2-3step 雷神の目覚め
次の日の放課後の夕方、鴉は鳴いて空へ飛び立つ。そんな中、ある二人の男女が校門前で待ち合わせしていた。
「ごめん、待った?」
「いや、こっちも今部活終わった所だったから」
茶色い短髪の演劇部所属の少年霧ヶ丘舜、そしてその隣に立っているのは、ゴスロリブレザー少女苗木裕香ではなく、
「じゃあ行こう、舜」
「うん、どこにいこうか、愛美」
白い髪の文学部所属の少女、日向愛美だった。
「でも、大丈夫?最近特別課外活動部の人が舜の事聞きに来たって聞いたけど」
何、単純な話だ。霧ヶ丘と日向は中学時代から今までずっとクラスメイト。友達がいなかった日向に霧ヶ丘が近寄って友達になった。多分、中学三年の受験シーズンに同じ高校に入れたら付き合おう、等と甘酸っぱい約束をしたのだろう。
「大丈夫。大したことじゃなかったって日殿先輩も言ってくれたし。昼休みにその特別課外活動部の人が『君達の事、応援してる』って、言ってきてくれたし。どうも、少し怪しまれてたみたい。で、あの人に依頼が来たんだって」
そしてめでたくゴールイン。麻音が知らなかったのも部内恋愛じゃあない上に学校ではそんなそぶりは見せなかった。それならば仕方ない。
ちなみに日殿は麻音の名字である。みょうちきりんな名字だ。
「でも、不思議だね。周りに他の人の姿が見えないなんて」
さて、ここで問題になってくるのは、当初の依頼人、苗木裕香である。実際に付き合っていたのは日向の方であるため、さっさと依頼は取り消し、あの二人へとの関わりもバッサリ。と、いきたい所なのだが。そう問屋が卸してくれるわけもなく。
「……待ってて舜。今、その阿波擦れを殺してあげる」
そう、完璧にいかれちまってたのである。目の前で不幸な人間を三人も出したくないので、止めないとな。
「縛蛇鞭!」
俺は懐に仕込んでおいた鞭を取り出し、それを振るい苗木の首に巻き付ける。
「なんで……っ、あなたが邪魔を……ッ!」
「当たり前だ。目の前で人刺そうとしてれば止めるさ。誰だって」
「どいて、離して……そこの阿波擦れ、殺せない……ッ!」
「うおっ!?」
俺の体が引っ張られ、一瞬宙に浮くが、すぐさま体勢を立て直す。やはり、ノメドになっているのか。完全には解放されていないようだが。
「あなた、言ったじゃない……出来るだけ私の意を汲んでくれるって、浮気相手も好きにしろって!」
「そもそも浮気じゃなかったから依頼は取り消しだ。それにその時も言った筈だ、『不相応な力に頼るな』と!」
このままでは放しそうなので、右手首に鞭をくくりつける。これで放さない。
「不相応?あの阿波擦れを殺すのに、これ程適した力もないわ。あの阿波擦れは、潰して、刻んで、ばらしてぶっ壊してやらなきゃ気が済まないの!」
「……っ、何を言っている。お前はあの霧ヶ丘から、顔も知られていないのに!よくそこまで言えたものだな!」
そう。一番の矛盾点。それは苗木と麻音の証言。苗木は『なにかバレることに怯えている』、麻音は『視線を感じて怯えている』。一見この二つの証言、ただ食い違っているだけ、と考えるだろうが、麻音の方が間違えるわけがないのだ。覚えているだろうか、霧ヶ丘が『特別課外活動部の人が自分の事を調べに来た』と言い切ったことを。俺は話を麻音にしか聞いていない。なのに霧ヶ丘がそれを知っている理由はごく普通、『麻音と先輩後輩として仲がよかった』ただそれだけの話だ。そして麻音は演劇部のホープ。信頼されて相談されることも多いようだ。つまり、食い違うことこそ一番の矛盾点。苗木と霧ヶ丘の関係を簡単に表していた。そして條保の寄越した情報を細かく見てみると、霧ヶ丘の人間関係には苗木の名は一切でないし、苗木の人間関係には日向の名が一切でなかった。俗に言う、メンヘラ、といった奴なのだろう。おまけでついてきた情報に、苗木は自殺未遂の常習犯とあった。よくこの十五年余り生きてこられたものだ。
「あなたも、私の敵なら、死んでしまえっ!」
「がぁっ!?」
