1-2step "D・アームズ"トイウ"チカラ"
あけましておめでとうございます。
まだ始まったばかりですが、これからよろしくお願いします。
「……ここらでいいか」
「うわぁっ!?」
俺は投げ飛ばされてソファに着陸する。うわ、学校の備品とは思えない位フッカフカ。
「……さて、一つだけ言っておくことがある」
「なんです……ッ!?」
いきなり顔にストレート。少し前に四月一日にやったが、あの時とは一つ状況が違う。ソファで逃げ場が一切ないせいで衝撃がモロに顔にくる。
「ぐぅ……!?」
「何故力もないのに立ち向かった。それで君が死んだらどうするつもりだった?」
「二つじゃ、ないですか?それ」
「うるさい」
「ぐぅっ!?」
次は踏みつけ。質問に答えろってことか?
「……死ぬ気は、ありませんでした。昔から親父に武道について学ばされてましてね、これでも学んだのは全部段位持ちです。長物もあったし杖道と槍術組み合わせていなそうと思いましてね」
「……結果、君は死にかけた。そのことについて、思うことは?」
踏み付けの力が、少し弱まる。なんだ?この人の気に入るような答えを出したのか?
「もっと、力を。って、思いましたよ」
「何故?今生きているのも、あいつを追い返したのも、僕と勇気がいたからだ。君ができることは、何もなかった。そうだろう」
「頭ん中に響いた誰かの声、そいつが【平穏はない】っつったんで。なら、あぁいうのと、また何度も関わりあいになりそうなんでね。十全に必然、でしょう?」
実際には【助ける代わりにお前の平穏をもらう】という内容だったが。まあ少し変えただけだ。問題はないだろう。
「……そうか」
ヒカルは少し考えるような仕草をしたあと、やはりか、と呟いてユウキの方に顔を向ける。
「勇気」
「あいよ、持ってきたぜ」
ユウキはそう言うと四角い銀の箱をヒカルに渡す。なんだ?あれは。ってか、それよりも。
「待った待った待った待った!まだ俺が出した質問に答えてもらってないぞ!?あの化物のことについて!あんたらの格好について!」
ヒカルは俺の言葉を聞くと、少し考え込んだ後。
「……そうだな、先に説明しておくべきだったか」
すまない。とヒカルは頭を下げた後、ソファの向かい側の椅子に座る。あれ?どっちが上座だ?まあいいか。
「……第二次世界大戦の頃、この国ではある計画が発足した。国力、物量などで連合国に大きく劣る日独伊では当然のことだろう。どれだけ兵士と技術の質が上だろうと、それをどうあがいても覆せない、それ程までに両軍の差は大きかった。そしてその計画の名は『欲力兵士計画』。女子供そして老人、正しく老若男女全てを戦力にする。そういう計画だった」
「……その、計画は?」
「途中までは上手くいってたさ。人の欲望を力に変える粒子、魔欲粒子の発見により、『腹いっぱいご飯を食べたい』、『お国の役に立ちたい』、そういう欲望の人間がこの国にもその頃には多かったから。途中までは、上手くいってた」
「途中までは?」
「ああ。知ってるか?人は、追い詰められてる時ほど互いを思い合う。追い詰められてる側でな。それで上手く行くと思い込まされているから。だから、その逆も言える。余裕が出来てきた頃、ある時、魔欲粒子の生成場であることを願った馬鹿がいた」
その瞬間、二人の顔に影が指す。
「あること?それは、なんです?」
「『人を殺したい」」
押し出すように呟かれた言葉は、俺の身の毛を弥立たせるには十分で、指先の熱が奪われる感覚がした。
「その反応、君もそれなりに倫理観がある人間だそうで十二分だ。まあ、後の事は分かるだろう?」
「力を得た人間が虐殺……!?」
「人間と言って良い物かね。理性もなく本能で動き人に害をなすなら、それは、元人間の害獣と言って差し支えないだろう?フフッ」
ヒカルはそんな人間、いや元人間たちを心が弱い馬鹿どもと嘲笑うように笑ったあと、また仏頂面に戻り俺の方を向いたあと、光に包まれた。
「うっ!?」
そして光が消えると、そこには裾が長い燕尾服のような深い藍色のブレザーを着たヒカルが立っていた。……さりげなく染めてるのな、そのブレザー。
「そして、そんな奴らが急増。そこで、収める為に停戦して全世界で共同開発されたのが、こいつ、【D・アームズ】」
ヒカルは左手に着けられた水色の宝石なようなものが取り付けられたリストバンドを見せながら俺に説明する。
「そして、あまり表取り出されちゃいないが、ここ、長野の諏訪は、さっき話に出た『魔欲粒子』の原産地、と言えるものでな?ここでは、ピーキーな、だが高性能のD・アームズが支給される」
