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2-1step 何の為に誰が為に

「トオル!大丈夫!?」


 俺は家に帰ると同時にその甲高い声を聞く。


「だぁいじょーぶだよ麻音。ちゃんと無傷で帰ってきたし」


 俺は心配する麻音にそう答え、テーブルの上に置いてあった(恐らく麻音が勝手に郵便物の中から取ってきた)冊子を手に取る。少年ジャ○プ並の分厚さで、『SEAE江ようこそ!』と……、どっかで見たぞ、こんな冊子を。そこら辺には目をつむり(ロゴはまるで違ったし)、ページをめくり読んでみることにする。


「通、それ……」

「人助けのボランティアに参加してみることにした。その概要が書いてあるんだと」

「いや、確か特別課外活動部って」


 えーっと何々?『SEAEはANTの組織の一部として存在するため、D・アームズ装着者には、危険手当てなど含む賃金が払われます。』と。ふむ……


「ハァッ!?」

「ボランティアってよりアルバイトって感じじゃ……」


 まぁそうか。一瞬呆気に取られたが、不定期に時間を取るわけだからな。よく考えたらヒカルも『昔は軍部などに』、て言ってたし、元々給与は出ていたのだろう。スポンサーもいると言っていたし。

 なら、次。『SEAEはNOMEDを倒すためだけの部活ではありません。部活動らしく、青春を楽しく過ごすことも必要でしょう。なので、基本的には生徒の学園生活を応援するため、依頼を請け負いながらNOMEDに備えることとなります。』

 なるほど。一切ノメドが出て来なかったとしてもこうしておけば活動自体はしていることになる。廃部の危険性を無くしているわけだ。あれだな。自衛隊的な。

 んで次。『SEAE所属のD・アームズは授業義務がなくなり、テストのみで単位が決定されます』……もう委員会みたいにしたほうが上手くいくんじゃないかな、これ。


「というか、ご飯は……!?」

「あぁ、ごめんごめん。今作るよ」


 俺は冊子を机の上に置き、台所へと向かい、冷蔵庫を開ける。材料は、牛肉と玉葱と人参。……じゃがいもと糸こんにゃくあれば肉じゃが作るんだけど。疲れてるし、簡単なもの作る程度にしておこう。


「野菜炒めでもいいよな?」

「いいよ!通が作るんだったら美味しいし!」


 ぶっちゃけほとんどあり合わせのもので作る上に野菜も二種類だから『野菜炒め』とは程遠いのだが。まあ名前一々考えるのも面倒なのでフライパンに油を敷き、コンロに火をつける。とりあえず、今は腹ペコお嬢様を満足させますか。


 --------------------------------------------------------------------


「ご馳走様ー!」

「御粗末」


 手を合わせて完食した空の皿にお辞儀をする。今日失った血となれ肉となれ。


「私、風呂に入ってくるけど……覗いてね?」

「逆じゃん!?……まあいいや。行ってらっしゃい。風呂掃除したものが一番風呂の権利あり、だし」

「残り湯に欲情しちゃダメだよー!」

「浴場だけに、と。やかましいわ!」


 さっさ入って来いと追い払うようにジェスチャーすると、麻音はちぇー、と頬を膨らませると、トテトテと自分の部屋に着替えを取りに行き、風呂へと入っていった。うん。なんかスッゲー自然にあいつの部屋できてんのな。余り部屋この家たくさんあるが、階段から二番目に近い場所にしていた。(一番近い2部屋は俺と親父のそれぞれが使っている)ってか、俺の部屋の隣だし。間違えて入ってきてもらっても困るぞ?

 そんなことを考えていると、シャワーの水音が聞こえてきた。さて。


「話を聞かせてもらうぞ。イザナギ」

 《速攻で名前に気がつくか。やるねぇ》

「神様モチーフって聞いたら楽勝だろうよ」


 そんな軽口を叩きながら指輪の中のAIと会話をする。麻音が風呂に入ってからし始めたのはほら、頭おかしい人と思われたくないし。


「聞かせてもらうぞ。お前が、俺のどこを気に入ったか」

 《簡単な話さ。お前も昔、3分間しか地球上で活躍できない巨人の番組を見たことあるだろう?》

「まあな。それ見てなきゃあんまり話ついていけなかったりするし」

 《最初の奴こそ業務上過失致死の相手を生きながらえさせて無かった事にしようとしただけだが、後の奴はほぼ全員『命を投げ捨ててでもほかの命を助けようとする・強大な敵に立ち向かおうとする姿に心打たれて』だ。お前も、当てはまるだろう?》