鞭の感触がなくなったかと思うと、首に衝撃を感じ、続いて息ができなくなる。不味い、首を絞められている!苗木の方を見ると、その整った顔もその面影をなくし、爬虫類のような鱗に覆われ、さながら蛇、といったような姿に変わっていた。印象も瞳もないせいで不気味の谷の奥底だ。
鞭の方に目をやると、ちぎれてはいなかった。恐らくあの鱗で抜け出したのだろう。
形勢逆転されたが、俺の手札を全部晒した訳ではない。俺は、イエロー・イザナギを首を絞める苗木の尻尾に当てる。
「そんなもの、どうする気?」
そんなこと言われても、首絞められてるんだから何も言えない。だが答えは簡単だ。イエロー・イザナギを通して生体電気を増幅、一気に放出し、尻尾を通らせる。
「きゃあっ!?」
「んぐっ!?」
一瞬今までよりキツく絞められるが、すぐさま緩んだのでその隙に拘束から抜け出す。首の骨折れなくてよかった。次からは生体電気を操ったら腕に通してほどく時に使おう。多少ビリビリしてもイザナギがどうにかしてくれるみたいだし。
「げほっ!げほっ!多少誤算があったが、脱け出し成功!そっちがその気なら、こっちだってやってやる!」
≪無茶するなぁ、えぇ!?≫
「うるさい!行くぞ!」
イザナギの言葉に返答しながら、俺はファイティングポーズをとり、右拳をすぐさま叩きつけられるように用意する。
「また動けなくしてあげるわ!」
「起動せよ!コール、イエロー・イザナギ!セット、アップ!」
≪Awaken!D・Arms"Yealow Izanagi"!set up!≫
飛んできた尻尾をスウェーでかわし、尻尾の横腹に拳を叩きつける。そして指輪が押し込まれると、稲妻が走り、苗木を吹き飛ばす。
そして宙を走る稲妻は俺に向かい、全身を包む。そして一瞬の内に黄色いパワードスーツ、『イエロー・イザナギ』が展開される。
「特別課外活動部、チーム『ジョベンドゥ』No.5!斑目通、推参!」
そして名乗りをあげて天之瓊矛と盾、『白盾』を作り出し、盾を構える。
ちなみに、この『白盾』とは、『日本書紀』の一書に、「天神 大己貴神に勅して180縫の白楯を造らしめた」という記事がある。この盾の名前から拝借したものだ。
あと、No.は入部した順番。
「邪魔するなら!」
苗木が体勢を立て直し、口からヘドロのようなものを高速で連射してくるが、俺は盾を構え、それで防御しながら苗木に向かって走る。
「甘い!」
俺は苗木の懐に潜り込むと槍を腹に突き刺す。
「きゃあああ!」
苗木は悲鳴をあげ、血飛沫が俺を染める。大したことないな、と思いながらチェックしようと槍を握る手に力を込めると、違和感。軽すぎる。
「あああ……あーっははは!かかったわね!」
悲鳴は笑い声に代わり、勝ち誇るような声を苗木はあげる。
様子を見ようと俺は退こうとするが、少し、遅かった。
槍が当初刺さっていたのは本物の苗木だった。だが苗木はその蛇のような姿、特性を利用し脱皮。俺の死角になるように動き、用意していたのだろう。
ヘドロに、横殴りに吹き飛ばされた。
そして俺は俺から見て左側へと吹き飛んでいく。
「ぐわあぁぁぁ!」
俺は衝撃から生じる痛みに耐えきれず叫ぶ。だが、のたうち回ってちゃ反撃できない。転がる勢いを利用し立ち上がり、足をバネのように縮ませて力を溜め、それを一気に解放し苗木の元へと駆ける。
「後ろへ脱皮し刺突から脱出するなら逃げられないように刺し貫くのみ!チェック!」
《 《FINAL ATTACK!》 》
「クライマックス・ユニコォーンッッッ!」
天之瓊矛に金色の光が集まり、力が高まっていく感覚が俺を突き動かす。
足の廻りも早くなり、大地を蹴る間隔が短く、されど蹴る力は強くなっていく。
もっと早く、速く、早く、速く、早く速く、早く速く早く速く。
加速するスピードは俺のテンションを高揚させ、体を最大のコンディションに作り変えていく。
そして速度が最大になったところで槍を思い切り振りかぶり、苗木へと突き刺した。
「おぉおぉぉおおぉおぉ!」
「いやぁぁぁっ!?」
今度こそ、手応えは感じる。だが、チェック時のあのきれいな緑色の魔欲粒子が噴出されていない。何故だ!?