「待て。今説明絶対一つぶっ飛んだぞ」
「あ、ANTの話飛ばしたな。済まない……」
ヒカルはそう言って申し訳なさそうな顔をする。あっれ隣の人笑顔なのに殺気出てきたぞ?どんだけ仲良いのよ。
「いや、説明してくれるならいいんだけれど」
「そうか?ならいいんだが。まあ、ANTってのはアンチ・ノメド・チームの頭文字、A・N・Tを取って付けられている。世界中の大企業の大体はこの組織のスポンサーだ」
「国家じゃなくて?」
「国家もだが、資金的には企業側のほうが多いんでな、D・アームズの技術も一部そのスポンサーに還元されていたりする。元々は軍部なんかがこのD・アームズを使ってノメドを退治していたんだが……ピーキーになりすぎてな」
ヒカルは少しばつの悪そうな顔をして、左手のリストバンドを突き出し、頬を右手で掻きながら説明を続ける。
「この中には戦闘や機能の補助のために神話の神々をモチーフにした自律式AIが存在するんだが、『気に入ったやつじゃないと起動すらしてやんない!』とか言い初めてな」
「はぁ?」
いやマジで訳分からない。『気に入ったやつ』?どんな条件で決めるのやら。
「まあその毛は元々あったんだが、こいつらの大体が少年大好きで。その結果この蛍函仁羽高校にはSEAE、特別課外活動部が設立されたわけだ」
「待って頭痛くなってきた。欲望をもとにした怪物がいて?それに対抗する道具の中のAIがショタコン?はい?待ってこんがらがった」
「ショタコンじゃない。なんか『頑張る若い男』に庇護心をくすぐられるんだと。神様ソックリにしてしまった弊害だ」
リストバンドをさすりながら、椅子から立ち上がる。その後、ユウキから箱を受け取ると俺に向かって差し出してきた。
「さて、受け取ってくれ。僕が君に渡すのは『人を守れる可能性を助ける力』。君が、望む力」
「……あんたらが、使っていたアレなのか?これは……代償は……」
「頭の中の声に聞いたろう?『これからの平穏』、それと、戦いによる代償全てだ」
「そうです、か」
それを聞いた俺は迷わず箱を受け取ると、箱から稲妻が走り、黄金の光に包まれた。
「輝、これは……!」
「あぁ……雷か。5代しか続いちゃいないが、その中でも一人しか出たことがないってやつだ」
「くぅぅぅっ!?」
光と共に電流が俺の腕を伝い体を襲う。思わず離しそうになってしまうが、電流のせいでそれができない。むしろ強く握る結果となる。
「くっ!」
思わずバランスを崩し、尻餅を付いてしまう。片膝を付く程度にしとけ?無茶言うな。電流で関節曲げるのがほぼ無理な状況。後頭部打たないように気合で腰曲げてるんだよ。
そしてその光と電流が収まると、俺の右手の人差し指には金色のメカメカしい指輪が収まっていた。
「おめでとう。君はこれから僕たちSEAEの一員だ。あとで自宅にSEAE所属におけるメリット・デメリットについて等のことが書かれた冊子を郵送しておく。では、一仕事、行っておくか?」
パチパチと拍手しながらヒカルが問う。……はっ、簡単に単純で当然の問いだ。
「―――行くさ。リベンジマッチだろう?」
「分かってるなら、付いて来い。位置はこの」
ヒカルはブレザーの内ポケットからモニターのついた機械を取り出す。そこには、この学校の校舎内の見取り図と、赤い点が光っていた。
「PDAに入れておいた」
「なら、連れて行ってくれ、あの、化物の所に!」
「当然。デビューマッチのリベンジマッチ。レアだな」
「いや、そんなストリートファイトで負けた奴に試合のリングで再戦!的なこと言わなくていいから」
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「じゃあ、僕はここで見てるから。死にかけたら助けに行く」
「じゃあ、助けに来てもらうことはないな」
俺はそうとだけ答え、校舎裏で暴れる化物へと近づいていく。
「おい、化物!」
「グル、オレノ……ジャマヲシタヤロウ……!」
「はっ、吹き飛ばしたら死んだとでも?ありえないだろうんなこと。後、青春を壊すだって?無理無理。高校生の青春の一部分として飲み込まれるさ、お前も!生徒たちは強制下校で家に帰ってるしなぁ!」
「ナラ……スベテ、コワス!」
化け物が俺に向かって突っ込んでくるが、俺は指輪をはめた拳を握りこんで……
「あれ?どうやってD・アームズとやらを装着すんだ!?」
