1-1step "NOMED"トイウ"バケモノ"
書き忘れていたところがあったので12/30修正
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「……それしかないのか!?」
……なんだ?この人。
「仕方がない!やるしかないんだ!」
なんでこの人たちは俺に……いや、振り返ると違う。なんだ?この化物は。ひとのまがまがしい欲望、羨望、嫉妬。歪んだ感情が形になったような、おぞましい化け物。それが、俺の背後で息を荒くし、まるで自分以外の誰も味方じゃない、といった様子でそこにいた。
「やめることはできない!あいつを倒すことが俺たちの使命だ!」
誰なんだよ……なんなんだよ、これ。悪夢か?俺になにかを伝えようとしている神様の戯れ言か?
「勝負は一瞬……か。タイミング、任せるぜ、リーダー」
これは、世界の破滅でも見てるのか?この光景は、そうなのか?瓦礫、暗黒、死屍累々。そうとしか、思えない。でも、周りに建った建造物は、見覚えはないが、どこか懐かしい。なんというか、第二次世界大戦からしばらくした下町のような雰囲気。いや、見たことはないんだけれど。
「僕たちの力を一点集中……彼には悪いけど、やるしかない!」
やめろ、なんだかわからないけど!それは、駄目だ!
「「「「「ウェイクアップ・ゴッヅ!」」」」」
駄目だぁぁぁっ!
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「駄目だぁぁぁッ!」
ゴツン!と鈍い音とともに俺の頭に鈍い痛みが走る。此処は……何て言っても、自分の部屋のベッドだってことは自分でもわかりきってるので、割愛。
「なぁに寝ぼけてんのよ寝坊助。まだ目覚ましもなってないけどさ」
「じゃあ寝坊助たぁ言わねぇよ……」
俺が頭をさすりながら言い返すと手に持たれたフライパンが振りかぶられる。……どんだけ殴る気なんだ?こいつぁ。
「すまん、それは勘弁してくれ。……おいコラ待て。何故お前こんな時間に家にいる!?」
「えー?居候すること言ってなかったっけ?」
「初耳だボケ!今初めて知ったぞ!」
ていうか大体そういう話は俺のほうに連絡が来るはずだ。一応この家の家計管理とか家事とかは俺がやってるし。親父当てになんないからなぁ。稼いでくるのに文句言えないけど。家で散らかしまくりはどうよ?
「まあいいや、今知ったんなら知ってないわけじゃないし」
「ふざけるな!大体お前は……!」
「はいはい。いっつも説教してくるんだから……アンタは私の母さんかってーの」
「あのなぁ、普通は異性の家に勝手に入ってくるとかありえねぇって事だ!麻音!」
「まあまあいいじゃないの通。アンタに襲う気は全くないんだからさ」
「まあな。……飯作るが、お前も食うか?」
「うん!そのつもりでこれ持ってきたんだし!」
麻音がフライパンを持って笑う。……こいつ。
「うちは朝は和食派だ」
「それで?」
「和食と言えば焼き魚だな?」
「うん。それに納豆と味噌汁、お米が付けば最高だよね!」
「焼き魚はグリル、味噌汁には鍋、白米は炊飯器。……ここまで言えばわかるな?」
「うん!納豆炒めるの?それって意味ある?」
「こっちのセリフだ馬鹿野郎。わかってなかったな?わかってなかったんだな?」
「野郎は男に使うものだよ?」
「わかった。じゃあこう言おうか。このお馬鹿。さっさと元の場所にそのフライパン戻してこい!」
「はぁい……」
麻音はとぼとぼと1階へと降りていく。ったく、転校初日だってのに新鮮な気分が全くないってのはどういうこった。