「……確かにな」


 よく考えたら佐東さんに(四月一日のやつはどうでもいいどうせからかってくるだろう)死んだと思われてるかもなんだよな。俺。幽霊見るような目で見られるかもしれないんだよなぁ……


「幽霊になるのはゴメンだからな!?」

 《誰だってそうだろうよよっぽど未練ない限り》


 はっ、叫んでいたようだ。無意識って辛い。


 《ま、死神は違う理由みたいだが、他の奴は大体そう。俺も、例外なくな》

「ふぅん……」


 死神ってのは、ヒカルのブルー・タナトスの中の奴の事なのだろうか。だとしたら、他の理由とは、一体?……今度聞かせてもらおう。


 《そういえばお前に聞いておきたいことがある。お前は、何の為に戦う?》

「人助けさ。基本的に俺は善人でね」

 《そんなことは分かっている。そこは解っているからお前を選んだ。聞き方を変えよう。誰のために?》

「誰の為に?」


 誰のためと言われてもすこし、困る。まあ、麻音と佐東さんと親父は絶対に守るが……(佐東さんは初対面だったが)


「母さんの為、かな」

 《母親?お前の母親は死んでいるんじゃあないのか》

「なんで知ってる?」

 《最終的に決める前に家族構成くらいは調べさせてもらったからな。それ以上のことは知らんが》

「はぁ、まあいい。死んだ母親の名にかけて、とだけ言っておく。それ以上は」

 《それ以上は?》

「その、噂とかされたら恥ずかしいし……」

 《女子かお前は》

「よく言われる」


 家事的な意味で。容姿はまあ、男性的に中の上くらい?自分で言うのもなんだけれど。


「ま、三回目のシャワーの音が聞こえてきたし、そろそろ話はやめよう。麻音に指輪と話すところ見られても困る」

 《……良くも悪くも一般人だな、お前》

「ほっとけ」


 俺は机の上の冊子をとって、着替えを取りに俺の部屋に向かう。……制服改造とかしてみるか?普通過ぎたら逆に浮きそうだしなぁ……この冊子読んだところを見る限り……


 --------------------------------------------------------------------


 そして翌日。端的に言うと佐東さんは死んだと思っていたらしく、俺の顔を見た瞬間、泣きながら抱きついてきた。役得。抱き返してみたらニヤけながら四月一日が横から抱きついてきた。裏拳。

 まあそんな朝の出来事(恐らくクラス内での男子評価が下がった。自業自得だけども)も終わり、授業の時間。


「で、あるからして、三角比の公式を用いてグラフの長さを求めることができるので」


 まあ受ける必要はないのだけれど、受けとかないと心象とかねぇ?そう思いながら黒板の図やら文字やらをノートに写していると、廊下から足音が響いてきた。校長先生の見回りか?


「三輪先生、今、時間はいいか?」

「な、七瀬先生!?えぇ、まあ、大丈夫ですけど」


 教室のドアが開いたかと思うと、凄いイケメンがそこにいた。いや誰?本当に知らない。ってか先生、頬赤らめないでください、あと今は授業中です、あなたの時間はありません。ってか教師が職場内恋愛て……いいのか?


「そうか。なら……」

「「えっ」」


 なんかこっち来て俺と先生の声が重なる。いや先生どんだけ期待してんですか。そんなことを考えていると後ろ襟を掴まれ、勢い良く肩に抱えられる。


「ちょ、何!?なんなの!?」

「こいつ借りてくな。まだPDA渡してなくて連絡できなかったからさ、直接来た」


 そのまんま荷物よろしく連れて行かれる。廊下に出たあたりで、俺を抱えた先生が口を開いた。


「あぁ、そういえばお前の方は俺のことをまだ知らないか」

「当たり前でしょう!?転校してきてまだ1日だぞこっち!」

「そりゃあ悪かったな。俺は七瀬太郎、あぁ、郎は月の方じゃないぞ?ま、どうでもいいだろうが。2年教務主事で、特別課外活動部顧問だ。ちなみに三六歳妻子持ち。あぁ娘は生徒会書記やってるからあったらよろしく頼む」