それに気がついた俺は突っ込んできた化物を飛びながら裏拳をし、反動によって回避する。
《呼びかけろ!起動せよと!》
「くっ……!起動せよ!」
突然頭の中に響いた声に従い、指輪に向かって叫ぶ。いや、こうしないと本気で死にそうだし。藁にも縋らないと。そうすると指輪はメカメカしい部分が展開し、中心に備え付けられていた宝石のようなクリアパーツが光を放つ。
《復唱しろよ?コール・イエロー・イザナギ!》
「コール!イエロー・イザナギっ!」
この間も化物の突進を必死にいなしている。めっちゃ辛い。
《セット・アップ!と叫びながら指輪をどっかに叩きつけろ!》
「セット・アーップ!」
とりあえずそうすべきだってのは大体理解出来たので、本当にそう叫びながら化物に右ストレートをお見舞いする。そうすると、指輪から稲妻が走った。
「なぁっ!?」
「ガァッ!」
化物が吹き飛んだ直後、稲妻が俺の方へと襲い掛かる。おいおい、またかよ!?そして俺が衝撃に構えていると、
「……あれ?」
来ない。衝撃来ない。フッツーに来ない。ふと、指輪をはめた拳を見やる。……黄色い手甲が、取り付けられていた。
「ッ!」
近くの窓のガラスで全身を確認する。そこには、黄色いハチマキとそれに取り付けられた鉢当、やっぱり黄色い学ランズボン、その学ランの下のシャツ部分と肩に銀色の装甲、脛と腕に少し黒がかった黄金の装甲がついていた。
「これが、俺の力……!」
負けられない。これが、俺の魂の形なのならば。
化物が雄叫びを上げながら突進してくる。俺に当たる寸前、俺は左手を突き出して。
「グガッ!?」
「直線的すぎるんだよ、お前は!」
巨大な盾を生み出して、真正面から受け止める。体に重さが感じられないので重量不足が心配だったが、この重さが気にならないほどのパワーアシストが働いているようだ。アスファルトで舗装された地面が、少し割れていることに気がついた。
とりあえず、頭のイメージ通りに……!
「ガッ!?」
「は!?」
盾の周りを漂っていた紫電が緑色の蔦へと姿を変えて、化物を締めつけ拘束する。あれ!?あの人ら、雷が俺の属性とか言ってなかったっけ!?
まあそんなことを戦いの中考えているわけにもいけないので、右手に意識を集中し、獲物を生み出す。
「これが!」
生み出し、掴んだ獲物は、槍。
どこまでも鋭く、何もかも貫く俺の背丈二つ分の長さの槍だった。頭に浮かんだこの武器の名前は、このD・アームズの名にふさわしく、名の元となったであろう神が妻伊佐波と共に大地を生むために別天津神から授かった鉾。
「天之瓊矛だぁぁぁっ!」
そう叫びながら槍を突き出し、化物、いや、俺ももうこのD・アームズの装着者なんだ。もう、ノメドと呼ばせてもらおう。ノメドの右目に突き刺し、ノメドの右目から勢い良く血が吹き出し、俺の右腕と天之瓊矛を真紅に染める。だが、怯んでは居られない。
俺は肌に手に持った盾でノメドを弾き飛ばし、止めを指す方法を探る。
頭をぶち抜く?いや、右目に刺したが対して致命傷じゃあない。心臓を突く?無駄だろう。なんか再生しそうな気がする。というか大体魔欲粒子の可能性が、限界がどこまでなのかがまるでわからないし。
思い浮かぶのはあの二人がやっていた特別な技だが、どうやってやればいいのかわからないし。どういう操作をすればいいんだ?
《叫べ!『チェック』と!後は止めに最適な攻撃はこっちで判断する!》
「そうか、てめぇがこの『イエロー・イザナギ』の自律式AIって奴か。俺の何処が気に入ったなんてどうでもいい。今はとにかく、俺の力となれ!」
《分かっている!》
「チェック!」
《 《FANAL ATTACK!》 》
俺の脳内だけじゃない。D・アームズの金属部も振動し、その音を、その詠を奏でる。
そして、槍先に紫電が走り、槍全体が黄金に輝き始める。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
俺が走りだすと同時に、ノメドも構え、駆け出し始める。勝負は一瞬、すれ違い様だ。
「ガァァァァァァッ!」
「クライマックス・ユニコーンッッッ!」
すれ違い様、俺はノメドの脳天に槍先を当てた後、一気に貫き、真っ二つにノメドを引き裂く。黄金の光で魔欲粒子が消滅する化学反応か、引き裂かれた場所から翠の講師が噴き出て、残心の構えの俺の上に降り注ぐ。
「……ビューティフォー……!」
あまりにも綺麗で幻想的な光景に思わずそう呟いてしまう。あ、でも傍から見たら化物引き裂いて「ビューティフォー」とか言ってる危険人物か!?