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俺は登校し、職員室に向かった後、割と美人な先生に連れられ、2年2組の教室に向かい、朝のホームルームが終わった後、中へと通され、供託の黒板に大きく自分の名前を書いた後、みんなのほうへと向き、自己紹介を始める。
「……斑目通です。2年の少し半ばと言う中途半端な時期になりますが、これからよろしくお願いします」
堅苦しい?いやいや、こういうときの第一印象って大事よ?色々と。
「はい。それじゃあそうだね……彼女の隣の席に座って……」
「と・お・るーッ!?弁当忘れたッ!」「あぁもうそんなこったろうと思って二つ持ってきといたよほれ」
「……下さい」
「先生ー、そのプロ根性は叱る方向に発揮してくださいー」
俺は麻音に弁当を渡した後、先生に指された席に座る。生徒の視線が俺に弁慶の最期でも再現しろとでも言うかのように刺さりまくる。転勤族だから慣れてるけど……正直、気分のいいもんじゃない。
「こんな時期にこの学校に転校してくるなんて珍しいねー。しかもこのクラス!」
「まあよくある親の転勤でね。元々東京の片田舎に住居を構えていたのだけれど更に飛ばされてここらへんに、って事さ。ま、俗にいう、落ち武者さ」
「落ち武者ー?」
隣の席の子に話しかけられ、俺も返答する。あくまでも当たり障りのないように小粋なジョークでもはさんで……と思ったのだが、あまりうまく意味が伝わってないみたいだ。当たり前だ、俺のバカ。
「落武者はちょっと言い過ぎたかな。ま、親が飛ばされたから着いてきた。独り暮らしは難しいからね」
「なんで?見た感じしっかりしてそうなのに」
「家事はできても金が稼げない。俺もバイト位はしてたんだけど……ま、バイト先の上司と派手に喧嘩してクビになっちゃって。ま、実家暮らしな訳だ」
「へぇ、大変だねぇ」
「だね。そういえば君の名前は?何気なく話してるけど。俺の名前はさっき言ったし」
「私の名前?」
隣の席のセーラー服の女子生徒が可愛らしく首を傾げる。……ていうか、なんで一番普通なはずの(パンフレットで見た感じでは)二組でこんなに服装のバリエーションが豊富なんだよ。セーラー服ブレザー学ラン。来る途中には燕尾服みたいなブレザーを着た癖っ毛の女の子?と、真っ赤に染まった改造学ランをきたロン毛のイケメンが並んで歩いてるの見たし。もしかしたら両方男かもな。スカートは履いてなかったし。
「佐東優衣!大佐の佐に、東の東、それに優しい衣って書くんだよ!」
「へぇ、珍しいね、サトウって苗字、ほら」
俺はノートとシャーペンを取り出し、「佐藤」という字をノートの上に書いてそれを佐東さんに見せる。うむ。それなりに上出来だな。
「大体こういう字、じゃん?」
「あぁうん、よく言われるよ?珍しいねー、って!」
元気だなーっと返したくなってしまったが、なんというか、佐東さんのしゃべり方移ってるし、そもそもそんなキャラじゃあない。俺は普通の家事が得意なキザな台詞吐こうとして失敗する位の人情家。そんな熱血女たらしみたいなリアクションできるか。え?人情家は自分で人情家とか言わない?昔色々あったんだ、察せ。
「ホントに、珍しいよ。名字の由来とか、気になるね」
「えへへ、私も知らないから答えられないや」
かぁいい。なんというか、かぁいい。そうとしか反応できないほど和む仕草をする彼女に……
『え?通、あの子好きなの?仕草に惚れた?……あれ、演技だよ?』
出てくんな田中(彼女いない歴=年齢・当時十五才)!俺の心を惑わすな!