 あの先生妻子持ちの先生に『時間あるか』言われて期待してたのか。駄目じゃねぇ?まあそんなことは関係なく、階段を二階分降り(俺の所属する2年生の教室は三階、校舎は5階建て)、廊下を曲がり、普通の部室二個分ぐらいの部屋の前で止まる。そういや昨日はいろいろ有って詳しく観察できていなかったなぁ。

 ここが、特別課外活動部の部室か。


「お前ら、新人連れてきたぞ。っていうか輝、握手する間あったらPDAを渡しておけ」

「すまない、ナナセン」

「俺も忘れてたわー、ナナセン」

「ナナセン呼ぶな」


 七瀬先生がドアを開けると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。ヒカルとユウキだ。


「こ、こんにちは」


 その時、今のこの状況を思い出し、少し詰まりながら挨拶する。いや、まだ高校生だけど男なのに肩に担がれている状況は結構恥ずかしい。


「こんにちは、トオル」

「よう!ってか、なんで担がれてんの?」


 ヒカルは会釈しながら返してくれ、ユウキは片手を挙げ返してくれた後、言いづらいことを聞いてきた。


「……流れ?ってか先生、下ろして」

「あ、すまんな」


 七瀬先生がそう返すと、俺は頭から落とされた。


「うおぉっ!?」


 俺は手を地面に伸ばし、接触した瞬間に少しずつ曲げていくことにより速度を落とし、頭がぶつかりそうになった瞬間伸ばすことにより跳ね、そこで体制を整え、両足で着地する。

 着地して、勢いを手をあたふたさせて殺すと、七瀬先生に向き叫ぶ。


「っと、何すんですかぁっ!?」

「おぉ、うまくやったなぁ。パワータイプ二人は失敗したってのに」

「「うるさい!」」


 七瀬先生がそう言った瞬間にユウキともうひとり、これも恐らくユウキには及ばないものの背が高く、蒼い瞳が物珍しい。頭には覆うように緑のバンダナが巻かれ、学ランは純白に染められていた。なんかエリート校の番長っていう風貌だ。何というかユウキと反対。

 ここで気づいたが、この場にはヒカルとユウキ、七瀬先生の他に、3人いることに気がつく。一人はこの学校関係者ではないようだけど。

 一人、漆黒のブレザーを着た人は、中性的だがヒカルに顔がよく似ている(違いはツリ目かたれ目かと髪型くらい)なので男なのだろう。携帯ゲーム機をカチカチやっている。

 もう一人、赤いチョッキ、灰色のシャツのバーテンのような格好をした人はキッチンでコーヒー豆を炙っていた。……コーヒー豆炙るのって、コンロの直火でもいいんだっけ?それともあのコンロの中には薪木が入っているのだろうか。こちらはユウキによく似ている。少し、雰囲気が尖っているくらいだろうか。


「おいおいタスク、君が言えたセリフか?隠密担当のくせに」

「そりゃそうだけど、ほとんど兄貴が力仕事を押し付けるために動いてるようなもんさ。俺よりも兄貴に言ってくれよ、輝兄ィ」

「なんで僕は受身とったのに文句言われなくちゃならないの?教えてよタスク」

「あぁー、少しくらい弟かばってもいいんじゃね?」

「誰?あの3人」


 なんというかおいてけぼり喰らいそうなので七瀬先生に質問する。誰がどうなのか、俺にはよくわからん。とりあえず、輝、タスク、兄貴(仮称)が血が繋がってて、ユウキ、バーテン(仮称)が血が繋がってるくらいなのだろうか。んで、タスク、兄貴(仮称)、もしくはバーテンがヒカルが言っていた『氷川兄弟』?

 俺が質問した意味に気づくと七瀬先生は頭を掻きながら、一人づつ指を指しながら説明していく。


「あぁ、すまんな、バンダナが氷川(タスク)、厨二ブレザーが氷川(レン)、この二人はお前のお仲間のD・アームズ装着者だ。んで、奥の人が」


 最後のバーテン(仮称)を指差した瞬間、豆煎りが終わったようでコーヒーミルに入れ、ユウキがそれを挽き始める。そして近づいてきたかと思うと、全身を見せるようにくるんと一回転したあと横ピースをしながらポーズをとって。


