3-2step Get Back!
俺は走って特別課外活動部室へと入ると、大声で要求する。
「俺のディバイン・アームズ返して!」
「あ、起きたの?」
そういって返してきたのはいつも通りゲームしている氷川兄だった。……気まずいなぁ。
「まあ、な。イエロー・イザナギは?」
「入れ違いだね。ユウ兄ィが返しに行ったはずだけど、すれ違わなかったの?」
「別ルート通ったのか……!」
まずい。條保の情報が正しいにしろ間違ってるにしろ早めに行かなきゃ取り返しのつかないことになるかもしれない。でも、呼びに行くよりも前に探したほうが良いのか……!? わからん、実にわからん!
「……ノメド関連なの?」
「わからない。俺も條保に知り合いが過激なストーカーに狙われてるって聞いただけだしな」
「んー、2-2のストーカー食らってる女子って言うと佐東さん?本人気付いてないし直接的な被害は出てないけど」
「あ、あぁ。なんで知ってるんだ?」
別のクラスなのに。接点無いはずなのに。
「え? 情報屋が女子にかかわる情報を週に1度送ってきてくれるの。口説きやすいようにね」
理由が最低だった。
「は? いや、お前って、女好き、なのか?」
「好色家、って言って欲しいね。ほら、英雄色を好む、って言うじゃない」
「英雄の向かう先は破滅だよ」
「はは、違いない」
ヘラクレスも、ギルガメスも、アーサー王も、ク・フーリンも。すべての英雄譚は英雄の死で幕は落ちる。英雄が死ななきゃ、今の世の中の理不尽さが説明できないから。
なんて、メルヘンなことを思って言ってみたりした次の瞬間、あることが思い浮かぶ。
「……氷川兄、お前佐東さんと知り合い?」
「え? まあ、一応」
「面識は?」
「ノメド関連で何度か。あと今さっきあったばっかりでしょうに」
「タンデム行ける?」
「いけるけど?」
……よぉし。
「ちょっと、トオルクン? 目、目が怖いよ?」
「ちょぉっと、付き合ってくれない?」
「なに? 何にさ?」
そんなこと、決まっている。
「ストーカー退治にさ!」
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「やぁ、佐東さん」
「や、やぁ」
「あれ? トオル君? レン君? どうしたのー?」
決めた時には即行動。俺は氷川兄を連れて佐東さんを探し出す。……ストーカーの方は探し出せなかったが。流石に、怖いな。もしもノメドだったら。それが俺たちが反応できないスピードだったら。もしも、もしも、もしも、もしも。そんな思考のスパイラルが深みに入っていくが、そんな素振りは見せない。不安にさせたくなんてないし。
念の為に條保から常に連絡を取り合っているが、あいつはそういう情報屋じゃないらしい。なら俺たちの周りで見張るくらいしていてくれてもいいのになぁ。
因みにヒカル、ユウキの二人には事情を説明している。念のため捜索しながらこっちに向かってきてくれているらしい。本当に頭が下がる。氷川弟は知らん。一応氷川兄が連絡を取ったらしいが、補習だそうだ。いつ来るかわからんもんを期待するつもりはない。
「佐東さん、誰かに見られてる気配とか……げふぅっ!?」
氷川兄に叩かれた。何故だ。
「(君バカァ!? ストーカーされてる人に「ストーカーされてますよ」って真正面から正直に話すか普通!?)」
「(あー、そっちの方に頭いってなかった。ごめんごめん)」
そういうことか。納得した。怪しまれてないといいんだが。
「もー、レン君、いきなり人を叩いちゃダメだよー?」
「んあ、いや、虫! 虫がいたのさ!」
「あ、あぁ。羽虫がブンブンうるさくてな。助かった、氷川兄」
「いえいえどーいたしまして」
よかった。ばれていない。佐東さんはいつも通りのぽわぽわした雰囲気を醸し出している。
だけど、危機感から来る緊張を緩ませるわけには行かない。過度の緩みは毒だ。過度の緊張も毒だが。
その時、佐藤さんのはるか後方から光がともった。
「…! 氷川兄っ!」
「言われなくてもわかってる! 起動せよ!」
俺の呼びかけと同時に氷川兄は首にかけられたチェーンを引っ張り、制服の下から鳥の形に加工されたドッグタグを取り出す。
「コール・ブラック・ヒュプノス! セェーット、アァーップ!」
≪Awaken! D・Arms"Brack Hypnos"! set up!≫
そして叫ぶと同時にドッグタグを握り締めると、紫色の光に包まれ、ディバイン・アームズを装着する。
その姿は、頭には緑色のバイザーとエルフ耳のようなアンテナインカムが付き、体には浴衣の上に甚平を羽織ったような形で下半身には袴が履かれている。そしてその格好には不釣合いな小型のバックパックとそれとコードで直結した形のグローブ、それとウェスタンブーツ。
なんというか、必殺仕○人でからくりピストルの○事人が出てきた時と同じ感想を抱いたのは内緒だ。
さして一瞬だけ暗くなったかと思うとその両手のすべての指には黒い鋼糸が装着されていた。あれが氷川兄の装備なのだろう。
「糸紡蜘蛛、結界を張れ!」
氷川兄が腕を振るうと、鋼糸が辺りを飛び回り、さながら蜘蛛の巣のように張り巡らされる。
それを突き抜けられても捕らえるために俺も鞭を構え、襲撃に備える。
「えっと、何、どうかしたの?」
「えと、まあ、佐東さんが気にすることはないよ」
「そうそう。優衣ちゃんが気にすることは何にもないから僕たちに任せといてー」
一瞬、佐東さんの対応に気を取られる。その瞬間だった。
エンジン音が響き渡り、光が点っていた方向とは真逆から猛スピードでバイクが走ってくる。
「んなっ!?」
「アグレッシブすぎんでしょあのストーカー!?」
俺の方は完全に反応が遅れ、氷川兄の方は腕を振るい、結界をさらに強める。
「丁度いい、教えといてやる。僕のD・アームズ属性は光! 所有者属性は風! そして結界は……」
光がほとばしり、校舎のいたる所から光が集まってくる。もう既にそこまで広がっていたのか!?