「ど、どうしたの斑目君、いきなり頭かきむしったり」
「はっ、い、いや、頭に出てきた幻想をぶち殺そうか「きっと、佐東さんの仕草で暴れそうになった本能の獣を振り払おうとしたんだろう、ンネッ!」……はい?」
いきなり聞こえてきた男の声、不思議に思っても別におかしくはないだろう。そして、思いもよらない冤罪、エロイ奴、変人のレッテルを貼り付けられそうなはた迷惑な言葉。んで止めに神経を逆撫でする語尾。仕方ないよ。誰でもやるよ。そんな言い訳を今している理由は。
「わ、四月一日君!?」
「……仕方ないよ。俺は悪くない」
「い、一九で君が悪いだろ。ンネッ!最低でも。ンゼッ!」
「ならその神経逆撫でする語尾をやめろーっ!」
顔面にストレート入れてしまった。入れてしまっちゃった。
「小粋なジョークだろう?ンネッ!斑目、トオル君?」
「そうだな、で、何のようだ?後ろの席からわざわざ振り向かせてまで。クラスメート同士の挨拶って訳でもないだろ?雰囲気的に」
「中々、鋭いみたいだ、ンネッ!ま、御得意様になりそうな気配がする、ンゼッ!君からは、な」
そこは「ンネッ!」じゃねぇのかよ、という突っ込みを声帯より奥深くにしまいこんで、適当に返しておく。
「そう、どういう意味でか、聞いておくよ」
「僕は情報屋、だから、ンネッ!君は、恐らくご贔屓にしてくれる、ンゼッ!そうそう、僕の名前は四月一日、條保。よろしく、ンネッ!」
「あぁ、うん。よろしく。で、なんで俺が情報屋なんて利用すると……」
その時だった。校庭の方から爆音が鳴り響き、窓ガラスがピシピシと音を鳴らす。まるで、今朝の夢の予兆のように。
「……ッ!なんだよ、この音!科学部の一組か三組が失敗して薬品爆発でもさせたのか!?」
「それなら、いくらかよかっただろう、ンネッ!これは【ノメド】の仕業だ。S・E・A・Eか弓道部長位しか太刀打ちできない、ンゼッ!」
「ノメドってなんだよ!メノクラゲの親戚か!?それより、近づいて来てるぞ!?音でわかる!」
そう、爆音は未だまだ続いており、着実に近づいている。いくら耳が悪い奴が居ても、窓ガラスが段々震え方が大きくなってきているのを見れば近づいてきているのがわかるだろう。
「……っじゃあ!」
「なんだ、ンネッ!?」
「俺達置いてかれてるのはなんでさァァァッ!?」
「えっ、マジで?」
四月一日の顔が真顔に戻る。そんな言ってる場合じゃねぇけど。
「えっと、念のために自衛用具!」
「いやそれ掃除用具のデッキブラシ……デッキブラシ!?待て待て、ここ海外のクラブじゃねぇよ!?」
「長野の学校ではデッキブラシくらいあるさ」
「知らねぇよそんなこと!?」
俺はそう叫んで突っ込みながらもデッキブラシを掴み、窓からグラウンドの方向を確認する。廊下に出て左。んで非常口ももちろん廊下に出て左。グラウンドの方向に向かった非常口があるのは常識だ。たまーにグラウンドと直角方面にあったりするけど。
「とりあえず、避難!んでおいてかれたことに破損時に突っ込みを入れる!オーケーッ!?」
「もちろんだ、ンゼッ!とりあえず逃げなきゃなぁ!」
「うん!」
そして俺たちは走って廊下に飛び出て、つやっつやに磨き上げられた廊下に足をとられて悪態を吐きつつ、非常口に向かって突っ走る。廊下は走らない?無茶言うなさっさと脱出しなきゃ死ぬっての。得体の知れない怪物近くいんだぜ?さっさと逃げたいわ。だが、急に外に面する窓ガラスがピシリと揺れ、段々と皹が入っていく。……やばい、これは不味い。
「二人とも、後ろに跳べぇーッ!」
俺はそう叫びながら二人の手をとりながら後ろへと跳ぶ。四月一日がデッキブラシの柄がめり込んで「うあっ」とか声あげたのは知らない。