「ANTのスポンサーの天道グループの十代目社長にして4代目D・アームズ長野支部チーム・『ウルトラフレンズ』所属装着者!天道(アユム)でっす!」


 馬鹿なのだろうかこの人。ってかこんなのが社長で大丈夫か天道グループ。あぁ調理器具関連でお世話になってます天道グループ。妙に切れ味落ちにくい上に焦げも落ちやすいと思ったらD・アームズ技術使ってたんすね天道グループ。

 っていうかやっぱりユウキの血縁者かよ。こんな親父だからあんな言動なのかあいつ。


「あれ?ウケ悪いなぁ。こんなんが今わっかい人の間で流行ってるってユウキに聞いたんだけど」


 いやそんなん俺知らんし。という言葉は胸奥に秘め、まあお偉いさんのようだから挨拶をしておく。D・アームズ没収とか喰らいたくないし。


「えっと、斑目通と申します。以後よろしく頼みます天道社長」

「そんな堅苦しくなくていいよ。オレ、そういうの苦手だしさぁ。タメ口でいいよタメ口で。歩さんでいいし呼び方も。勇気とかぶっちゃうし」

「は、はぁ」


 まあそんな外見してるけど。シャツもよれてる、ネクタイしてない、髪もぼさっとしてる。経営とか大丈夫なのか?


「おい、父さん。あんまり常識ある人間を困らせるなよ。こんなかそいつ以外非常識人しかいないんだから」

「まぁ、化物に怯まず立ち向かえる時点で常識人ではないと思うが。ま、確かにこの中では比較的常識人だろうさ」


 ユウキとヒカルがアユムさんを諌める。いや、ヒカル、お前俺のこと言えるような奴か?俺は十分常識を持ってるぞ?譲れない時無視するだけで。

 そんなこと言ってもしょうがないし、どうしようかね。と俺が考えていると、俺はあることに気づく。


「すいません、その右手の手袋は一体……?」


 今の季節は春。流石に手袋をはめるような気温じゃあない。むしろ少し暑いくらいだ。

 俺の言葉にアユムさんは苦笑いしながら答える。


「戦いでの名誉の負傷、ってとこかな。ディバイン・アームズ適合が消えるとはいえ、日常生活で聞き手がない、ってのはなかなかに不便だから」

「ということはその下は、義手?というか、D・アームズ適合が消えるとは一体……」

「あれ?輝君から聞いてないの?」

「悪いおやっさん。NOMEDが校内にいたからな。手短に終わらせてそのあたりの話は一切してない」

「えー?どうせNOMEDの方の誕生した歴史の方に時間割きすぎてそろそろヤバイ予感がして切り上げたとかじゃあないのー?」

「うっ」


 さ、さすが一大企業の社長、鋭い。ってかやっぱりどっかごっそり説明抜け落ちてるところがあったんだな。てか普通に流しかけたけどD・アームズってディバイン・アームズって言うんだな。なんのイニシャルかと思ったら。


「ディバイン・アームズ適合はその名の通りディバイン・アームズ対する適合だ。これを満たすには3つの条件がある。まず一つ、『完全に生身の人間であること』。その2、『ノメドになったことがないこと』。その3、『人間に敵対しようという意思がないこと』。これによってディバイン・アームズを利用した人類種の天敵なんかは生まれないようになっている」

「ほぼ完全に人間の味方、anti・NOMEDってわけですか」

「そーゆーこと。割と重要な情報だと思うよ?腕ちぎられたりしたらほぼ確実にディバイン・アームズ適合消えることになるし」

「なるほど。というか、ディバイン・アームズがD・アームズの正式名称なんですか?」

「いや?俺が勝手にそう呼んでるだけ。Dの本当の意味を知ってる人は全員死んじゃったし」


 歩さんが少し表情に影を落としてつぶやく。


「そうなんですか……」

「うん。ま、なんか口にしやすいってのもあるし」

「そういえば、NOMEDって元は人なんですよね。チェックしたらどうなるんです?」

「あー、やっぱ気になる?それはさ、近くのANT傘下の病院に自動的に送られるようになってるの。ただしチェック以外の攻撃で撃破したらその場にボロボロの状態で出てくるから速攻保護してくれたら嬉しい。あぁ、そうそう、君、生身で使える武器持ってる?」


 歩さんが俺を指差しながら聞く。いや、基本落ちてるもの拾ってるし。


「持ってないですね」

「そう」


 歩さんは俺の返事を聞くと小さく頷き、ロッカーを開け中を探る。……何故にロッカー?