その疑問は傷口以外に目をやると直ぐに氷解した。真横に脱皮し、刺さる部分に石を挿し込んでいやがった。
「また、かかったわね!」
「ちぃっ!?」
またヘドロが噴出されるが、横側からではなく前側からだったため辛うじて盾で防ぐことに成功する。
「これでも、くらえっ!」
「無駄よ……ッ!」
槍先から電撃を正面に発射し、苗木から見えないように盾からも電撃を地面スレスレに発射する。
苗木は一撃目は軽々とよけるが、死角から襲いかかってきた電撃には対応できず、真上に吹き飛ばされる。今なら!
「チェック!」
《 《FINAL BREAK!》 》
「飛電雷脚!」
俺は右足に電気を帯びさせ、高く高く苗木の元に跳び込む。そして体を縦に百八十度回転。苗木へと飛び蹴りを決める体勢だ。
今までかわされたときにはすべてその前に脱け殻だけ残して避けられていた。クライマックス・ユニコーンはその発動には加速のための助走が必要だ。遠距離攻撃はヘドロで相殺される可能性がある。なら、直に砕く。
「はぁぁぁっ!」
だが、その思いは、思惑は、呆気なく。
「甘いわよっ!」
「蹴りの勢いを利用して!?」
打ち砕かれた。呆気なく、蹴りの勢いで脱皮されて。クライマックス・ユニコーンなら、利用されない。その前に突き刺さる。だが、空高くには放てない。
飛電雷脚なら空高くに放てる。だが、その勢いを利用される。
なら……!
「この位置なら、ヘドロも吐き出せないし、避けられないだろ!チェック!」
《 《FINAL SHOOT!》 》
「エレクトリック・スマッシャー!」
槍先を苗木に向け、その穂先から雷撃を放つ。だが、
「だから甘いっていってるの!」
「なっ!?」
脱け殻を俺の体に当て、簡易アースを作られた。突き放す間もなく雷撃は着弾。苗木の体を通ると同時に脱け殻を伝わり俺の体にも雷撃が流れる。
「きゃあああ!」
「ぐぅぅぅ!?」
苗木にもダメージは入っているが、決定打にはならない。むしろ俺に向かっても大ダメージ。イザナギが軽減してもこれとは、元々苗木のノメドは電気耐性が高いようだ。
「どうしたら……!?」
思わずこんな言葉を呟くくらいに、俺は追い込まれていた。離れてエレクトリック・スマッシャーをしても避けられる。もしくは相殺。クライマックス・ユニコーンは避けられる。飛電雷脚は勢いを利用される。どう倒せばいいんだ?もう、手詰まりだぞ?
≪……おい、トオル。一つ、名案がある。逃げるんだ。で、死神の奴位に任せよう。俺達じゃ、敵わない。それくらいに相性最悪だ≫
そうイザナギが俺に告げる。確かに、相性最悪で勝てる気がしない。だけど。
「逃げちゃ、駄目なんだよ。あの敵から。初めての依頼は失敗だ。取り消しだから仕方ないところもあるかもしれない。でも、その原因は、彼女がノメドに目覚めた原因は、確かに俺でもあるんだ。俺の、無責任な発言、其処にも。原因が俺にもあるなら、責任は取らなくちゃあいけない。他人任せにおんぶにだっこじゃ、延々わめき散らすだけで、大人になんて、なれやしない。だから、逃げちゃ、駄目なんだ」
≪だが、死んだら元も子もない。ノメドはあのカップルを見失ってる。注意を引いて逃がしたんだ。責任だってとれてる。だから≫
「とれてない。ここで逃げて、あいつは追いかける。付きまとってたんだ。家ぐらい知ってるだろうし、調べたところあのカップルは幼なじみ同士だ。家も近くにあるだろうから、標識を調べて虱潰しにいけば簡単に見つかる。ヒカルが、見つけ出すまでに、あいつの元に辿り着ける保障はない。だから、俺は逃げない。絶対に」
≪……フッ、やっぱ、そうだよな≫
「何が」
イザナギの言葉に俺は怪訝な声を不機嫌さを隠さずにあげて聞く。いや、バカにされてるみたいだし。
≪やっぱお前は俺の選んだ適合者だ。変なこと言ってスマン≫
「ハッ、じゃなきゃ此処に立ってねぇさ」
すでに死んでる的な意味で。
≪んじゃ、俺も頑張らなきゃな。トオル。一つ聞かせろ≫
「なぁに?」
≪誰が為に、何の為に、お前はその命を投げ捨ててまで戦う?≫
イザナギの意図を、その質問で理解する。真っ直ぐな思いを、聞いてるんだ。彼女を、倒す意思、見ず知らずのカップルを守る意味。そんなもの、決まってる。