その次の瞬間、異形の怪物が窓ガラスを突き破って飛び込み、今さっきまで俺達がいた場所にクレーターを生み出しながら着地したのを見て、判断が間違っていなかったことを確信する。
「ヴァ……セ、イ、シュン……コワス!」
思考している最中にも目の前に立つ異形の怪物が俺達を撥ね飛ばそうと足に力を込める音が俺の耳に届く。……このデッキブラシで足止め位なら、あの獣のような怪物相手でもいけるかもしれない。
「二人とも、此処は俺に任せて先に逃げろ!」
俺は声を張り上げて二人に逃げるように促す。
「でも!斑目君は!?」
佐東さんが俺と同じように声を張り上げて俺に問う。……どうするか、ね。
「大丈夫だ!君らが逃げたのを確認したら俺も逃げるさ!」
その余裕があったら、という言葉は隠して安心させるための笑顔で佐東さんに微笑みかける。また、母さんの時みたいな目に遭いたくなかったから。
「絶対だよ!死んじゃダメだからね!」
「……当然!」
佐東さんはそういうと四月一日と逃げ始め、笑いながら俺はデッキブラシを槍のように構えてバケモノに対峙する。佐東さん達が廊下の端にある非常口から脱出し、扉かしまった瞬間、バケモノが力を貯め終えて本当に俺と同じくらいの背丈かと疑うレベルの勢いで突進してくる。
「ハッ!」
俺は息を短く嘲り笑う様に吐き出すと、デッキブラシで円を描くように回転させ、俺に当たる直前でバケモノの勢いを逸らし、壁に叩きつけることに成功するも、舞散った破片が目に入り、反射的に右手で右目を擦り、わずかながら隙が生まれ、バケモノ側に死角ができてしまう。
そしてその次の瞬間、バケモノに蹴り飛ばされてバケモノとは反対の壁に吹き飛ばされ、激突する。
叩きつけられた衝撃で肺の中の酸素は吐き出され、肋骨が一本、だろうか、確かに折れた音が俺の頭を駆け巡り、激痛と吐き気でのたうち回りたい感覚に襲われる。
だが、ここでのたうち回れば確実にバケモノの突進で死んでしまう。それは約束をたがえることになってしまう。だが、逃げ出せるような余裕もない。
俺はデッキブラシを杖がわりに立ち上がり、気合いで激痛を我慢、デッキブラシを再び構える。
「ジャマヲ……スルナァァァッ!」
「此方の台詞だ怪物ヤロォーッ!!」
バケモノが叫んできたので叫びかえす。そして隙も見えた。今なら角を避けて無防備な頭を叩ける。バッファロー○ンもロングホーンの下が弱点だったんだ。こいつだって……!
「せやぁぁぁっ!」
結果は、確かに、叩けた。赤子の手を捻るより、動けぬ蠅を叩き潰すよりも簡単に。だが、これは誤算だった。樫の木でできたデッキブラシが、
「……折れたァッ!?」
当然、バケモノも一瞬怯んだだけで、角を俺の左胸、つまりは心臓に向けて突っ込んで来るのが見える。今までこんなにはっきりは見えなかった。いや、回りの時間が遅く流れている。俺の意識以外。つまり、見えても残心で動けぬ俺の体は動かせないし、よしんば動けようがこの折れたデッキブラシで、この吹き飛ばされた衝撃で痺れたままの足で何ができる。
「(……あ、終わった。)」
気づいてしまった。思わず終点をつけてしまうくらいにくっきりと、自分の人生のお終いを。
「(……呆気ないな)」
そして理不尽、いや自業自得。彼処で今さっきまで手元にあった長いままのデッキブラシを囮にして、逃げていたら。
「(……これが、後悔先に立たずって奴か)」
意識の深淵を覗いているようで、心地悪い感覚。そんな感覚に意識を深く落としていると、頭の中に声が響いた。
『……生きたいか?』
「(……そりゃあまあ、当然)」
