7.育女院
内宮の朝は早い。
まだ空が白み始めたばかりの頃、小さな庭に子どもたちが集められていた。
四歳ほどの幼い子から、十二歳ほどの少女まで。
皆、同じ灰色の衣を着ている。
女官見習い。
これから宮廷で働く者たちだ。
その列の端に、ユィも立っていた。
――もちろん、本当はユィではない。
華国の皇女、ウーユエ。
だが今の彼女は、ただの女官見習いだった。
(……意外と多い)
ざっと見て二十人ほど。
小声で話す子もいれば、緊張して黙り込んでいる子もいる。
その前に立っているのは、年老いた女性だった。
背筋がまっすぐで、ただ立っているだけなのに妙な威圧感がある。
「静かに」
低い声が響いた。
一瞬で庭が静まる。
「ここは育女院」
「宮廷で働く女官を育てる場所です」
育女院。
女官教育を担当する部署。
多くは、現役を退いた元女官長たちで構成されている。
つまり――
宮廷を知り尽くした女たち。
(怖そう)
ウーユエは内心で思った。
女性はゆっくりと庭を見渡した。
「まず覚えなさい」
「ここは華国の宮廷」
「皇帝陛下と皇族に仕える場所です」
「女官は影」
「目立たず、口出しせず、命じられたことを果たす」
淡々とした声。
だが、重い。
「では」
女性は言った。
「名前を名乗りなさい」
順番に自己紹介が始まった。
「リン家の娘、リンシアです」
「商人の娘、ハオリンです」
「農家の娘、チンユエです」
皆、緊張している。
声が小さい。
やがて順番が回ってきた。
「……ユィです」
それだけ言った。
出身も、家も、言わない。
だが誰も気にしなかった。
ここでは珍しくないのだろう。
「よろしい」
女性は頷いた。
「次」
杖を軽く地面につく。
「女官には二つの系統があります」
子どもたちが顔を上げた。
「一つ」
「宮廷の仕事を担う女官組織」
「もう一つ」
「皇族に仕える直属女官」
少し間を置く。
「皇帝付き」
「皇后付き」
「皇子付き」
「皇女付き」
「これは主の側近」
「選ばれた女官だけが務めます」
(ファジョンみたいな人か)
ウーユエは思う。
そして女性は続けた。
「あなたたちが入るのは」
「宮廷女官組織」
「部署に分かれて働きます」
杖が地面に触れる。
「料理房」
「洗濯房」
「裁縫房」
「香房」
「薬房」
「書房」
「灯房」
「清掃房」
「宝房」
「伝令房」
子どもたちの間で小さなどよめきが起きた。
「料理房は食事」
「洗濯房は衣服」
「香房は香」
「薬房は薬」
「宮廷は一つの都市です」
「女官が動かなければ何も回らない」
(なるほど)
ウーユエは思う。
宮廷の仕組みが少し見えてきた。
女性はさらに言った。
「そして女官には階位があります」
杖が再び地面を打つ。
「上から」
「統括女官長」
「各部署女官長」
「上級女官」
「中級女官」
「下級女官」
「そして」
「見習い」
杖が子どもたちの足元を指した。
「あなたたちはここ」
(下から一番)
まあ、そうだろう。
「見習いは」
「部署で働きながら宮廷の規律を学びます」
「失敗すれば罰」
「怠ければ追放」
「重大な規律違反は鞭打ち」
数人の子が息を飲んだ。
(思ったより物騒)
ウーユエは思う。
女性は続けた。
「宮廷は三つの区画に分かれています」
杖が空を指す。
「外廷」
「政治の場」
「官吏と宦官が働く場所」
「内廷」
「皇帝の区画」
「この二つを合わせて外宮と呼びます」
「そして」
「内宮」
「皇后、妃、皇子皇女が暮らす場所」
少し声が低くなる。
「あなたたちは内宮で働きます」
「許可なく外宮へ出ることは許されません」
なるほど。
(覚えておこう)
「さらに」
女性は言った。
「立ち入り禁止の宮があります」
庭の空気がぴんと張る。
「紫薇殿」
皇帝の宮。
「桔梗殿」
皇后の宮。
「火棘殿」
皇子の宮。
「野蒜殿」
皇女の宮。
ウーユエの心臓が一瞬止まりそうになる。
(……私の家)
しかし顔には出さない。
女性は言った。
「呼ばれない限り近づくな」
「理由などいらない」
「見つかれば罰」
子どもたちはこくこく頷いた。
「生活について」
女性は続ける。
「寝室は共同」
「食事は配給」
「時間厳守」
食事。
その言葉に、ウーユエの思考が少し止まる。
(……食べない)
皇后の毒。
まだ解決していない。
宮廷の食事は警戒するべきだ。
(自分で調達する)
料理房を思い出す。
まだ入ったことはないが、
食材が集まる場所だ。
都合がいい。
女性は言った。
「では」
「配属を発表します」
庭の空気が変わった。
子どもたちが緊張する。
紙が広げられる。
「洗濯房」
「裁縫房」
「香房」
名前が呼ばれていく。
「リンシア」
「裁縫房」
「ハオリン」
「洗濯房」
少しずつ列が減る。
そして。
「ユィ」
ウーユエは顔を上げた。
「料理房」
一瞬、沈黙。
(料理房?)
思わず瞬きをする。
だがすぐに頭を下げた。
「……はい」
女性は頷く。
「料理房は忙しい」
「覚悟して行きなさい」
忙しい。
それはつまり。
(食べ物がある)
ウーユエは小さく息を吐いた。
(……悪くない)
こうして。
女官見習いユィとしての生活が、始まった。
そしてその数日後。
ユィは、料理房の入口に立つことになる。
油の匂い。
蒸気。
煮える音。
宮廷で働く者たちの食事を作る場所。
料理房だ。