「あんたを、包囲している! あんたがノメドかどうか知らないが、ぶっ飛ばしてから判断させてもらうとするよ!」
一瞬、辺りが暗くなる。次の瞬間、目の前が光に包まれた。
「シャイニング・スプラッシュ!」
攻撃が着弾し、弾けた音が聞こえる。だが、エンジン音が鳴り止まない。
目が慣れてきて、辺りを確認すると、もう直ぐ近くまで迫ってきていた。
乗る者は、異形。即ち、ノメド。瞳は、あるが。その姿はまるで獣、狼のようだった。
「優衣さんは……頂いていくっ!」
「冗談きついぞこのアグレッシブストーカー! 狼は狼らしく、絶滅してろ!」
俺は鞭を振るい、ノメドを攻撃する。が、一瞬ひるんだだけで尚も進み続ける。
「こ……のォっ!」
「無駄だよ!」
鞭での攻撃が通らないなら、と俺は拳で殴りバイクから引きずり下ろそうとするが、突如取り出された鉄パイプで殴り飛ばされる。
「ぐあっ!?」
「トオル君!?」
「ごめん、回収に時間かかった!」
「なっ!?」
氷川兄のワイヤーが絡まり、ストーカーの動きが緩む。その隙に俺は佐東さんを安全であろう場所に避難させる。
「佐東さん、今すぐ校舎の方へ逃げるんだ。校舎に入りさえすれば、後は條保かヒカル達が保護してくれる。後、これ持って。さ、早く!」
「う、うん!」
佐藤さんが走りだしたのを見届けたあと、ワイヤーを力任せに引きちぎろうとするノメドに向かって後ろ蹴りを入れ、少し宙に浮かせる。これで、どんな技を氷川兄が出したとしてもかけやすいはずだ。
「氷川兄! 止めを!」
「はぁいよ!」
氷川兄はそう返事をすると腕を振り落とし、それと同時にノメドが宙に浮かぶ。恐らく、屋上のフェンスを使って簡易的なカタパルトを組み上げてその発射するため、支えるための鋼糸を括りつけていたのだろう。抜け目のない奴だ。
そのまま回転し、その動きはまるで激しい神楽舞を踊っているようなふうに見えるが、実際にはそこかしこでチラチラと光を反射するワイヤーで分かるが、必殺技の前の下準備を済ませているのだろう。
「チェック!」
《 《FINAL ATTACK!》 》
「ワイヤーストリングス、大・圧・殺!」
チェックの声と共に、そこらじゅうの宙を裂くワイヤーが光り輝いたかと思うと光がノメドへと集中、爆発し、緑色の粒子がそこかしこに広がる。その時ようやくノメドがワイヤーに切り刻まれたことを理解した。
「ビューティフォー……」
「……決めゼリフはまだだよ、トオルクン。手応えがおかしい、ノメドの顔は見た?」
氷川兄が問うてくる。まあ、見ているけどさ。
「見たよ。ノメドなくせに瞳があった。今までのやつにはなかったのにさぁ」
「……ちっ、なるほぉど、将軍タイプか。ってこたぁあれは兵隊か、ド畜生」
「じぇ、ジェネラル? アーミー? いきなり聞いたこともない設定を話すな」
「ったくもー、輝兄たちはノメドタイプすら教えてないのか!」
氷川兄は右手で頭の後ろを掻き毟る。俺だって訳が判らなすぎて掻き毟りたいよ。
「まあ、話は後! 感づかれて陽動食らった……!」
氷川兄が校舎に踵を返した瞬間。
「きゃあーっ!?」
「「!!」」
佐東さんの悲鳴が上がる。まずった! そう思った瞬間、佐東さんを小脇に抱えたノメドを乗せたバイクが猛スピードで俺と氷川兄の間を通り抜け、俺達二人は弾き飛ばされる。
「うおっ!?」
「ちぃっ」
俺達二人は弾き飛ばされながら体勢を整え着地する。
「氷川兄!」
「応! カモン! ベオウルフ!」
氷川兄の胸部装甲が紫色に光りオフロードバイクが召喚され前部分に氷川兄が、後ろ部分に俺が飛び乗りエンジンがかかる。
「さぁ、振り切るよ!」
「振り切るな追いかけろ!」
そしてスロットルが開かれバイクは弾丸のように走り出した。