頭に響く声にそう返しながら目を瞑る。流石に周りの時間の流れが遅いとはいえ目は乾く。
『そうか。なら助けよう。だが、対価を貰う』
「(対価?魂でもとろうって?)」
『そんな悪魔のような下品な真似をするか。簡単な話だ』
瞑っていた目を開く。その目に写ったのは、バケモノと、
それを蹴り飛ばす水を纏った青い金属靴を履いた足と、切り裂く焔を浮かべ吹き出す銀の剣だった。そしてそれぞれの得物の持ち主は勢いのまま俺の視界に入ってくる。青い足の持ち主はくすんだ癖毛、藍色の臍だしボディスーツの上に装甲と鎖が着いた蒼い軍服の中性的な人物で、銀の剣の持ち主は、長い艶のある漆黒の緑髪、赤い長蘭の上からファイアーパターンが刻まれた装甲を打ち付けたような格好の二枚目。どちらもその色を象徴するような属性の物を撒き散らしながらスラスターのついた背中を見せ、堂々と立っていた。
『貰うのは、お前の平凡な日常だ』
「やったね俺、実質ただだぜ」
俺はそう嘯きながらもとに戻った時間を噛み締めながら頬を流れる汗を舐め取る。
「んー、ギリギリセーフってとこか!」
「……死んではないしな。こいつみたいなクリーチャータイプのノメドが出てくるとは、この転校生も運が悪い……」
命の恩人である二人の会話を聴きながら一つ思い出す。この人ら、朝見たわ。あの長ラン燕尾服ブレザーコンビか。こんな桁外れな輩か。パネェ。
「ダイジョーブか?俺ァ天道勇気ッつゥーンだ。勇ましい気持ちと書いてユーキ!宜しくな!転校生!」
「……肋骨がイカれているな。後で隣のロン毛に治して貰え。僕は水野輝。水の野原の輝きと書いてミズノヒカル。宜しくだ。転校生」
喋り方だけだと勘違いしやすいが。てかつい『逆だろ!』と心の中で突っ込んだが。かっるい喋りの方が二枚目のユウキ、物静かな喋り方の方が女顔のヒカルである。これは完璧にどっちも男だ。身のこなしでわかる。だが、そんなことはどうでもいい。聞かなきゃならないことがある。
「ッハァッ……あんたらは、何者だ、そんな、ハァッ、けったいな格好して」
「長い話は後に置いて」「今答えるは簡潔に」「レッド・アポロヌス、天道勇気!」「ブルー・タナトス、水野輝。」「S!E!A!E!」「特別課外、活動部」「「A・N・T。只今参上!」」
「……蟻?」
キレイにポーズまでとって名乗られた。ってかSEAEなのかANTなのかハッキリして欲しい。何語の頭文字を取ったのか判りづらい。そこら辺のツッコミを必死に喉奥に抑え込んでいると、赤と青のメタルダーカラーの二人組はヒカルは軍服を。ユウキは長蘭を翻しながらバケモノへと向き直り、ヒカルは銃口を、ユウキは剣先をバケモノに向けながら揃って唱える。
「「欲望の獣よ、理性あるものに牙を剥くなら、我等理性の象徴が手前等の命を貰承ける!」」
「手前の暴走もデッド・エンドだ!」
ヒカルが一歩踏み出した瞬間にバケモノは足に力を込め飛び出す。やはり、目で追うのが精一杯だ。だが、次の瞬間、バケモノは頭から吹き飛んだ。壁に埋まったのを確認してからヒカルに目をやる。ヒカルは腰だめ(スナップ)ショットで撃ち抜いていたようだ。刹那の早撃ち。その眼差しは冷徹その物で、どこまでも透き通っている。
「グゲラッ!?」
「無駄だ無駄無駄」
「次ァ俺ン番だ!」
そういうとユウキは剣の腹を撫でる。
「猟犬に負けちゃいられないよな、相棒!竜殺し!」
ユウキがそう剣に語りかけると、答えるように剣が煌めき、焔を噴く。
「Haーha!燃えるぜ!」
焔を纏った剣を腰の鞘があるべきところにあるかのように構えると、居合の様に素早く、大胆に飛び込みながら頭上に構え、バケモノに袈裟斬りをする。……最初の構えの意味は?