 そんなことを考えていると歩さんが三つの箱を取り出して俺の目の前につきだした。


「携帯できる武器はこれくらいかな」

「ちなみに、中身は?」

「鞭、警棒、ブーメランかな」


 その言葉を聞き俺は少し考える。

 警棒は確かに取り回しやすいが、リーチに難があるし、携帯できる、というのをポケット等に収納しやすいと考えると耐久性、重量なんかも不安だ。ブーメラン?どこの部族だ?まあ、ここはやっぱり。


「鞭、ですかね」

「サディスト?」

「あらぬ誤解だ!?」


 俺は誤解を解くため力の限り叫ぶ。流石に武器チョイスだけでサディスト呼ばわりは勘弁だ。


「あのですね、その三択で選ぶなら、で鞭でして。ってか、俺の得物が槍だと知ってるだろうに!?」

「はっはっは、ブラジリアンジョーク」

「ブラジル!?」


 ヤバイ、あり得ないくらい振り回されてる。目の前の人は俺の気持ちなどお構いなしに笑っている。やべぇ殴りてぇ。


「まぁトオル、僕も気持ちはわかるよ」

「ヒカル……」

「えー、英雄症候群患者に殴られたら流石の俺でもきついんだけどー」


 その瞬間、部屋の空気が凍る。え、なに?英雄症候群って何よ?そう思いながら混乱していたら、ヒカルが歩さんにつかみかかった。


「だから!あなたは何故そう人の隠しておきたいことを何気なく言うんだ!?」

「デメリットは一つ、サヴァンの真逆じゃないか。気にすることもない」

「あなたはだろうけど……!」


 ついてけない俺。呆れてるユウキと七瀬先生。無視してゲームしてる氷川憐。ボーッとしてる氷川相。うむ、ケイオス。あァそんな場合じゃあなかった。早く止めないと。


「待った待った!取り敢えず説明してくれ!」


 右手でヒカルを、左手で歩さんを押して引き離す。このまま殴り合いされちゃあ更においてけぼりだし。


「取り敢えず、説明を」

「あ、すまない。君は英雄症候群について知らないのか。まあ、マイナーな病例だし無理もない。まあ、サヴァン症候群は知ってるか?」

「えぇ、まあ、一応。確か、日常生活等は出来づらい程の障害はあっても、一つの技能において天才的な才能を発揮するとか」

「大体あってる。それの真逆、プラスアルファだ。ただ一つ、致命的なまでに喪失し、その他の基本的身体能力が上昇する」

「……?それだとさほど気にすることはないと思うけれど」

「気にするさ。なんでも出来ると思われて、落とし穴に落ちてもらっても困る。一見どこにも欠点がないように思えるのもこの英雄症候群のリスクだから」

「はぁ、確かにこれも多分出来る!で渡したら大失敗、ってのは割りときついからな。例えるなら料理得意な奴にクッキー作らせてみたら物体X作られても泣きたくなるだけだし」

「そういうこと。まあ、その欠点が神話の英雄の弱点、アキレウスなら踵の裏、メレアグロスなら炉の中の薪のようなものだから英雄症候群と名付けられた。学名ヒロイック・シンドローム。和名は直訳さ」

「なら、ヒカルの弱点って?」


 我ながら不躾だとは思ったが、気になるものは気になるんだから仕方がない。ヒカルは、その質問に苦笑いしながら答えてくれた。


「聞いたって早々突けないぞ?ただ、体内時計が滅茶苦茶ってだけだから」

「え?それくらいなら別に」

「なら」


 ヒカルがいきなり不規則に机を叩き始める。本当、なんだいったい?そう思っているとヒカルが口を開く。


「今僕は、一秒毎に机を叩いているつもりだ。時計の秒針を見なければこんな簡単なことすら出来ない。ギターを弾こうにもドラムがいなきゃリズムはハチャメチャ。まあ、プラスアルファと、何らかのかかわり合いが生まれるから、仕方ないけれど」


 そうぼやきながらヒカルは苦笑する。あれ?そういや


「プラスアルファってなんです?」

「ああ、それは「そこは俺が説明しよう」ユウキ?」


 ユウキがでしゃばってきた。なんだいったい。


「お前、正式名言わないだろう」

「ダサいじゃん」

「お前の無駄に長いんだよ!説明も一気にやる。プラスアルファってのは英雄症候群特有の作用で、脳内の喪失した能力を司る部分に何らかの作用が起こり、特殊能力を獲得する」

