飲料
三題噺もどき―きゅうひゃくにじゅう。
玄関を開けると、蒸し暑い風が流れ出してきた。
リビングとを仕切る扉が開かれていて、少し散らかった机が見える。
ソファの上にはこれまた適当に投げられたクッションが転がっている。
「……」
玄関の鍵を閉め、靴を脱ぐ。
窮屈な靴から解放された足は、汗をかいていて床に痕が残る。
後で拭いておかなくては……手足ばかりに汗をかくから嫌になる。
「……」
鞄を適当に放り出し、とりあえず台所に向かう。
何か冷たい飲み物が欲しい。
外があまりにも暑くて、下校途中から軽い眩暈と戦いながらの帰宅となった。
危ないことこの上ないが、夏場は割とそうなることが多い。
「……」
特に今年の夏は異常な暑さのせいで体調がすぐれないことが多い。
制服は一応、夏服となっているが、制服である以上暑いことに変わりはなく。
もちろん冬服よりは生地は軽いんだろうが、暑いものは暑い。
「……」
1週間ぶりの登校で、疲れたこともあるんだろう。
何せお盆期間中、たいして頭を使うようなこともしていないし、外に出ることもあまりしていない。毎日ゴロゴロとスマホをいじっていただけなんだから疲れるのも当然と言うか。自業自得ではあるんだけど。
「……」
これでも今日は比較的天気も落ち着いていて、若干曇っていたのだけど。
それでも変わりなくじりじりと肌を刺すような痛みはあるし、手足が汗でぬれていくような感覚もあるし、グラグラと頭が揺れるような感覚もあるし。
夏ってこんなにも暴力的だっただろうか。
「……」
暑さと眩暈とのどの渇きで若干朦朧としながら、冷蔵庫を開ける。
冷たい空気が一気に流れ出し、ほんの少しだけ暑さが和らぐ。
もうこのまま冷蔵庫開けてここに立っていたい気分だ。
「……」
そういうわけにもいかないので、冷蔵庫を物色する。
いつもなら冷えた麦茶が用意されていて、チョコレートのおかしも入っている。
後は妹たちが飲む炭酸飲料とか、最近何かに目覚めたのか冷えた水も入っている。2リットルのペットボトルが地味に邪魔で鬱陶しい。
「……」
そのはずなのだけど。
誰かが中途半端に残した、のこり数ミリしか入っていない麦茶。
炭酸飲料はそもそも飲まないので論外。水も勝手に飲むと怒られるので飲めない。
何か甘いものと思っていたのに、チョコレートもない。
「……」
誰だコレ中途半端で残したやつ。
これぐらい飲みきって新しく作れよ。
後で飲む人間が困るんだからそれくらいやってくれ。
「……」
そう思いながらとりあえず麦茶の入っていたボトルを取り出し、残り数ミリのそれをコップに注ぐ。味が薄くなるかもしれないと言うか確実になるが、それに水道浄水の水を入れる。
冷凍庫から氷を取り出し、その中に入れる。
「……」
氷が溶ける間に、ボトルを洗い、新しく麦茶を作っておく。
他の家がどうかは知らないが、我が家は水道浄水の水をボトルにいっぱいに溜めたうえで、麦茶のパックを入れて完成だ。
後は冷蔵庫に入れてある程度時間が経てば麦茶ができている。
……たったこれだけの事なのに何でしないんだ。
「……」
濡れた手を拭き、コップの中身を一気に煽る。
ボトルを洗ったおかげで、手先はいい具合に冷えた。
氷もほとんど溶け、飲み物はいい冷たさになっている。
ほとんど麦茶の味はしないが、ほんのり匂いはする。
夏に限らず、一年中麦茶を飲んでいるから慣れたけど、麦茶って意外と嫌いな人が多い気がする。
「……」
あの子も確か麦茶はあまり好きではないと言っていた。
どちらかと言うと紅茶派みたいな……まぁ、似合うから納得なんだけど。緑茶も似合うだろうな。抹茶とかいいかもしれない。でもあんまり苦みがあるのは得意ではなかったのだったか。コーヒーとかは飲まないよな……。
「……」
1週間ぶりに会ったが、変わらず可愛かった。ちょっと焼けたんだと言っていた。
午前中で授業が終わるので、あまり話は出来なかったけれど。
まぁ、それは夏休みが終わってから話せばいいことだ。
楽しそうに話すあの子が見れれば、なんでもいい。
「……」
明日が楽しみだ。
お題:眩暈・溶ける・台所