「誰の為と、聞かれたならば、それは勿論俺の為。目の前で死なれちゃ夢見も悪いし飯も不味い。何の為と、聞かれたならば、今亡き母との約束の為。さあイザナギ、俺は答えた手前の力を貸しやがれ!」
≪当然貸すに、決まってるだろ。さあ今叫べ、“ウェイクアップ・ゴッヅ”、キーワードを!≫
その言葉を聞いた途端、脳裏に浮かぶ、転校初日の夢景色。ああなる訳ないってわかっちゃいても、さすがにあの悪寒は消え失せない。だが、今はこれが最善の光輝く道に思えた。
「いい加減、待ちくたびれたわ!」
「ウェイクアップ・ゴッヅ!モデル・イザナギィィィ!」
《 《Wake Up Gods! Model "IZANAGI"!》 》
痺れを切らした苗木が飛び込んでくるのと、俺が叫んだのは同時だった。俺が叫んだ瞬間、俺に雷が落ち、苗木が弾き飛ばされる。そして雷を浴びた装甲は鋭利的に変わり、鉢当も長方形から鋭いV字型に変わる。そして耳の少し前辺りにアンテナがついたと思うとそこからバイザーが展開し、恐らく生体反応と思われる数値が苗木を囲むサークルに浮かぶ。……成る程、お誂え向きだ。そう思っていると天之瓊矛が鋭く長く変わり、白盾も逆五角形から逆三角形へと姿を変える。白盾にはもう滑らかさは消え、何か開きそうな割れ目すらある。同じ名前じゃダメかな。なら。
「姿が変わった所で!」
「ツクヨミ!」
俺は形が変わった盾に新たな名前をつけ、吐かれたヘドロを受け止める。
因みに名前の由来はイザナギの息子(娘だったか?)の“月読之命”に由来。
「ハッ、どっちが甘いのさ。忘れたか、あんたが自分から攻撃して俺がまともにもらったのは一番最初の攻撃だけだ!」
「ふん、貴方が私にまともにダメージを与えたのも最初の鞭だけだけどねぇ!」
どちらとも相手が攻めてこない状態でまともにダメージを与えられたのは生身の時のみ。だが、今さっきまでとは状況が違う。何故なら、俺は神の力を得ているのだから。
「それはどうかな!」
俺は相手の懐に潜り込むため、姿勢を低くし、強く大地を蹴る。加速し風を感じながら生体反応を見る。今、脱皮したな。
「ゼェェア!」
「えっ、なんで場所がわかって……!?きゃあああ!」
生体反応を示した場所を槍、“アマテラス”で思いっきり突く。
こちらの名前はイザナギの娘、“天照大神”に由来。
そして、俺は盾の状態だったツクヨミを槍に変え、苗木を滅多刺しにする。
「せりゃせりゃせりゃせりゃせりゃせりゃせりゃせりゃあぁぁっ!」
「盾がっ、槍に!?くっ、いやっ、やめて、私を、通して!」
「お断りだよ!チェック!」
俺は拘束するために刺していた槍をアマテラスからツクヨミに替える。そして、止めを指すために叫ぶ。
《 《 FINAL ATTACK! 》 》
「|クライマックス(C)!|ユニコーン(U)!」
ツクヨミで苗木を拘束したまま大地を蹴って加速し、オレンジ色、赤黄金に輝くアマテラスを苗木に突き刺し、緑色の魔欲粒子がアマテラスを突き刺したところから溢れる。まだだ。まだ、これで終わる、訳がない!(散々やられた御返し的な意味で)
「アゲイィィィンッッッ!」
「きゃあああ!?」
ツクヨミを抜き、青白銀に輝き始めるツクヨミを振りかぶり、突き刺す。金と銀の光の奔流が魔欲粒子が噴出する勢いを更に強め、思いきって踏み切り、飛び込むと槍は腹から脳天にかけて貫ききり、魔欲粒子の爆発が起こり、苗木は病院に転送される。
「……ビューティフォー……」
俺は、降ってくる魔欲粒子に目をやりながら、小さな声で呟いた。苗木、病院で自殺未遂とか起こさなきゃいいんだが。
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「……なあ、なんで脱皮出来るってわかった時点で蔦で拘束しなかったんだ?」
「……鞭での拘束から逃げられたんで無意味かと」
「忘れてたろ」
「はい」
ヒカルに報告しにいくと、戦術をすぐさま突っ込まれた。うん、うっかり忘れてた。イザナギ、言ってくれよ。
≪いや、俺は基本戦術に口出さんよ?そういうのは装着者の仕事、ヤバイと思ったら撤退の進言位はするけどさ≫
「そもそも、自分が操れる属性忘れる方があり得ないわ」
「……返す言葉もありませんっ……!」