「何らかってそんなまた曖昧な」

「しゃあないだろ患者解剖しても死んだらこの病気体に痕跡残さねぇんだから。続けるぞ。ヒカルのプラスアルファは『ブレイキン・スルー』、時流の壁をすり抜ける能力だ」

「僕は時流を超越する車輪(クロノス・ホイール)と呼んでいるが」


 なんだろう、すっげえ物々しい漢字ついてる気がする。字に。

「ヒカルは未だに英雄症候群以外のビョーキ拗らせてるからな。Don't mind、気にするな。まあ、いつも過ごしている時流、これを標準と考え、標準より早い時流、遅い時流があると考える。でだ。普通はこの三つの時流の間には壁があって通り抜けることは出来ない。だが、ヒカルのプラスアルファ、ブレイキン・スルーならば」

「壁は、あってないようなもの?」

「That's light.だいたいそうだ。自由に飛び越えられるが体力をその分消費する、が正確だがな」


 つまり、あのスナップショットの正確さ、目に写らぬ程の素早さは、その能力の賜物、と言うことか。


「その能力があるからこそ、扱いにあまり体力を使わない銃が武器な訳だ」

「……それくらいなら、僕が説明しても良かった」

「お前が最初に俺に説明したとき、説明がノムリッシュじゃなかったら任せてたがな」


 どういうのかは、時流を超越する車輪(クロノス・ホイール)の時点で大体予想がつく。聞きたくもない。


「ってか、通君以外の君たち君たち、五人揃ったよ?」

「「「「あ」」」」


 歩さんの言葉に俺以外のD・A装着者の声が重なる。五人揃ったからどうだと言うんだ。


「チーム名、つけなきゃね?」

「じゃあ部長の僕が」

「あっ、最後に入った人間がつけるルールあるから」

「……聞いてないんだけど」

「言ってなかったし。じゃ、通君、キミの意見を聞こうッ!」


 歩さんがビシィッ!と効果音が付きそうなくらいすごい勢いで俺を指差す。四月一日がやってきてたら指差すなと指を海老ぞりにするところだが、流石に大企業の社長にやる度胸はない。消えたくないし。

 なら、どうする?チーム名、とは言っても俺が簡単につけてよいものだろうか?もしも俺が付けなくても……駄目だ。ヒカルに任せることになる。十中八九。なら、俺が付けるしかない。

 それなら、つけて違和感のないもの、歩さん達のチーム名は『ウルトラフレンズ』だった。なら、それを少し変えて『ハイパーフレンズ』……俺、この集団に友達と呼べるほど馴染みがない。


「真面目に考えるなぁ」

「まあ、自分たちが名乗らなきゃいけないものだからなぁ。そう簡単にゃあ決めらんないぜ父さん」


 なら、学園生活に関係ありそうなもの……情熱、無さそうなのが二人存在、却下。勉学、この集団に関係ない却下。なら、青春……?うん、これなら良さそうだ。これをヒカルに却下されないように外来語に変える。

 ユース、若さってなんだ。振り向かないことか?そもそもサッカーじゃない。却下。なら……


「ジョベンドゥ……」

「へぇ、イタリア語?そして意味は『青春』いい感じだね!」

「?」


 気がつくと肩に手を置かれていた。ソファに今さっきまでいた筈の奴が見当たらない。という事はこいつは氷川憐か。


「ああ、シンプル・イズ・ザ・ベスト、そういうことだ」


 当たり障りないように答えると、レンがクフフと笑う。怖いよ。


「キミ、面白いねぇ。ホント、惚れちゃいそうって奴?」

「俺は男に惚れられる趣味はない」

「あーらら、フラレチャッター。ま、いいけどね。ていうか、いつ気づいたの?僕が男だって事」

「体捌き見てりゃ嫌でも気づく」

「そーいえばキミ、武芸百般、って奴だっけ。ますます面白いなあ。ま、これからタスク共々よろしくお願いねー?」

「あぁ、こっちこそな」


 これで、ANT長野支部チーム『ジョベンドゥ』が結成されたわけだ。さて、何が起こるかなぁ……?

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