「天道一刀流壱乃太刀!へ文字切り!」
あー、太刀の切っ先の軌道がへの字型だから「へ文字切り」。……名前ダサっ!
「……頼むから技の名前変えろ。『岾型』とかに」
「えっ、ヤダ」
バケモノ相手にこの余裕、圧倒的な力。この人達、態度はふざけているが本物だ……!
「ゲゲゲ、ガァッ!」
そんなコントを繰り広げている間にバケモノは逃げようとしている。まだ、知性はあるのか。
「「逃がすか!チェック!」」
『『Final Shoot!』』
「アクゥア・シュトローム!」
「ヒーティン・ワーニン!」
ヒカルとユウキは同時に得物をバケモノに向け、叫び、銃口には渦巻き揺らめく水が、剣先には空気を揺らめかせるほどの熱を発する焔が踊る。
「「Jack pod!」」
そして銃口と剣先がバケモノに向けられ、同時に放たれる。……あ、途中でぶつかり合って逸れた。
……えぇー。途中までかっこよかったのにそれって……
「……おい、お前解放のタイミング早いんだよ」
「いやいやいやいや……お前が銃口左にやり過ぎたんだよ」
「僕が悪いってのかてめェー……!」
「その通りだよこの野郎!痛みで腕でも震えたか!」
「……うるさい紅茶ジャンキーカテキンの摂りすぎか!?」
「カテキンにんな効果ネェよ!」
そして始まる責任転嫁の仲間割れ。……醜すぎる。
「……ガッ!」
馬みたいなバケモノは俺を一度チラリと見ると割れた窓から飛び出していく。
「……ヤバ、逃げられた!?」
「……アレは氷川兄弟に追わせよう。それよりも」
ヒカルは耳についた装置を操作したあと、こちらへ歩いてきて、おもむろに俺の胸を手のひらで押した。
その瞬間に俺の体を痛みが走る。その時ヒカルの胸についた宝石玉のような物体が光った気がしたが気のせいだろう。
「うぐぁ!?」
「ふむ……やはりな」
「いきなりなにすんっ……だ。肋折れてるんだぞこちとら……」
喋るだけでも痛みが走る。アドレナリンの分泌が終わったのだろうか、呼吸でも痛みが走り始めた。
「……ユウキ」
「あいよー。直せばいいんだろ?」
ユウキは俺の近くによると俺の胸に手を当てる。また、押す気だろうか?痛む体で精一杯抵抗してみる。銃口突き付けられた。やめた。
「大人しくしてなよー……Gaia Cure!」
ユウキの手が光ったと思うと、俺の体から痛みが消える。……どういうことだ?
「フッフー、『何故治った』と不思議な顔をしているな!ならば教えましょう、俺のD・アームズの攻撃属性は「火」!防御属性は「大地」!生命を司るのは火で、肉体を司るのは大地!大地操作で肉体を修復!火を操作で痛みを取り除く!これこそ回復技能ガイ「うるさい」はい」
ハイテンションで説明するユウキをたった一言で黙らせる。……そういや部長とか言ってた気がする。立場はヒカルの方が上なのか。朝見たときはユウキの方が立場上っぽかったが。
そんなことを考えていると、いきなりでてきた水のリングで捕縛された。……え、なに?重要参考人とか?
「……っと」
そんなことを考えてるとヒョイ、とヒカルに持ち上げられる。俺よりも小柄みたいなのいパワーは俺よりも上のようだ。この不思議な装備の力なのかもしれないが。とりあえず感触は外はもちもち、中はしっかり、といったところか。
「……D・アームズの適合者の可能性がある。連れてくぞ」
「了解リーダー」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。事態があまり把握できていない。あのバケモノ、ノメドとか呼ばれてたけどいったいなんなんだ、あんたらのその格好はなんのためだ、そして今から俺はどこへ連れ去られようとしている!?」
「……話は後だ。そこで教えてやる。SEAE、特別課外活動部の部室でな」