正論、正論、&正論。まあ、自分の武器の一つだもんなぁ。属性操作。それを忘れて負けかけたんだし、言われても仕方がない、か。あ、属性といえば。
「そういやユウキは装着者属性、ディバイン・アームズ属性じゃなくて攻撃属性、防御属性って言ってた気がするんだけど」
「ああ、あいつ一度攻撃にD・アームズ属性の大地使ったら、地割れに、呑み込まれてな?」
「え、それどうしたんですか」幸いその時にはレンがいたからレンに引き上げてもらったんだが……それから、トラウマかどうか知らないが、攻撃に大地使わなくなって、攻撃属性、防御属性って言い始めた」
フムフム成程。別に変わった訳じゃなかったのか。そう思いながら報告しに来たときに出されたココアを飲んでいると(めっちゃ甘かった)、ヒカルがおもむろに問いかけてきた。
「そういえば、ウェイクアップ・ゴッヅ、というのはどうやってやったんだ?今でもやり方がわからなくてな」
「え、イザナギがいきなりやり始めたんでよくわかんないんだけど」
≪なんかロックがいきなり外れたプログラムがあったからな。とりあえず使ってみた≫
「お前、よくわかんない物使ったんかい……!?」
イザナギの言葉に、俺が驚愕していると、ヒカルは俯いて、何かを考え込んでいた……
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んで、帰宅。まあ、怪我は無かったしさっさと帰れ、とヒカルに追い出され、そのノメド討伐報酬(一瞬気絶するかと思うくらい諭吉が入っていた。危険手当込だそうだ)を受け取り、財布にいくらか入れて通帳に入金し、晩飯の買い物をして急いで帰ってきた。
いや、さっさと帰らなきゃ麻音が晩飯つくりかねんし。一度食べたことがあるがあれは、もう二度と食いたくないくらい不味かった。
甘ったるいと思ったら急激に酸っぱくなり、口の中に苦味が広がった瞬間に吐き出したんだっけ。うん、地獄。
「ただいまー……ん?麻音、居ないのか」
演劇部の練習は終わっているはずなんだが。そう思いながらリビングを経由し台所へと向かっていると廊下の風呂場があるところから水音が聞こえてきた。なるほど、一番風呂浴びてたわけか。
まあ、なんとなく臨時収入が入ってきたから、という簡単かつ単純な理由で異様に豪華な食材を揃えてしまったので、腕によりをかけることにしよう。料理は娯楽、食事は癒し。料理は楽しみながら作るものであり、それを食べれば安らげるものであるべきなのだ。by母さん。
そんなわけでサラダ菜、玉ねぎ、パプリカなどを薄くスライスした後、一匹丸ごと買って来てしまった鮭(自分でもわからない)を素早く鱗を取り、皮と骨と身に分け、身を薄く切っていく。切り身のうち一つの塊を全て薄く切り分けたところで頭と砕いた骨と剥いだ皮を砂抜きされた蜊(魚屋のおじちゃんがやってくれてた)を鍋にぶち込み、水を半分くらい入れたところで味噌を溶かしながら投入、蓋をして煮込み、鮭のあら汁を作り(もちろん後で頭は俺用に分ける)、皿を用意してさっきスライスした野菜を敷き詰めた後、薄く切ったサケの切り身を乗せ、オリーブオイルと酢をぶっかける。これでカルパッチョ完成、残りは残った鮭の身の塊。
俺はこの身の塊をどうせ親父は今日帰ってこないんだろうし二つに切り分け、バット(野球のやつではない)を取り出し、その中に小麦粉を敷き詰め、鮭の身に万遍なく小麦粉をかける。
そしてバターを敷いたフライパンで蒸し焼きにし、ムニエル完成。
鮭のカルパッチョにムニエルにあら汁。今日の晩飯は鮭を一匹丸々使ってみました。
「ふぅ、気持ちよかったぁ。あれ?良い匂い……」
そんなことをしていると水音が止み、麻音が出てきた。
全裸で。一糸纏わぬ姿で(Dカップの)生まれたままの姿を披露している。
それを見た瞬間に俺は目を覆い、頬を真っ赤にして真後ろを向いて叫びながら蹲る。
「いやいや隠せ隠せ!ンで服着ろ!」
「いやその反応ふつうこっちがするべき反応なんだろうけどね。まあ、一緒にお風呂で裸の付き合いしたことある仲じゃない。あ、今日は鮭尽くし?」
「いやそれとこれとは別だし服着ろっつってんだろぉぉぉがぁぁぁっ!」
……たぶん今日寝るときにはバフ○リンを飲んでいることだろう。もう、疲れた。