そんなことを考えていると、パチパチと拍手の音が後ろから聞こえてきた。
「御見事。『ビューティフォー』とは、君も中々クレイジーだな」
「ヒカル!?」
やっべぇマジでそう見られていた。ビビる。
「ま、気持ちはわからなくもないが。奇麗なライトグリーンだものな。あぁ、おめでとう、リベンジ成功だな」
「あ、あぁありがとう、……見てた?」
「いざというとき助けに入るためにな。装着方法はAIが教えてくれたろ?」
「ああ。もしも昔詞だったりしたらどうしようかと思ってたけど……普通に若者言葉だったな」
「ま、通じなくても困るし、今の言葉でしゃべるようにプログラムされているさ」
腕を組みながら壁にもたれかかって話すヒカルはかなりクールだ。……俺も壁際のいぶし銀を目指してみるべきか……?いや、そんなことよりも聞かなきゃならないことがあった。
「そういやあんた俺の属性のこと雷とか言ってなかったか!?蔦とか出てびっくりしたんだが!」
「あぁ、それは所持者の属性だな。D・アームズにも属性はある。だから操れる属性は二つあるといっていい。君の場合は所持者属性が『雷』、D・アームズ属性が『植物』だったんだろう。イザナギは誘う木とも書けるしな」
「へぇ……」
つまり植物も操れたり生み出したりできるってことか。
「あぁ、間違えてそうな顔をしているな。属性自体は変化、操作、増幅、縮小はできるが、生み出すことはできないぞ」
「えぇ!?じゃ、じゃあなんで電気が纏われたり蔦に変わったり!?」
「君も見ただろう?紫電が蔦に変わるのを。あの紫電も静電気を増幅させて生み出されたものだし、槍も盾も静電気を操作し変化させたものだ。あ、属性外の物質に変化させたらもう操作できないからな。まあ元に戻すことはできるが」
「えぇー……」
すごい単純なようで複雑な。っていうことは武器もなんでも作れたりするのだろうか?
「武器とかは細かく材質から形状構造まで細かくイメージできなきゃ簡単に『折れたー!』になるから博打は打たないほうがいいぞ。一辺それやった赤いの知ってるから」
赤いのって……。
「ユウキが?」
「あいつ特撮っていうかヒーロー大好きで。その武器再現してだな」
「『折れたー!』と」
「元ネタ見たらマジでその状況あったんだけどな。まあ、これから宜しく、だトオル」
「……ああ!」
俺は差し出された手を取り、しっかりと握手する。守って見せる。母さんへの誓いを守るために。
「そういえば同級生なのか?無意識でタメ口だったが」
「3年生なら受験シーズンだし、1年生ならこの高校制服の改造可、ってこと知らないだろ」
「パンフレットに記載してないしなぁ……」
~人物ファイル No.1~
斑目 通 (マダラメ トオル)
年齢 十七才 誕生日 10月11日 身長 178㎝ 体重 62キロ
穏やかな両親の元に生まれ、健やかに育つが、十歳の誕生日の時に交通事故で母親が他界。その際にある病気にかかっている。
それからは父子家庭の転勤族となり各地を転々とした。その際各地の道場に入門し、短期間でメキメキ技術を吸収し成長、結果すべての入門した武道の段位持である。ただし、15歳以下段位取得できないものはご都合的に高校1年間のあいだに取得している。
特技は料理と手品、料理は三星シェフ顔負け、手品は小さいものが段々大きいものになっていく手品を得意としている。
生活の知恵はそれなり、性格は少しクールだが人情家。髪色は明るいシルバーのボブカット。指輪型のディバイン・アームズ【イエロー・イザナギ】を駆ってNOMED【ノメド】と戦う。
風間くんは禁句。決め台詞は【ビューティフォー】。
名前は【斑通=普通】から。
でも、ノメドと初見でそれなりに戦えたり、段位をこの歳で複数持っていたり、明らかに普通の高校生ではない。