは……」

「あの花が咲く川原の土手だ。君が友人2人に蹴とばされたのを見かねて少し離れたところに連れてきた」


黒服の手助けを借りて体を起こすと、花とそれに群がる人々がいた。一昨日と全く同じ光景が繰り広げられていた。

大量の人間、蔓を伸ばし人を喰らう運命の華。風呂に入れたという快楽で顔を歪ませ死にゆく人々……

いや、全く同じじゃない。違う……群がっている人々はみな若者だ。


「穴を開けて引っこ抜こうとしたが、失敗に終わった。どうやら深く根付いているらしい」


黒服が掛けているサングラスを掛け直しつつ言う。

考えればわかることを2回も……それも専門家の発言からか。現場の言葉を聞かずに。現場の意見を尊重せずに。


「次に政府は火炎放射で焼き払おうとしているらしい。あと数分で到着するだろう」

「な、焼き払う!?こんなに人がいるのにそれごとやるというのか!?」

「もうあの液体に触れたという事実がある以上、あの人たちもウイルスに感染したようなものだ。それごと滅菌するのが正しいだろう?」

「な……」

「もう、大丈夫だな。何ともないのなら家に帰れ。外に出ることは控えるんだな」


そういうと俺の傍らにペットボトルを一つ置いて、黒服は立ち去った。

……ばかげている。言葉を失った。何を考えている。

俺は頭を抱えた。髪をぐしゃぐしゃとかき回しても、現実は変わらなかった。


「リサ……カンタ……」


俺の友人までも花に喰われた。父親だけじゃなく、俺の友人までも……




土手で花が俺とさして年齢が変わらない人々を喰らう様を見る。

政府が火炎放射器を取り出して、あの液体が付いた人々もろとも花に放火しているのが見える。

しかし、焼けるのは人々だけで、花はコゲひとつつかない。


「粘液がガードしているんだ……あの炎を」


俺は土手を駆け下り、いまだ後ろで立ち様子を見ていた総理大臣の元へと駆け寄った。


「総理!無駄だといってるのに!」

「ほう、さっきのガキか……」


総理大臣の顔は酷く醜く、脂ぎった顔へ豹変していた。

さっきまでの凛々しい、テレビで見るような面影は最早どこにもない。


「なんだ、さっきの2人はあの中か?」

「そうです!あの花にはその炎は効きません!人々が苦しむだけです!」


低く喉を鳴らし笑う総理。


「なにが可笑しい!?人々が苦しんでるんですよ!」

「なぜ花の吸収を抑えるだけでも有効だと考えないのか。我々はその為なら命を捨てることも厭わない連中を利用しているに過ぎない。そういうことなのだよ」

「あの粘液が表面にある限り炎が届きません!花の蜜で燃えた人も消火し消化されるのです!」

「そうか……なら表面をむき出しにさせればいいんだな」


やっと通じた。そう思った矢先、総理大臣は火炎放射器を手に走り出した。


「どけぇ!ガキの戯言に付き合ってる暇があるなら火を放て!」


総理は火を放つ部隊よりも前に出、粘液を湛えた人々を押しやり、花に火を放った。


「ワシははるか昔こうして功績をあげてきた祖父を知っている!前線に出て出世した人物を山のように知っておる!ワシもその1人となるのだぁっ!」


高笑いしながら火を噴く様は狂気さえ感じられた。


「何をしている!貴様らのような下等な捨て駒がこの総理を守らずして何をする!飛び込め!そしてワシの為に死ね!」


突如、蔓が増え、総理大臣、ならびに火を噴いていた連中を絡め取った。


「なぜ植物ごときに苦戦するのだ!ワシは……!ワシは……!」


花は宙に浮いてもなお叫び続ける総理の言葉を切るように花の中へと放り込まれた。

しばらく火炎放射器の炎が花から吹き出していたが、瞬く間にその炎も小さくなり、果てには消えた。

そして何事も無かったかのように、群がる若者を喰らい始めた。

気が付けば、俺の周りにいた黒服共もあの粘液が現れ始め、花の方へと向かって行った。俺の周りには誰もいなかった。


「あ……あ……」


もう、俺1人ではなにもすることができない。

俺はへたれ、膝をつき、ただその様を見る事しかできなかった。




……ふと、ポケットに違和感を感じる。

震える手をポケットに突っ込むと、小さな厚紙が入っていた。


4日前、奇妙な出会いをした厚紙だ。



俺はほぼ無意識のうちにその紙に書かれていた電話番号にコールしていた。

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